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『SCHOOL OF LOCK!』はなぜ“記憶本”を作るのか? 番組のキーマン・森田太氏に聞く

リアルサウンド

18/7/15(日) 12:00

 音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第10回目に登場するのは、TOKYO FM執行役員 編成制作局長 兼 グランド・ロック代表取締役社長の森田太氏。1995年に『ヒップホップナイトフライト』を立ち上げたり、『やまだひさしのラジアンリミテッド』や『福山雅治のSUZUKI TALKING FM』小林武史との『ap bank Radio』など数々の番組に関わり、2005年には『SCHOOL OF LOCK!』を立ち上げ“海賊先生”の愛称でリスナーにも親しまれる存在だ。

 今回は『SCHOOL OF LOCK!』の約9年ぶりとなる記憶本『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』を中心に、同番組や彼が旗を振る『未確認フェスティバル』、その前身となった『閃光ライオット』の話や、森田氏が思う10代の感覚などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「リスナーに背中を押されたら、作らないわけにはいかない」

ーー今回は『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』制作プロジェクトについてのインタビューですが、『SCHOOL OF LOCK!』(以下、『SOL』)や『未確認フェスティバル』のことなども聞いていきたいと思います。そもそも、『SCHOOL OF LOCK! DAYS』シリーズをなぜ作ろうと?

森田太(以下、森田):僕らは『SOL』というラジオ番組を作っているわけですが、ラジオ番組って、今でこそ聴き逃した人のためのサービスもありますけど、基本的には放送したら消えちゃうんですよ。ラジオの生放送には、その時間・空間にいてくれた人、聴いてくれた人しか体感できない「何か」があって、その体験は二度と戻ってこない。そういうどこか瞬間的で刹那的なものを発信しているんです。そんな時間・空間を、できるだけその時の空気感に近い形やニュアンスでなんとか封じ込めて、これまで聴いてくれた人たちと、まだ聴いてくれてはいないだろう人たちに向けて発信したいと考えたときに、「1年間を1冊の本にまとめて、番組の“記憶本”として出そう」という出口にたどり着きました。それを3年間やり続けたのが、『DAYS1』、『DAYS2』、『DAYS3』でした。

ーーそこから約8年という空白が生まれた理由は?

森田:正直にお話しすると、記憶本を作るのはとても大変なことでした。想いを言葉にして、声にして、それに音楽を重ねて電波に乗せるというのは、ある種の空間芸術みたいなもので、それを「紙」に封じ込めるというのは、もう一つ別の番組を作るというくらいの労力なんですね。それを3年間連続でやってみたら、一緒に制作してくれた編プロのスタッフのヒトが僕らのテンションについていけず辞めちゃったり、実家に帰っちゃったり(汗)。「これを毎年やっていくのは限界だな」と思い、少し休もうと話していたら、あっという間に8年が経ってしまいました(笑)。

ーーではなぜ、このタイミングで『DAYS4』を出すことになったんでしょうか。

森田:3年前の番組10周年の時からずっと制作する構想はありつつも、なかなかアルバムを出さないアーティストの方に近いかもしれませんが、重たい腰が上がらずにいた時に、WIZYを担当しているレコチョクの方が、『SOL』を非常に愛してくれていて。以前出した3冊を手元に持っていて「その4冊目を、WIZYを通して発刊しませんか?」という提案をもらいました。本当に番組を愛してくれているのが企画書からも伝わってきたし、番組を10代のうちに聴いていてくれていた子(リスナー)が社会に出て、僕らと出会ってくれて、そうやって背中を押されたら、もう作らないわけにはいかないですよね。

ーーいい話ですね。『DAYS4』は、校長先生がやましげ校長(山崎樹範)からとーやま校長(グランジ遠山大輔)にバトンタッチしてから初めての記憶本です。

森田:だからこそ、今回はとーやま校長の視点で、彼が見てきた8年間が描ければいいかなと思っています。『DAYS4』は、2010年代初頭からいままでの期間を振り返るものでもあるので、“あるラジオ番組を通して見た、2010年代の10代の実録”というのが大きなテーマです。

ーー実際に制作を進めてみて、これまでと一番違うなと思ったことは?

森田:今回は9年という歴史があるぶん、当時は10代だけど、今は社会人になっている人も対象になりますので、そんな方にも手にとってもらえるような本にする、というのは大きく目的が違う部分ですね。「今の10代って、どんなことを考えてるのかな?」と、仕事帰りのサラリーマンの方が手に取ってくれてもOKな一冊にしたいと思っています。

ーーパートナーにWIZYを運営するレコチョクさんが加わったことで、レコチョクさんが持っている購入者のデータを使って、現在20代の方にもプロジェクトの案内を出されたそうですね。これはメリットになりますか?

森田:『SOL』は10代向けなので、とても力強いメリットです。あと、僕らとしては、前任の教頭だったマンボウやしろさんが、夕方帯で20代向けの『Skyrocket Company』という番組をやっているので、『SOL』と『Skyrocket Company』が番組連動して、この本のことやクラウドファンディングを使う意味について解説していく企画を想定中です。

ーーWIZYを含む“クラウドファンディング”サービスについて、森田さんが思うこととは。

森田:一言で語るのは難しいですが、元来ラジオ番組がリスナーの方々からのメールや届いたリクエスト曲で形成されている、つまり「みんなの想いを集めて創り出されたもの」という側面で考えると、クラウドファンディングとラジオはある意味近しいものと言えます。世間的には懐疑的な意見もあるかもしれませんが、そんななかで各社がサービスを始めたことで、参入障壁も下がったし、親しくさせてもらっているレコチョクさんが「音楽に特化したサービス」としてWIZYを始めてくれたことで、僕らとしても挑戦しやすくなったことは確かです。決済手段が今以上に増えると、もっと若い人も支援できるようになると思うので、ユーザー側のハードルを下げていくことにも期待したいです。

ーーTOKYO FMさんは同じくレコチョクさんと組んで『未確認フェスティバル』を開催しています。同フェスは『閃光ライオット』を前身としたものですが、どうして名前を改めてスタートしたのでしょうか。

森田:『SCHOOL OF LOCK!』の延長線上で、10代限定の夏フェスとして『閃光ライオット』をスタートさせたんですが、8年目にして、一緒に組んでいたパートナーと円満にお別れすることになりました。これも番組本(『DAYS』)同様に、相当なエネルギーを使うプロジェクトなので、しばらくお休みしようかと考えていたのですが、そのときにひょんなことからレコチョクの方に「NTT ドコモさんとタワーレコードさんと組んで、『Eggs』という新人アーティストの音楽活動支援プラットフォームを始めるから、一緒に10代限定の夏フェスをやろう」と声をかけてもらいまして。驚いたんですけど、同時に何かの暗示だとも思ったんですよね。

ーー暗示とは?

森田:『閃光ライオット』は、当時のパートナーである最高にロックな方と意気投合して始めたんですが、2年目の開催中、その心強いパートナーが急遽、帰らぬ人となってしまいました。それ以降、その方の意思を宿した仲間たちと共に奮闘してやってきたのですが、切りのよいタイミングが来たのもあり、このフェス自体を休止、または終わらせることも考えていました。そんな時期にレコチョクの方から思いもよらない場面で、一緒にやりませんか?と声をかけてもらったので、暗示というと大げさですが、これは天国から「このフェスは、続けろよ!」って言ってるんだなあと思って。なので、『閃光ライオット』を一緒に作ってきた方々にも改めて報告をして、名を改めてスタートした、というのが『未確認フェスティバル』立ち上げの経緯です。

ーー実際にEggsと組むことで、変化した部分は?

森田:以前は1次審査でCDを送ってもらって、2次審査で750人程に絞ったうえで全国8~10都市に飛んでその全員に会いに行く、という極めてアナログな手法を取っていたんです。各都市で2日~3日間、ずっとスタジオで代わるがわる10代の子に会うというのは、なかなか気力のいることでした。そのおかげで高校時代の米津玄師くんとかに直接会えたりと、かけがえのない経験を得られたことも間違いないんですが、Eggsを使い始めたことで、もっと効率よく、それぞれの音源や動画をネット上で審査できるようになったのは大きな進歩だと思います。応募者もオープンになることで、審査段階からファンがついたり、SNSが可視化されることでアップしている音源以外のクオリティも確認できたりと、良い意味でも悪い意味でもすべて筒抜けになったことで、結果、審査の精度も上がった気がします。

ーーたしかに、過程がオープンになることで、よりフェアに見えますよね。

森田:そうですね。あと、リスナーの方々に審査へ参加してもらうことで、リアルなマーケットの感覚を知ることもできて、僕としては収穫も多かったです。

「僕らは何百年後の未来に“鍵”を託すために放送している」

ーーそうして『SCHOOL OF LOCK!』や『未確認フェスティバル』などで、日々10代のアーティストやリスナーと触れ合っているわけですが、そのなかで森田さんから見た今の“10代”というのはどのように映っているのでしょうか。

森田:まず表層的なところだと「Tik Tok」などにも顕著ですが、自分たちの顔をネット上へ出すことになんの抵抗もない。しかも出したことで危険に晒されるようなこともそこまでないわけで、彼らのなかでニューモラルが完全にできあがっていると思います。裏アカ等含めて「遊び場」がたくさん増えた感覚というか。そのぶん、インターネット疲れ・SNS疲れという新しい症状も生まれてきたわけですが、別にそこに対して多大に悲観的になるわけではなく、ある程度耐性もできているようにも見えます。よく「ネットネイティブ」なんて言葉が使われますが、僕にとってそれは「インターネットに詳しい」とか「検索の仕方が上手」ということではなくて、「インターネットに対するあらゆる耐性を持っている」というステータスなんですよ。耐性というか抗体というか。

ーーそんなネットネイティブな世代になったにも関わらず、10代のリスナーが番組を聴き続けてくれているのはなぜだと思いますか?

森田:例えばコンサートに足を運びたいとか、我々のような不器用な音と言葉のメディアに耳を傾けて聴いてみたいと思ってくれたりするというのは、時代的な感覚の揺り戻しのような気がします。『未確認フェスティバル』に応募してくれる10代の子たちと毎年触れ合ってると、10年前とそこまで変わっていないんです。すごく不器用で、生きることに対して少し悩んでいる子たちばかりで。だから、音楽で何かを表現したくなるんだなと思うんですが、その日常に対するモヤモヤみたいなものは、どんなに世代を取り巻く環境が変わっても、共通しているんでしょうね。

ーークラスの端っこ的な感覚というか。

森田:そうですね。『SCHOOL OF LOCK!』や『未確認フェスティバル』が接している子たちの特徴って、とりわけクラスで言うと、一番後ろにいるイケてるチームでもなく一番前にいるガリ勉でもなく、ちょうど真ん中の窓際あたりでヘッドフォンをして、窓の外をボーっと見てるようなタイプかなと想像してます。

ーー番組では近年、著作権に対する授業や、山口一郎(サカナクション)さんが音楽業界で働くスタッフの仕事内容を紹介するなど、音楽のことをもう少し深く知る機会をより設けるようになった気がします。

森田:まあ、基本的には“学校”なので、授業の一環として大事だと思っているから伝える、というのはどのジャンルにおいても変わらないです。ただゲラゲラ笑って終わるよりは、その中に1つや2つくらいは学びがあった方が良いですよね。「みんなが聴いてる音楽は、こういう権利で守られてるよ」っていうことを知っていくのは、アーティストのインタビューを読んで「この曲は、こういう思いで作られたんだ」ということを知るのと同じくらい大事だとも思うので。かといって、あまり啓蒙主義には陥る気もないので、そこはうまくバランスを取ってやっていきたいですね。山口一郎君がやってくれてる企画は、まさに、僕らのそういう思想を体現してくれていると思います。

ーーあのような内容を10代向けにお話しするのって、かなり勇気のいることだと思うんです。

森田:それを言われると、『SCHOOL OF LOCK!』という番組を放送すること自体、かなり勇気のいることだと思いますよ。詳細は省きますが(笑)。自分たちが生きてる時代だけ得しようとするなら、もっと違う内容を放送してるかもしれません。聴取率が無条件で取れるような。まあ、でも僕らは何百年後の未来に「鍵」を託すために放送していて、番組の存在に気づいてくれたリスナーの子たちが社会に出て、今回の『DAYS4』のように背中を押してくれるわけですから、やっていて良かったとここにきて改めて感じさせてもらっています。それに、アイドルやアニソンのシーンにも、この番組を聴いて育ってくれて、出たいと思ってくれる、橋本奈々未さん(元乃木坂46)、LiSAさんみたいな人がいるわけで。シーンやジャンルを飛び越えて番組を愛してくれる人が次々に出てきてくれているので、僕らもその期待に応え続けないとな、と思います。

ーーちなみに、森田さんは現在、『SCHOOL OF LOCK!』にはどのような関わり方をしているのでしょうか?

森田:今は、放送局全部の番組の責任者という立場ですので、SOLだけに関して言えば、高校サッカーでいうところの“総監督”ですね。現場の監督もコーチもいるなかで、少し離れたところから「いいぞー!」とか「そこでシュートだ!」みたいなことを言ってるような(笑)。

ーー「舵取りをする人」でもなく、「舵を取っている人に指南する人」のような?

森田:「舵を取っている監督の耳元で囁いてる人」ですかね(笑)。

ーーなるほど(笑)。ラジオはアプリとの連携がより密になるなど、より多くの人が聴ける環境へと開かれていっている印象があります。実際、その実感はありますか?

森田:実際の大きな聴取率的なデータで言うと、ラジオを聴く人自体はそこまで増えていないです。ただ、実態としては、多くの人がラジオに意識的になってきた実感はありますね。僕はSFマニアなので、こういう妄想をよくするのですが、いろいろなネットサービスが出てきたことで、放送と通信の境が溶け合って、「電波帯域としてのラジオ」というメディアは変化、または進化していくと思っています。音楽もラジオ放送も、通信のうえでは同じ「音声コンテンツ」じゃないですか。そうして、例えば「かつてラジオと言われていたもの」が、音声コンテンツとして形態を変えて、「新しいメディア」になっていくのかもしれない、というワクワクがあります。

ーーメディアや通信方式がそのときの時代に応じて名前を変えていくように、ラジオもまた変わる可能性があると。

森田:そのうち古い喫茶店でWi-Fiのマークを見つけて「Wi-Fiとか懐かしいー!」とか、「昔はインターネットって言ってたねー」なんていう時代がくるような気もしているので(笑)。

ーー音楽もラジオも「音声コンテンツ」として全部ひとくくりになった未来があるとして、音楽そのものはどう変わっていくと思いますか?

森田:より肉体的になっていくと思っています。映画『マトリックス』の生身の人間の都市、ザイオンみたいなものというか。VRの発展にも顕著ですが、汗が飛び散る臨場感や温度を感じることができるって、コンテンツに人間的な感覚がもたらされることに価値が発生してきているじゃないですか。例え打ち込みの音楽だとしても、デジタルな記号に「人間だからこそ出せる声や感情」を乗せることが、より重要でエキサイティングになってくるかもしれません。

ーーそういう時代に移り変わっていくとして、森田さんは今のお仕事の領域において、どのように関わっていくつもりなのでしょう。

森田:ラジオも、そういう意味ではよりフィジカルになっていくかもしれません。『SCHOOL OF LOCK!』は、生電話のコーナーもあったりと、典型的な生放送の番組で、その場でリアルに話して、お互いの生存を確認して、その時聴きたい曲、掛かるべき曲がオンエアされるんですが、そういう感覚がさらに研ぎ澄まされていくような気がします。そうなったら、ラジオや音声メディアは、24時間全部生放送でやるのも面白い将来像かもしれません。ラジオはON AIR、つまり生身の人間が生きるために必要な「空気の中」に居ますからね。

(取材・文=中村拓海/撮影=はぎひさこ)

■プロジェクト情報
WIZY「ラジオの中の学校、SCHOOL OF LOCK ! の記憶本『DAYS4』制作開始!」プロジェクト
プロジェクト期間:2018年4月26日(木)22:00~2018年10月31日(水)23:59
プロジェクトURL

■書籍概要
『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』
判型:A5サイズ
予定価格:1,500円(税込)
ページ数:176P(予定)
販売:レコチョク「WIZY」にて先行販売。のち、番組発イベントやTOKYO FM通販サイト等にて販売予定。

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