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爪切男×カマたくが語る、頑張りすぎない“中道”の生き方 「悩みがないことが、むしろ僕らの悩み(笑)」

リアルサウンド

21/3/20(土) 12:00

 2018年の『死にたい夜にかぎって』で本格的に作家デビューした爪切男。珍しすぎる恋愛エピソードを綴った同作は、各所で話題となりテレビドラマ化もされた。そんな爪切男の新刊が3カ月連続で発行される。2月24日に『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月19日に『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月26日に『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)。いずれも異なる版元からの発売という異例の展開である。その第1弾となる『もはや僕は人間じゃない』は、爪切男がパチンコ中毒のお坊さんと、オカマバーの店員に人生を救われる(?)エッセイで、帯には歌舞伎町のゲイバー店員のカマたくが「善も悪もない。正解も不正解もない。定義なんてしょうもない。」(一部抜粋)とコメントを寄せている。

 カマたくは、Twitterにアップした動画がバズり、16年間売春をしていたという壮絶な過去を持つ人物だ。『頑張らなくても意外と死なないからざっくり生きてこ』、『お前のために生きてないから大丈夫です カマたくの人生ざっくり相談室』(ともにKADOKAWA)という著作も残しており、ツイッターのフォロワー数は約125万人。悩み相談にも舌鋒鋭い口調で答え、その親しみやすいキャラクターも愛されてきた。

 今回、リアルサウンド ブックでは爪切男とカマたくの対談を実現。『もはや僕は人間じゃない』への感想からはじまり、おたがいの人生観や、悩みについての考え方についてまで、ざっくばらんに語り合ってもらった。(土佐有明)

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爪切男×カマたく『もはや僕は人間じゃない』対談 Part.01

『もはや僕は人間じゃない』に共感

カマたく:新刊の『もはや僕は人間じゃない』読ませて頂きました。登場するオカマバー店員のトリケラさんの考え方、「わかるー!」って感じで共感して、読んでいてすごくすっきりしました。読者の反応や評判はいかがですか?

爪切男:おかげ様で、いい感想をたくさんいただいています。でも僕、人の感想っていうのは自由だと思ってて、お金を出して買ってもらった時点でそれはもうその人の本なので。たとえばAmazonのレビューで星ひとつつけられても気にならないです。

カマたく:自分の半生も投影した作品のようですけど、本が出たこと、知り合いに言うのは恥ずかしい?

爪切男:めちゃめちゃ恥ずかしいです。2月から3カ月連続で本を出すことになっているんですけど、自分が作家だっていう感覚がいまだになくて。著作が本屋に並んでいても、なんだか他人事としか思えない……(苦笑)。

カマたく:この作品で、なにか思うところや伝えたいことがあったんですか?

爪切男:いやー、読者の方には申し訳ないんですが、実は「どうしてもこれを伝えたい!」っていうのはないんですよ。ただ、笑って喜んでもらえたらそれでいいです(笑)。

カマたく:わかるー。私も2冊本を出してるんですが、読んでくださった方が自由に受け取ってもらえれば、それでいいと思ってます。爪さんも私も作品にそこまで思い入れがないのかもしれませんね。もしかしたら、読者の皆さんよりも思い入れがない(笑)。「これとあれを伝えたい」、というのが基本的にない。

爪切男:僕も作家になるという夢はあったんですけど、それは1冊目の『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)を書いたことで昇華されたので。2冊目以降に関しては思い入れが全くない……とまでは言わないですけど、自然に生まれた感じですね。

カマたく:本を出して気づいたんですが、受け取る側がどうなのかって思ってくれるかっていうのが大事で、自分から何かを伝えるなんて、おこがましいですよね。

爪切男:1冊目で過去につきあった女性たちのことを書いたんですけど、ある人がネットで「爪切男はこんなこと書いているけど実はイケメンなんだろう」って書いていて。その時点ですぐ「顔出ししよう」とは思いました。その誤解だけは解きたいなと(笑)。どう読んでもらってもかまわないのですが、こういう丸みのあるおじさんが頑張った話だ、ということはわかってもらいたいです。家の目の前が小学校なんですけど、アパートの共有スペースで座ってタバコ吸っていると、登下校中の小学生たちが僕のことを「ゴブリン」って呼んでくるくらいですから。

カマたく:そのあだ名、絶対に学校中で広まってますよね(笑)。

爪切男:ですね。本を出していようが作家になろうが、どうせあだ名はゴブリン。だから、知りあいからは顔出さないほうが良かったんじゃない?とも言われますね。実は僕、行きつけのガールズバーでは無職で通してたんですよ。でも、この前「こいつ、本書いてるんだよ」って一緒にいた友達がポロっと言ったとたん、場の雰囲気が変わってしまったんです。僕がしゃべるとみんな神妙に聞き入るようになってしまって……。あと、2冊目、3冊目を出すことになった途端、みんなが僕のことを「先生」と呼ぶようになったんです。あれはなんとかしないと(笑)。

カマたく:私も最近は、顔を見せると周りの雰囲気が変わっちゃう。マスクとる前から「あれ?」と気づかれていて、マスクとったら「やっぱり! カマたくさんだ」って。ありがたいんですけど、それがすごく嫌で。もう、私なんてうんこみたいな扱いでいいのに(笑)。

SNSでは絶対喧嘩しない

爪切男:『もはや僕は人間じゃない』では、パチンコ中毒のお坊さんに「中道の思想」を教えてもらったエピソードを書きました。これは簡単にいうと「苦しい修行をしてばかりでもいけない、かといって怠けすぎてもいけない、あなたにとってちょうどいい場所を見つけなさい」ということなんです。で、この中道の思想って、便利なんですよ。だって、仕事や生活のことで誰かに注意されても「俺にとってこれが中道だから」って返したら、相手は何も言えないじゃないですか。言葉は使いようではありますね(笑)。

カマたく:それって、ぶっちゃけただの開き直りですよね?

爪切男:そう、開き直り。

カマたく:じゃあ私にはぴったりの考え方だ(笑)、「みんな開き直りましょう」って! でも、開き直りって、今の世の中ではやりづらいかもしれませんね。

爪切男:SNSで喧嘩をしている人を見ると、極端な意見が多くて、中道的なちょうどいいところには収まらない。Twitterの140字でかたがつくわけないのに、って思いますね。

カマたく:お互いに「おれは間違ってない!」と言いあって、見ている周りの人まで傷ついてしまう。その人たちのファンも嫌な思いをする。私、SNSでは絶対喧嘩しないようにしているんです。

爪切男:負のループにはまりこんでいることに気づいてない方が多いですよね。「おれは間違ってない」ってお互い言い張るから。しかも、当事者以外の人も入ってきて、傷つく人が増えたりする。

カマたく:よく「ツイッターで嫌な人がいるんですがどうしたらいいんですか?」って質問をいただくんですけど、私の考えでは、そういう場合「ミュート」するといいと思います。よくブロックしろっていう人もいるんですけど、ブロックだとツイッターの仕組みで、相手にブロックしていることがわかってしまうから。

爪切男:ミュートされたら自分の攻撃が相手に届いているのか分からない。

カマたく:SNSなんかで交わされる心無い言葉も、空気中の窒素みたいなものと思うようにしているんです。あるんだけど意味がない、吸っても害にはならない。

爪切男:そんなの、ミュートして、生殺ししちゃいましょうよ。

カマたく:SNSを見ていると情報量が多くてお腹いっぱいになるじゃないじゃないですか。私も手元にスマホがあるとつい見ちゃうけど、もう、満腹。SNSに向いている方って、どんなことを言われても「興味ない」って思えないと、全部受けとめていたら気になっちゃうんですよ。いろんな意見をある程度、自分で選別したり遮断したりしないと、かなりしんどいですよね。

人生も、何か足りないくらいでちょうどいい

爪切男:イベントなどでよく人生相談を受けるんですが、30代~40代の人から「新しい趣味を見つけたい」って聞かれるんです。でも、僕は別にそんなこと気にしないでいいと思いますね。趣味なんて見つけようとするものじゃないし、他人から見たら「それは立派な趣味だよ」っていうこと、結構ありますよね。毎日やっている何気ないことも趣味だって言える。よく噛んで食べることが趣味でもいいじゃないですか。

カマたく:ほかにも悩み相談を受けることは結構あるんですか? 

爪切男:はい、でもうまく答えられなくて。「3年後に起業を考えているんですが」みたいな質問もよく受けるんですが、3年後楽しかったら、起業じゃなくてもいいわけで。予定通りに行くかどうかなんて、誰にもわからないですよね。

カマたく:目の前のことに全力でできることを選んで、それをひとつづつ積み重ねていければいい。そもそもゴールってどこにあるか分からなくて、考えもしないところにあったりする。私の人生もそんな感じだったなぁ。でも、「これがゴールだ」って自分で決めちゃうと、失敗すると落ちこんじゃう。悩む原因を自分で作っていて、これができないとダメ人間だって決めちゃう。それってすごくつらいことなのに。

爪切男:カマたくさんが全部言ってくれた。

カマたく:プラン通り、きっちりできる人はいいんですけど、すごくハードルが高いから。たとえば、爪さんや私の本を読んで書いてあるようにしても、その通りになれるわけじゃない。育った環境とか思想もみんな違うし、同じ人生になるわけがないんだから。

爪切男:そうそう、そのくらいゆったりした考え方でいいですよね。僕、歌舞伎町によく行くんですけど、そこで働いている人や、飲み屋の常連さんってすごく魅力的なんです。歌舞伎町の人って、10年先とか1年先のこととか考えてなくて(笑)、みんな未来を前向きに諦めているというか。

カマたく:あー、それすごくわかります。考えているんだけど、悩まないんですよね。「ここから先はもう、考えてもしょうがない!」って割り切って、その瞬間を生きている。私も歌舞伎町で働いていて、そういう人たちと接しているのは気持ちいいなぁ。こういう生き方、実は日常生活でも実践できるんです。おすすめなのが、一日のタスクを箇条書きにしてひとつひとつ終わらせること。「これをしよう」、「これ終わったら休もう」、「これは楽しいからやろう」っていう感じで。そうやってタスクを消して行ったら、実は「お腹すいた」とか「うんこしたい」くらいしか残らないから(笑)。

爪切男:それは僕もそうですね、お昼は何食べようかなとか。何時に風呂入ろうとか。いつもそれくらいしか考えていない。

カマたく:私もいろんなお客さんから相談を受けることが多いんですが、「不幸体質」っていうのがあるんですよ。何をしても幸せだと思えない。お金をもらっても、仕事が成功しても、有名になっても、何かを達成してもまたすぐ次の幸せを求めて、延々とそれを繰り返してしまうんです。ストイックなんですけど、見ていてすごくつらくて。結局、今の状況で楽しさを見つけられる人が幸せなのかもしれませんね。不幸な人って、目の前にあるものを大切にしないで、足りないものを見つけようとしてしまうんです。「あれがない!これがない」って。

爪切男:YouTubeで生け花の先生が教え子の作品を採点している動画があって。ほとんどの生徒さんが、つけたし過ぎ、と指導を受けているんですよ。先生が「これ要らない」、「あれ要らない」って余計な花を削っていく。人生もそれと同じで、いろいろそぎ落としたあとに残る「何か足りないくらいシンプルなものでちょうどいいのかな」って思えるんです。

カマたく:そういう生き方を知ることができると、毎日が少しラクになるかも。

悩みがないという悩み

爪切男:想像力って大切だなって思うんです。僕が親父から教えてもらったのは、好奇心や発想力を持つこと。昔、父親が買ってくれた粘土で遊んでたら突然殴られたんですよ。

カマたく:え!? 何それ。お父さん……。

爪切男:「この粘土は、山から掘り出された土がたくさんの工程を経て作られたものだ! お前は粘土に対する感謝が足りない!」って。食事の時もそうでした。「食べ物がここにあることに感謝しろ」と言われて、いろいろ想像してたら、卵を食べられなくなってしまったんです。卵を見るとヒヨコやニワトリの顔が浮かんできちゃうんです(笑)。いくらとか子持ちししゃももダメで。

カマたく:ちょっと、そこまでいくとヤバくない!?

爪切男:あと、よく「お酒の力を借りて女を口説く」ってあるじゃないですか。あれもお酒を造っている人に申し訳が立たなくて。だから僕はいつもルノアールで女の子を口説くんです。コーヒーを飲んだあとで熱々のお茶が出るじゃないですか。あれを一気に飲んだ勢いで口説く(笑)。

カマたく:ウケる(笑)。そう考えると、みんな型にはまって窮屈さを感じることがありますよね。なんでもマニュアル通りで。私、かつて働いていたとき、会社が用意したマニュアルをほぼ無視した接客で、全国1位をいただいたことがあるんです。

爪切男:実は僕も某社で電話の窓口をやっていて、お客様からの好感度ランキングで優秀賞をとったことがあるんです。その頃はカマたくさんと同じく、会社が作ったマニュアルは参考程度でしたね。

カマたく:プラモデルひとつ作るのも、絶対に説明書通りに作らなければいけないと思う人が多いみたいです。私なんて、部品が足りないとなったら、その人なりの組み立て方をすればいいのにって思っちゃうタイプなんですが。なかにはもうひとつ同じプラモデルを買い足して、その部品だけ使う、みたいなことをやっている人が多い。

爪切男:型にハマった人生を送る必要はないですよね。僕も「作家としての目標は?」といった質問をいただくんですが、そんな高尚なものはなくて。「あとは余生」くらいに思っているんです。しいて言えば、大好きな蕎麦屋でバイトをやりたいくらいですね(笑)。

カマたく:私もー。もう一度バイトしてみたいとよく思ってます。いちいち明日とか、1週間後のことを考えて心配してもしょうがないんです。それに、今は苦しくても、そのうち笑えるよって思います。私だって、小さい頃はしんどいこともあったけど、32年間生きてきて、トータルで見たら「まあまあ面白かったな」って感じていますから。

爪切男:トータルで人生を見たら、いいことも悪いこともまあまあになるのかもしれませんね。

カマたく:いま目の前に、スウィッチを押したらパッと自分の存在が消える機械があったら、すぐに押せますもん。自分のこれまでの人生をなかったことにして、周囲の方々の記憶からも全部リセットしてくれるのであれば、すぐ押すと思う。でも、「毎日辛くて……」って人生相談しにくる方に限って、意外と押せないんじゃないかな。たぶん、悩んでいるうちは押せないんですよ。

爪切男:悩みがないことが、むしろ僕らの悩みかもしれません(笑)。

カマたく:うーん、でもヘビーなことをヘビーなままで受け取る必要はないですよね。むしろ私は、不幸なことがあるとワクワクしてしょうがない。いつどうやって楽しく話そうかって思っちゃう。たぶん、そういう病気です(笑)。

爪切男:僕もこの前、新宿のトイレに入ったら紙がなかったんです。その時、久々に「あぁ、生きているなぁ」って実感しましたね。「さあ、この状況をどうしよう」って(笑)。僕も若い頃は水道を止められて公園の水で体を洗っていたくらいだし、そういうのも全部、笑い話にしたい。だから今、なにかに悩んでいる人は、恥ずかしがらずに人に話してみてください。大体のことは人に話せば楽になりますから。

■書籍情報
『もはや僕は人間じゃない』
発売元:中央公論新社
発売予定日:2月24日
価格:本体1,100円+税

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