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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

現代日本を泳ぐ気鋭のクリエイターに聞く「現代クリムト講座」

市原えつことクリムトは、重ねる

特集

第8回

19/4/20(土)

現代クリムト講座の第8回は、日本の伝統的な文化にデジタルを取り入れアップデートするアーティスト・市原えつこさんに話を聞きます。以前からクリムトが好きだった、という彼女は、クリムトのどのような姿勢に共感してきたのでしょうか。

文=田尾圭一郎(ライター)

先日、久しぶりにある大学時代の友人と杯を交わした。やんちゃをしてた頃の甘酸っぱくも苦い思い出を横浜の中華街で語り合い、ぼくらはその気持ちのまま、(当時のように)コンビニで缶チューハイを買って、ガードレールにもたれながら二軒目(?)とした。人は思春期特有の“私ってなんなのだろう”という問いかけの時期を過ぎると、多層的・多面的になっている自分をある程度鈍感に受け入れられるようになる(なってしまう)。会社にいるとき、家族といるとき、SNSで投稿しているときの自分の仕様は異なるし、何よりもそんな自分を客観視できるようになる。子供を持つと仕事で関わる人それぞれに「この人はどんな“親”なのだろう」という疑問が浮かぶし、いっぽうでくされ縁の友人とくだらない話で飲んでいると「こいつは果たしてどんな“社会人”なのだろうか」という心配が浮かぶ。

グスタフ・クリムト《女の三世代》 Roma, Galleria Nazionale d’Arte Moderna e Contemporanea. Su concessione del Ministero per i Beni e le Attività Culturali

「クリムトはどんな画家だったのだろうか」という疑問は画家ゆえによく想起されることだが、では「どんな父親だったのか」「ビジネスマンとしてはどんな側面を持っていたのか」という疑問はそうされず、画家本人の考察を深めるのはもちろん、作品の解釈をも多様にしてくれる。

一般企業に勤めたのち、アーティストとして自立した市原えつこが、“画家”と“ビジネスマン”という2つの視点でクリムトを捉えていたことは、非常に興味深く思われた。

「純粋に画家として、油絵を描いていた高校生の頃からクリムトが好きでした。モチーフとしてよく描かれる細胞のような文様に惹かれます。豪華絢爛で美しいのだけど、どこか不吉な死の匂いのするところもありますよね。一般的な男性画家は女体を官能的な美しい対象として描くことが多いと思いますが、クリムトは《女の三世代》のように生と死の無常観を描いているのがリアルです。晩年は若い人に嫉妬していた、という一面も人間臭くていいです。

いっぽうで、ウィーン大学講堂の天井画で理性を批評するような絵を描いて批判された、というエピソードを知って、Twitterでの話題の巻き起こし方とかが上手そうと思いました。オペラ座を描いた絵画でも、客席に座る人にそれぞれパトロンを描いているのが、巧みですよね。クラウドファンディングで実現した映画や本に、支援者のクレジットが入るのと似ていて、マーケティングや渉外対応の巧さを感じます。“第九”の4つの楽章を視覚化した《ベートーヴェン・フリーズ》は、いま流行りのデータ・ビジュアライズのようです。

私は子供の頃は転勤族で西日本を転々としていたのですが、東京に上京してきたときに、感じたことのない息苦しさを味わいました。テトリスみたいに土地がキチキチに埋まっていて、資本主義で覆われている……そういった印象でした。それがいまではすっかり適応して、だったら逆にマーケティングの思考を取り込んでちゃんと稼ごう、という意識になりました。アーティストとして生や死に関心を持ついっぽうで、[こういう発信をすればメディアが食いつくだろう]と計算しているところもあります」。

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