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片桐仁の アートっかかり!

カメの目線で絵画鑑賞? ユニークな展示空間でアーティストご本人との対談が実現!『千葉正也個展』

毎月連載

第26回

左:片桐仁 右:千葉正也さん

今回、片桐さんが訪れたのは東京オペラシティアートギャラリーで開催中の『千葉正也個展』(3月21日(日)まで)。近年、国内外で注目されているアーティスト、千葉正也さんご本人と一緒に展覧会を体験してきました。

カメが歩く展覧会

── いつもは展覧会を企画した学芸員の方にお話を伺うところ、今回は千葉さんが一緒に回ってくださるんですよね。というのも……。

片桐 千葉さんと一緒に展覧会を拝見できるということで楽しみにしてきました。

千葉 片桐さんのラジオを昔からずっと聞いていて、いつもラジオに励まされていましたので僕もお会いできることをとても楽しみにしていました。この展覧会で展示している作品の中には、片桐さんのラジオを聞きながら描いたものもいくつかあるんです。

片桐 それはうれしい! それにしても……、不思議な空間ですね。たくさん作品があるけれど、壁にかけられている絵はほとんどない。館内を通路のようなものが突っ切っていますが、これはいったい?

千葉 この通路はカメが美術館をぐるりと一周できるようになっていて、この通路をカメが自由に歩けるようになっています。展示作品はそのカメの目線に合わせて配置しています。

今回の展覧会は2006年から新作までを揃えた展示内容なのですが、単なる回顧展にしたくはなかったので、このような形になりました。

片桐 カメのため! だから、回り込まないと見えない絵が多くあるのか。人間よりもカメ優先って、その発想だけでもおもしろいですが、作品もまた興味深いものが多いです。絵画にインスタレーション、映像作品もある。

千葉 さまざまなジャンルの作品を制作していますが、自分の主軸はあくまでもペインティング(絵画)だと思っています。絵画のことを進めるうちに、他のメディアを使った作品ができていきました。

描く前に作る? 独特の制作過程

── 千葉さんの絵画作品は、絵を描くまえに、まず立体作品を作り、身の回りに配置してから描くという独特の制作手法を取っているんですよね。

《泣き頭 吐き頭》2015年 タグチ・アートコレクション蔵
《Pork Park #4》 2016年 個人蔵

千葉 この描き方は学生のときから行っていて、現在まであまり変えることなく続けています。

片桐 わざわざ作る! おもしろいことを考えつきますよね。そして、その絵がとても不思議で幻想的で、絵が上手。作品のなかに情報量が多いから1枚の作品をずっと見ていられますね。ここまで描き込んでいると、1枚の絵を描くのに相当時間がかかっていそう。

千葉 けっこう速いんですよ。学生時代に、造型屋でアルバイトをしていて、食玩などの原型を作っていました。そこでは、実際の色と同じ色を絵の具やペンキを調合して正確に早く再現することが求められていたのですが、その時の経験がとても役立っています。

片桐 僕はどの色にしよう…って悩んで、なにもせずに数日経っちゃったりする。うらやましいです。

《殺された孫悟空(…でもいったいどうやればあんな奴を殺せるっていうんだ?)》2020年 作家蔵

片桐 ドラゴンボールの絵もある。展覧会のフライヤーにもなっている作品ですね。

千葉 1980年生まれなので、まさにドラゴンボール世代です。この作品は《殺された孫悟空(…でもいったいどうやればあんな奴を殺せるっていうんだ?)》というタイトルです。

片桐 なんだそりゃ(笑)。現場検証の絵なんですかね。

千葉 悟空は包丁くらいでは絶対死なないですよね。

こんなアイテムもキャンバスに? 作品に?

── すっかり千葉さんの作品に魅了された片桐さんですが、通常とは異なる場所に作品が置いてあることにも気づいたようですね。

片桐 作品のサイズも大きかったり小さかったり、支持体もキャンバスだったり、麻布だったり。知っているものがモチーフになっていたりと、バラエティ豊かで見ていておもしろいです。あれ?床の上にも作品があるぞ。

《温かいキュレーター》2020年 作家蔵

千葉 キュレーターや監視スタッフ、警備員さんや受付の方の肖像画を、ホットカーペットや電気毛布に描きました。この方は展覧会担当キュレーターの堀さん。ホットカーペットだから踏んでも大丈夫なんですよ。

片桐 ホットカーペットだから「温かい」シリーズなんですね。ほんとだ、触るとホカホカ。でもやっぱり、踏むのは躊躇しちゃうな〜。監視スタッフさんの肖像画もあるんですね。本人が横に座っている時に見に行ってみたいな。知らずに見に来たお客さんもびっくりするところを見てみたい。

《温かいギャラリースタッフ#5》2020年 作家蔵
《Jointed Tree Gallery #8》2021年 作家蔵
※作品内作品 三木富雄《EAR》 兒嶋画廊蔵

片桐 このオリーブの木、あれれ? これは三木富雄(耳をモチーフにした彫刻作品で知られる人)の作品ですよね? 耳の彫刻ばかり作って、若くして亡くなった芸術家の。

千葉 さすがですね。これは本物の作品をお借りして展示しています。

木の上に作品を展示するプロジェクトを毎年オープンスタジオの時期にやっていて、今回は美術館での展示ということで信用も得られやすかったり、交渉もしやすいと思ったので、普段なら借りられない巨匠の作品を展示できるかもと思いました。三木富雄は子供の頃からずっと好きな、特別違和感がある作家だったので、コレクションされている方に趣旨を説明して交渉したら快く貸して頂けました。

片桐 キャプションもなく、さらりとこんな作品を見ることができるのがすごいな〜。目線の上のほうにあるからスルーしちゃったらもったいないですね。

《泣き頭 吐き頭》(部分)2015年 タグチ・アートコレクション蔵

片桐 文字が書いてある作品も少なくないですね。これはなにか意味があるのですか?

千葉 作品を描く時、その時々に気になっていた言葉を書きとめたり、そのときに何があったのかわかるような写真や物を配置することがあります。この作品を描いた頃は安倍政権下で安保法案が強行採決される時でした。ある政治家が記者にこんな言葉を言ったと報道がありました。だから、その言葉を描いておこう、と。忘れないように。

片桐 絵に直接文字を書こうとすると、文字がこんな角度にならないですものね。読めるように書いてしまう。あえて絵の一部として描くことで、また別の意味がでてくる。

ついにカメとご対面

── 会場内のどこかを歩いているカメ。展覧会の後半部分でようやく出会うことができました。

片桐 ようやくカメがいた! 思ったより大きいですね。

千葉 これはローラという名前のヒガシヘルマンリクガメ。かれこれ10年くらいの付き合いです。カメをモチーフにした作品は以前からいくつか描いていて、見比べてみるとどんどん成長していることがわかります。

《タートルズ・ライフ#2 ライオンの様に勇猛で逞しく》2012年 オレンジカウンティ美術館蔵

千葉 この作品を制作しているときは、カメにライオンのイメージを見せていました。『ライオンの様に勇猛で逞しく』というタイトルがついています。

片桐 ローラまだちっちゃい! ライオンの写真にライオンのTシャツ、ライオンだらけだ。英才教育ですね。

《タートルズ・ライフ》2010年 個人蔵
《タートルズ・ライフ #3》2013年 東京都現代美術館蔵

片桐 絵だけでも非常に面白いのに、その作品が成立するまでの話を聞くと、さらに面白いです。もっと見たい、知りたいって気持ちになってきますね。

── そして、バックヤードにも展示空間が。そこにはローラの相棒のジェニファーが。ジェニファーには展覧会場内の様子を生配信している映像が見えています。

片桐 我々がカメや作品をワイワイ言いながら見ていたと思いきや、それをさらに別のカメが見ていた……、衝撃の事実! ジェニファーがどれくらい理解しているのかはわからないけど。

平面作品が持つ力

── 表現の幅をさらに広げていく千葉さん。なんと、人の顔をもキャンバスにしたことがあるそうで…。

《自画像 #3》2015年 シュウゴアーツ蔵

片桐 人の顔もキャンバスにしちゃうんだ。しかし、千葉さんの画力がすごいから、元の人の顔と、千葉さんの顔が溶けあってすごい。

千葉 いろいろな職業の方に、自画像が描かれた状態で朗読をしてもらったり、演舞をしてもらったり、授業をやってもらったりしました。

片桐 映像作品を作っていても最終的には紙の作品を作り、平面の世界に落とし込んでいくのが面白いです。

千葉 平面で得られる体験が好きなんです。美術館などを見てまわっていても、絵画を見る体験は面白い。メディアとしても一番おもしろいのではないでしょうか。世の中の中心にある力をなんとなく感じられるんです。

── 展覧会場の一番高い場所に展示してある作品は《平和な村》というタイトル。これまで絵のために作ってきたオブジェがずらりと並べられています。

《平和な村》2019年 東京国立近代美術館蔵

片桐 さっき見た絵のなかにあったオブジェがここにもある!

千葉 同じタイトルで、同じコンセプトの2006年の作品と比べると、オブジェの数がだいぶ違いますね。これは自分のアーカイブにもなっています。

《平和な村》2006年 高橋龍太郎コレクション蔵

片桐 15年の間にそれだけ千葉さんが活躍したってことですよね。将来、また同じタイトルの作品を描くとしたら、その作品はもっとたくさんの立体物が並んでるようになるのかな。その作品も楽しみです。アーティストの人に直接お話を伺えると、見え方が全然変わってくるんですよね。発想の仕方もすごいと思いました。絵を描くためにわざわざ立体作品を作っちゃうって、ほんとおもしろいなあ。そしてなにより、僕たちのラジオを聞いててくれるっていうのがうれしかったですね。今日はとても刺激を受けました。

構成・文:浦島茂世 撮影:星野洋介

プロフィール

片桐仁 

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。舞台を中心にテレビ・ラジオで活躍。TBS日曜劇場「99.9 刑事事件専門弁護士」、BSプレミアムドラマ「捜査会議はリビングで!」、TBSラジオ「JUNKサタデー エレ片のコント太郎」、NHK Eテレ「シャキーン!」などに出演。講談社『フライデー』での連載をきっかけに粘土彫刻家としても活動。粘土を盛る粘土作品の展覧会「ギリ展」を全国各地で開催。

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