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角松敏生ワークスの名曲コンパイル集がチャートイン “ディガーの精神”に訴えかけるプロダクションの歴史的意味

リアルサウンド

20/8/1(土) 10:00

参考:2020年8月3日付週間アルバムランキング(2020年8月20日~2020年8月26日)(https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2020-08-03/)

 2020年8月3日付のオリコン週間アルバムランキングで首位を獲得したのはBiSH『LETTERS』で、推定売上枚数は54,383枚。当初のシングルの予定を変更して7曲入りのアルバム(3.5th、と掲げる通り、やや変則的な立ち位置にある)とした一作である。BiSHは今月上旬にベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』をリリースしたばかりで、今週の6位にもランクインしている。ちなみに同作はフィジカルオンリーの発売、かつ収益をすべて全国のライブハウスに寄付、というCOVID-19下の緊急アクションでもある。

(関連:ブレッド&バター、大瀧詠一、古家杏子から林哲司まで ディープな選曲によるシティポップコンピ『Pacific Breeze 2』評

 ほか、トップ10内を見ると、初登場としては4位のスターダスト☆レビュー『年中模索』(8,145枚)、10位のヴァリアス・アーティスト『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』(3,301枚)がランクインしている。

 さて、今回ピックアップするのは10位の『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』(以下、『GOOD DIGGER』)。タワーレコード限定流通の『角松敏生ワークス -GOAL DIGGER-』と同時リリースされた、角松敏生の仕事を振り返るコンピレーションアルバムだ(ちなみに後者は12位にランクイン)。『GOOD DIGGER』は2枚組32曲収録のボリュームで、全曲が2020年版のリマスタリングを施されている。1983年から2010年の30年弱にわたるプロデュースワークからレコード会社の枠を越えてコンパイルされた楽曲は当然ながら粒ぞろいだ。西城秀樹、中森明菜といったアイドルとの仕事や、杏里、JADOESなどキャリアを語るうえでは欠かせない仕事をはじめとして、プロデューサーとしての角松敏生の姿がありありと浮かび上がる一作となっている。

 リバーブのきらびやかで独特な質感をはじめとして、角松のプロダクションには一貫してラグジュアリーな華やかさが感じられる。鋭いアタックのドラムや歯切れ良いブラスが軽やかに跳ね回る様子はいかにも景気が良い。しかし、それらが決して表面的な派手さに回収されず、むしろ作り込まれたハイファイさから漂う、職人的なスタジオワークが醸し出すエレガントさに包み込まれているのが興味深い。JADOES「HEART BEAT CITY (Extended New Re-mix)」「FRIDAY NIGHT (Extended Dance Mix)」など、テープエディットやスクラッチといったDJカルチャーの要素を貪欲に取り入れてきた角松のキャリアを映し出す楽曲も収録されているのが嬉しい。

 とはいえ、自分がこうした角松敏生のシグネチャーと言うべきサウンドにこうして(ある種非歴史的な態度で)接することができるのも、2000年代末から2010年代を通じて培われてきた感性によるものが大きい、ということも認めざるを得ない。言ってみれば、DJやコアなリスナーを中心としたディガー、とりわけリアルタイムで80年代や90年代の角松の仕事に触れたわけではない(触れていても、少なくともそれと意識してはいない)若い世代からの再評価なしには、この独特なハイファイさやリバーブ感に向き合うことはなかったように思う。「DIGGER」という語をタイトルに掲げた(もちろん角松の1985年作『GOLD DIGGER ~with true love~』をふまえたネーミングである)このコンピレーションは、意図せざるものかもしれないが、そこによくフィットしているように思えてならない。

 自分は決していわゆるディガーではないし、かつてそうだったこともない。としても、ディグの精神に突き動かされてきたリスナーのつくりあげた価値観に深く影響されている。たとえば、『GOOD DIGGER』を再生しながらそのサウンドに聴き惚れるとともに、「ああ、再生速度落としたいな……」と思ってしまうのは、そのひとつの片鱗かもしれない。ディガーというのはレコードに、あるいはその作り手に対して最大限の敬意を示しつつも、しばしば不実な存在でもある。思うままサンプリングしたり、リエディットしたり、あるいはそうした技術的な操作を加えなくとも、変わった視点から作品に耳を傾けてみたり。そこには常にレコードというメディウムを介した、送り手と受け手のあいだのすれ違いが潜在している。だからこそ、新たな光を当てた再評価が成立する。

 『GOOD DIGGER』のリリースに寄せたコメントで角松は、このコンピレーションが自分の仕事の「歴史的意味を継承することができるなら、そしてそれが未来の役立てに少しでもなるなら」と希望を託している。だからやはり、否が応でも、敬意と不実さの入り交じるディガーの美学が作り出す(少なくともその一旦を担う)歴史と未来のアンビバレンスに、思いを馳せずにはいられないのだ。(imdkm)

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