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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

接客業でタメ語は厳禁

毎週連載

第108回

前回、とんでもない美容師さんの話をしたけど、でもこれは美容室に限ってのことじゃないかもしれないね。今は接客業全体で起こりうることだと思う。

たぶん昔の接客業とはだいぶ変わって、店に入った人は全員友達になるみたいなのが普通なんじゃないかな。だって下手したら一見のお客さんとだって平気でLINEを交換したりするでしょ。そうなるともう完全ホストクラブだよね、ノリが。でも、僕はそういうノリがちょっと苦手で、そうやって友達を次々に増やしていくことの意味がわからない。

現に僕が本当に好きな喫茶店、お寿司屋さん、ラーメン屋さんとかに行っても「気軽に店員さんと話をする」ってことはまずないですよ。いつも行く店だから僕の顔も知ってくれているだろうし、お店の人も気さくに接してくれたりするけど、友達みたいな関係とは違うからね。「お店」「お客」……この距離感を保つほうが、結果的に気にいったお店に長く通えそうな気がするしね。

その点、うちのマネージャーの江口くんは僕とは真逆なんだ。10年くらい前、江口くんと一緒に髪を切りに行ったことがあるのね。お互いに初めての美容室だったけど、僕の担当の美容師さんは女性、江口くんの担当の美容師さんも女性だった。

僕のほうの美容師さんとの会話はだいたい一往復で終わっちゃうんだ。「映画とか好きなんですか?」「はい。まぁそうですね」みたいな。でも、江口くんは違う。「映画とか好きなんですか?」って聞かれたら、その女性に話したって絶対わかりっこないような映画の話を延々して、ギャーギャー言って(笑)。「うーわっ、マジっすか? そうなんすねー。じゃあ○○は?」みたいにメチャクチャ話題を広げていくんだ。

つまり、完全にキャバクラノリなんだよ、江口くん(笑)。僕、このときに言ったもん「うるせぇ」っつって。「お前、ここどこだと思ってんだ。キャバクラじゃねぇんだからよ。寂しいのか、お前は」っつって(笑)。江口くんってさ、こうやって人とコミュニケーションをとって、相手の心に入っていくのがうまいの。別に悪意を持ってそうしているわけではなくて、自然とそうなる感じがあるんだ。独特のセンスだよね。

たださ、そんな江口くんでも、自分より立場が上の人とか「この人怖そうだ」みたいな人には、何も喋らないっていうこともある(笑)。そこもおかしいんだよ。「喋るんだったら、全員対等にいっとけよ」っていう。さらに言うとさ、江口くんにとって「怖そうな人」「喋りにくい人」を、江口くんは勝手に嫌っていたりする。「俺、あの人イヤなんだよね」みたいな(笑)。誰とでも楽しく会話できていそうで、実は結構人に対する好き・嫌いが強いのもまた江口くんのおかしいところ。

話を戻すとさ、僕は目当てのお店に行ったときに、目的を果たせればそれだけで良いの。美容室に行くんだったら、髪を整えてくれるだけで良いし、お寿司屋さんに行くんだったら美味しいお寿司を食べられればいい。別にそれ以上の関係も求めてないし、必要以上に仲良くなったことで、そのお店に行きづらくなるほうがイヤだからね。

ただ、重ね重ね接客業でタメ語はナシだよね。たまたま電器屋の家に生まれちゃったから、「接客」に敏感なのかもしれないけどね。「お客さん家のテレビ壊れてんね」「お客さんのテレビの型、古っ!」「じゃあ新しいテレビの見積もり出しとくわ」「中見たけど、ネジ取れてたからキツいの入れといた」みたいな対応をしたら、二度とお客さん来てくれなくなる(笑)。

接客ってね、必ずしもうまくなくて良いと僕は思うんです。敬語が仮に間違っていたり、言葉遣いがたどたどしかったりしてもさ、相手に何かを伝えたいとか、おもんばかる気持ちがあれば。気持ちって、想像以上に相手に伝わるものだからね。

打ち解ける人とは瞬時に打ち解ける才能を持つ江口くんと。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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