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アイドルの自己紹介はなぜ長い? 「キャラのカスタマイズ」の視点で読み解く

リアルサウンド

13/12/15(日) 7:25

20131215-charadora-02.jpg『キャラクタードラマの誕生』のカバー写真に起用された「ミスiD2014グランプリ」の蒼波純。来春発売予定の、アイドル専門ライター・岡島紳士によるアイドルDVDマガジン「IDOL NEWSING vol.1」には、今回の表紙撮影のメイキングのほか、現代音楽を主軸に活動するいずこねこの映像も収録される。

 AKB48やももいろクローバーZといったアイドルグループのライブでは、キャッチフレーズとともに長い自己紹介をして、それに対しファンが合いの手をいれるという文化が根付いている。そもそもなぜ彼女たちはそういったパフォーマンスを必要としたのだろうか。

 12月25日に『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)を上梓するドラマ評論家の成馬零一氏は、アイドルたちのパフォーマンスを「キャラクタードラマ」という概念を軸に読み解いている。

 成馬氏によると「キャラクタードラマ」とは、90年代後半あたりから増加した、漫画やテレビアニメのエッセンスを取り入れたテレビドラマのこと。岡田惠和が脚本を手がけた作品では、『南くんの恋人』や『ちゅらさん』、近年では『泣くな、はらちゃん』などが挙げられ、それらの作品では、マンガやアニメのキャラクターのような振る舞いをする人間と、自分の身には大きな物語など訪れなるはずがないと思っているごく普通の人間の衝突を描くことによって物語が展開されていた。

 いっぽう、演出家の堤幸彦は、『金田一少年の事件簿』や『ケイゾク』、『TRICK』といった作品で、演出の面から漫画やアニメのエッセンスを取り込んでいった。低予算でスケジュールに余裕がないため、動画に枚数を割くことができなかった日本のアニメーションは、その制約を逆手にとって、演出と編集を駆使することで表現のレベルをあげていったのだが、堤幸彦は、時に役者を漫画やアニメのキャラクターのように記号的に扱い、極端にカット数を増やし、独自の編集を加えることで“堤色”というべき独特の世界を作り上げた。「キャラクタードラマ」は、漫画やアニメの文体をテレビドラマにどう持ち込むかを試行錯誤しながら発展し、その流れは宮藤官九郎が脚本を手がけ、2013年にブームとなった『あまちゃん』にも引き継がれている。

 テレビドラマが漫画やアニメの世界に近づいた時代と重なり、携帯電話やインターネットが発展、若者文化の在り方も変わった。成馬氏は「人間をキャラクターとして捉える風潮が急速に拡がった」として、その要因を特にSNSと結びつけている。TwitterやFacebookでは、たとえばお洒落な人間に思われたいのであれば、好きなファッション雑誌の名前を挙げたり、社交的な人間に思われたいのであれば、参加したパーティーの写真を挙げたりすることによって、ある意味では記号的に、自身のキャラクターをカスタマイズすることができる。それによって、多くの人が「自分がどんなキャラクターであるか」ということに対して自覚的になったというのだ。

 人々が自覚的にキャラクターを作り始めるようになると、テレビドラマや小説における人間の描き方も変わってくる。白岩玄作の小説を原作とした『野ブタ。をプロデュース』では、主人公は学校のクラスの人間関係を一種の“仮面劇”として捉えている。みんなが「こういう風に見られたい」というキャラクターを演じていることに自覚的な主人公が、いじめられっ子の女子をクラスの人気者にするため、「キャラクターのカスタマイズ」をする物語だ。『電車男』や『桐島、部活やめるってよ』、2013年に直木賞を受賞した『何者』でも、他者に対し自分をどんなキャラクターに見せ、どう承認を得るのかという悩みは、大きなテーマとして扱われている。

 このようにキャラクターを軸とした文化が発展してくると、コミュニケーションの方法にも変化が生まれる。テレビドラマでアニメや漫画のような演技をするキャラクターのように、人々は記号的な振る舞いによって認知や承認を求めるようになる。それをわかりやすく表しているのが、アイドルとファンの間のコミュニティだ。「自己紹介に次ぐ自己紹介」と『あまちゃん』ではギャグにされていたが、アイドルは印象的なキャッチフレーズと、アニメキャラのような振る舞いで、長い自己紹介をする。ファンはそれに対し、合いの手で承認をする。そのコミュニケーションは、端から見ると風変りに映る場合もあるが、当人たちにとっては心地良く親密だ。AKB48やももいろクローバーZといったグループは、ファンと親密な関係性を築くため、そういった“キャラクター作り”を自覚的に行ってきたのだ。

 成馬氏は、テレビドラマを軸にこの「人々のキャラクター化」について考察しているが、このような現象はもっと普遍的に、あらゆる文化に根付いていくのでは、と予測している。たとえばAKB48は自分たちのキャラクターについて歌ったりしているが、その傾向はほかの音楽でも起こり得るというのだ。神聖かまってちゃんやゴールデンボンバー、あるいはきゃりーぱみゅぱみゅといった、漫画やアニメのキャラクターのようなアーティストが人気を博し、ゆるキャラのふなっしーが新曲を発表するのも、あるいは無関係ではない話かもしれない。

 テレビドラマを軸に、現代文化を鋭く評した『キャラクタードラマの誕生』は、音楽ファンにとっても興味深い読み物といえそうだ。
(文=編集部)

■関連情報
『キャラクタードラマの誕生』
著者:成馬零一
四六判並製232頁
本体1600円(税別)
河出書房新社

<概要>
 『銭ゲバ』岡田惠和、『最高の離婚』坂元裕二、『家政婦のミタ』遊川和彦、『あまちゃん』宮藤官九郎、『すいか』木皿泉、『リーガルハイ』古沢良太……最も刺激的なテレビドラマを作る6人の脚本家の作品を読み解きつつ、テレビドラマの文学的評価を高めた『岸辺のアルバム』や『北の国から』といった《文芸ドラマ》、八〇年代後半に若者の風俗を描き一世を風靡した《トレンディドラマ》に続く、新しいドラマの潮流を《キャラクタードラマ》という新概念で説き起こす。岡田惠和氏、遊川和彦氏のスペシャル・インタビューも収録。さらにカバー写真には、業界大注目「ミスiD2014グランプリ」蒼波純さんが登場。なぜ『家政婦のミタ』は、『あまちゃん』は、『半沢直樹』は、ムーブメントになったのか……この一冊ですべてが判明する。新時代の本格的テレビドラマ評論。

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