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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

リニューアルされた国立映画アーカイブ―松竹映画100年の歴史に隠れた巨匠を“発掘”

隔週連載

第41回

20/7/19(日)

映画を保存し、公開する、唯一の国立映画専門機関が「国立映画アーカイブ」(東京・京橋)だ。今年3月からの一部改装工事中にコロナ禍で工事期間が延期となっていたが、このほど終了。7月7日からリニューアルオープンした。現在は松竹の映画製作100年を記念した特集「松竹第一主義 松竹映画の100年」(〜9月6日)を展開中。映画館のほとんどがデジタル化を選択し、フィルム上映設備を廃棄する中、35mmはもちろん、70mmフィルムを上映できる日本では貴重な施設だ。

長く「フィルムセンター」の名称で親しまれた「国立映画アーカイブ」の歴史は1952年の国立近代美術館の設置にさかのぼる。その一部門の事業としてフィルム・ライブラリーが始まり、試写室や講堂での定期上映などを経て、70年に東京国立近代美術館フィルムセンターとなった。しかし、84年に火事となったため、建物の新営工事を行い、95年に新しく開館。18年4月には東京国立近代美術館から独立し、現在の名称に。現在は国の映画文化振興のためのナショナルセンターとして、アーカイブ事業の拡充や映画文化の発信などの役割を担っている。

8階建ての建物には展示室、図書室も有し、上映ホールは2つ。2階のホールの名前は、「IMAGICA Lab.」(旧・東洋現像所)の創業一族が設立し、同館に大口の寄付を行った「長瀬映像文化財団」と、巨匠・小津安二郎監督からとって「長瀬記念ホールOZU」(2階、310席)と名付けられた。スクリーンサイズは縦4.60m、横9.70mで、16〜70mmフィルム映写に対応。18年10月に実施された『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映では前売り券が即完売する大人気となった。地下1階にある小ホールは縦3.30m、横8.70mのスクリーン、座席数151。

神奈川県相模原市にある相模原分館に所蔵する約8万3千本のフィルムを基本に、年間を通じて、独自の特集や「ぴあフィルムフェスティバル」(今年は9月12日開幕)といった共催上映などを行っている。所蔵作品の上映では一般520円(特別上映除く)という低価格も魅力だ。

1階受付。壁にはデジタルサイネージで上映や展示の詳細を表示
広々とした1階のエントランス

今回のリニューアルでは、1階部分をよりシンプルにし、デジタルサイネージやピクトグラムなどを配置し、ビル全体の動線が分かりやすくなった。長瀬記念ホール OZUは椅子、カーペットを全面貼り替えしている。「5月末にオープンする予定でしたが、コロナ禍で工事がストップしてしまい、予定より約1カ月遅れてしまいました。1階はイベントもできるよう広々した空間を作ったのですが、コロナ禍の現状では、難しいですね」。

国立映画アーカイブ主任研究員の大澤浄さん

こう話すのは、2012年から上映プログラムのディレクションを担当している国立映画アーカイブ主任研究員の大澤浄さん。「一般の映画館と大きく異なるのは、我々がフィルムを持っていることです。ほかから借りることなく、所蔵フィルムでプログラムを組め、長期にわたって大規模な特集を組むことができる。プログラムは前年11〜12月にかけて翌年度を決めていきます。今年は“100年もの”がすごくそろっています。その一つが開催中の『松竹映画の100年』。秋以降、三船敏郎さん、原節子さん、山口淑子さんの生誕100年、ほかにも90歳を迎えたクリント・イーストウッド監督の特集を予定しています」。

「松竹映画の100年」ではサイレントの『路上の靈魂』(1921年)から『花よりもなほ』(2006年)まで、提携・配給作品も含め、さまざまなジャンル・監督・スターの松竹作品計79本(64プログラム)を上映。その見どころは─。「小津安二郎、木下惠介、小林正樹、大島渚、山田洋次といった巨匠の代表作を始め、国産初のカラー長篇『カルメン故郷に帰る』(1951年)はもちろん、『これも松竹映画なの?』という作品も積極的に入れています。注目して欲しいのは、京都撮影所製作の時代劇です。松竹は関東大震災をきっかけに、1923年に京都に撮影所を作ります。そして、それをきっかけに(京都の)下加茂と太秦の撮影所でたくさんの時代劇を生み出しました。戦前から戦後にかけて、松竹時代劇の長い歴史があることはあまり知られていないと思うので、今回の上映でぜひ注目していただきたい」と話す。

長瀬記念ホールOZU
小ホール

松竹時代劇の作品は全11プログラム。そのうち5本を取り上げた大曾根辰夫(別名・辰保=たつお、1904〜1963年)監督は松竹京都に人生を捧げた知られざる巨匠で、再評価すべきという。生涯撮影した100本の作品のうち40本近くが現存するが、実際には鑑賞機会はほとんどなく、存在が知られていない。同館所蔵のプリントも少ないことから、上映する阪東妻三郎主演の『風雲金比羅山』(1950年)と高田浩吉、伴淳三郎主演の『歌う弥次喜多黄金道中』(1957年)、田村高廣主演の『侍ニッポン』(1957年)はニュープリントを作成した。

「阪東妻三郎の長男、田村高廣は渋い脇役というイメージを持っている方も多いとは思いますが、阪妻が53年に亡くなって、松竹では、次のスターにしようとした企画がいっぱいありました。『侍ニッポン』では正統派の二枚目を演じています。『黄金道中』は一見、他愛のない正月のコメディーですが、脇を固める芸人さんの顔ぶれがすごく、日本芸能史のドキュメントとしても貴重です」と大澤さん。ほかにも、片岡一郎さんを始めとする弁士、伴奏付きの無声映画の上映も人気を集めている。

コロナ対策のため、2席空けている

コロナ禍に対応するため、チケットはネット販売による前売り指定席券のみ。しかも、座席の間隔を空けるため、310席を通常111席(弁士・伴奏付上映は105席)にまで減らしており、観客数の減少は避けられない。大澤さんは「コロナ禍で、映画館自体が問われています。大きなスクリーンで観る魅力、公共の空間で没入する魅力を、我々自身も再発見していかないといけない。あるいは自宅での動画配信鑑賞と対立するのではなく、それと共存し棲み分けるようなプログラミングも必要かもしれない。今まで以上にもっと目に見えるような形でお伝えするよう努力したい」と話している。

映画館データ

国立映画アーカイブ

住所:東京都中央区京橋3丁目7−6
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:国立映画アーカイブ

2020年度上映 今後のスケジュール

■松竹第一主義 松竹映画の100年 (7/7〜9/6)
■第42回ぴあフィルムフェスティバル(9/12〜26)
■生誕100年 映画俳優 三船敏郎(10/2〜22)
■35mmフィルムで見るクリント・イーストウッドの軌跡(10/29〜12/6)
■サイレントシネマ・デイズ2020(11/10〜15)
■生誕100年 映画女優 原節子(11/17〜12/11)
■生誕100年 映画女優 山口淑子(12/12〜27)
■中国映画の全貌=仮=(2021.1/5〜31)
■1980-1990年代日本映画特集(仮)(2/9〜3/28)
■レパートリー上映 2020 秋(仮)(開催時期未定)
■レパートリー上映 2021 冬(仮)(2/19~3/7)

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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