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追龍

20/7/21(火)

『追龍』 (C) 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

ドニー・イエンとアンディ・ラウという香港映画を代表する2人が初めて共演するのですからファンには溜まりませんね。しかもドニー・イエンが『イップ・マン』シリーズでトレードマークとなったカンフーを封印し、1960年代に麻薬王としてのし上がっていく実在の男、ン・シーホウを、またアンディ・ラウが汚職まみれになりながらも警察上層部への階段を昇るリー・ロックをそれぞれ熱演。2人の友情と葛藤を折り込みながら警察の公正さが疎んじられていた時代を活写する実録ものですから見逃すわけにはいけません。 2人の出会いから頭角を表すまでの導入部分がテンポ良く紹介されます。1960年、不法移民として中国の潮州から仲間3人と香港に渡ったシーホウはお金を稼ぐため黒社会同士の争いに加勢し警察に拘束されてしまいます。この際に現場指揮のイギリス人警官がけがしたことを逆恨みしてシーホウを警棒で滅多打ちし、それを同郷のロックが助け以後2人の付き合いが始まります。 印象深いのは、黒社会同士の抗争で混乱に乗じて警官の制服を奪ったシーホウたちが封鎖された現場から離れようとするシーン。結局はイギリス人警官に怪しまれて捕まりますが、ガスマスクで顔を覆った警官は本物かどうか見分けがつけにくいことがさり気なく描かれるのです。ガスマスクを装着した警官。こう書けば昨年発生した逃亡犯条例改正案への抗議デモを思い起こしませんか。「中国人民武装警察部隊が香港警察を装っている」といった疑念が出されました。ガスマスクを外して所属する組織を公表しない限り、“偽警官”という疑念を完全に払拭することはできないからです。 香港市民がこのような疑念を警察に持つのは60年代以前の香港警察には黒社会との癒着が横行していたという記憶が根強いからだと思います。劇中で「英国人さえ殺さなければ我々の天下」とロックがシーホウにいう場面も気になります。97年の返還まで香港で主権を行使してきたイギリス本国をバックに英国人警官が警察の人事を抑え黒社会を間接的にコントロールできる様子がうかがえます。では返還後の実態はどうでしょうか。イギリスを中国に置き換えれば、中国の意向をくんだ警察幹部が市民デモを抑え込もうと挑発し暴力をふるうことや黒社会の手を借りることは十分予想できるからです。 こうやって見るとバリー・ウォン監督の撮った本作は、香港警察をめぐる深い闇が形を変え今に至っていることを暗示する作品かもしれません。ビル群すれすれの危険な着陸が日常風景だった啓徳空港や巨大なスラム街の九龍城砦などを登場させノスタルジックな装いを施しつつ、香港警察への冷ややかなる眼差しをさりげなく作品に織り込むという、支配されてきた香港人のたくましき批判精神を再確認する作品と言えるかもしれません。

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