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“サブベース”がポップスで果たす役割 ビリー・アイリッシュ、ジェイムス・ブレイクなどから考察

リアルサウンド

19/2/21(木) 7:00

 主にトラップやEDMの流行を受けて、メインストリームのポップスで低域が強くなっていることはよく指摘される。ヨーロッパからアジアまで、その傾向はグローバルに広まっているが、最も顕著なのはなんといっても北米のポップミュージックだろう。

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 その代表格はドレイク。いまやヒップホップシーンにとどまらない影響を与えている彼の楽曲では、マッシブなベースが常に低域を満たしている。メロディアスでソフトなラップを押し出したヒット曲も多い彼も、プロダクションの観点から言えばヒップホップ由来のファットさを維持していることがわかる。

 あるいは、アリアナ・グランデの最新作『thank u, next』に目を向けても、いかにトラップのプロダクションが彼女のようなシンガーの楽曲にまで影響を与えているかは明白だ。リード曲の「thank u, next」では、うねりながら上下するベースラインが時折驚くような低さに向かっていく。

 さて、こうした“北米標準”と比較してみたいのが、ロサンゼルス出身の新世代のポップアイコンとして注目を集めるビリー・アイリッシュだ。カジュアルな装いのなかにゴスやホラーのエッセンスを散りばめた本人の佇まいは、それだけでも異質な存在感を放っている。感情を抑制するかのような繊細な起伏を見せる歌声と、歌詞を通して描かれるメランコリーもカリスマ的だ。

 彼女の楽曲では、サブベースと呼ばれるとても低い周波数帯のサウンドが重要な役割を果たしている。そして、その使い方が他のポップアクトとは一線を画しているのだ。

 「when the party’s over」は、クワイアとピアノが中心のアコースティックなバラードで、恋人との別れに直面した無力感を痛切に描く。この楽曲のフックには地を這うようなサブベースがあらわれる。それは、楽曲のコード進行やグルーヴを支える通常のベースとは違い、感情のゆらぎをよりドラマティックに演出する効果音のような役割を果たしている。

 同様の手法は「bury a friend」でも顕著だ。56秒あたり、また2分32秒あたりで鳴るサブベースは、楽曲の進行やグルーヴとは切り離されている。もちろん、そのすぐ後に他のパートと重なることで、実際にはこのピッチと長さが楽曲に不可欠な要素であることは示されるのだが。

 ビリー・アイリッシュの楽曲には、派手なサウンドやメロディは多くない。にもかかわらず聴く人の耳を捉えるのは、彼女の声質やメッセージに加えて、こうした低域の使い方に代表されるサウンドデザインの巧みさがあるのではないだろうか。

 近年のポップスにおけるこうしたサブベースの使い方のルーツをたどっていくと、ジェイムス・ブレイクに突き当たるように思う。彼が2011年の1stアルバムに収録したFeistのカバー「Limit To Your Love」には、猛烈なサブベースが登場する。

 ダブステップのワブルベースをピアノ弾き語りにフィーチャーする特異な構成は「when the party’s over」を彷彿とさせるし、メランコリックな歌詞や歌声も通じる部分がある。今やイギリスを代表するSSWである彼は、ビヨンセをはじめとしたアメリカのスターから引っ張りだこの才能でもあり、現在の北米のポップミュージックに大きな影響を与えている。

 メロディやコード進行によってかき立てられる感情を超えて、響きそのものがより深い情動へと訴えかけてくる。ビリー・アイリッシュやジェイムス・ブレイクの例は、単なるトレンドではないサブベースのポテンシャルをポップスに導入していると言えよう。(imdkm)

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