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『危険なビーナス』のユニークな点とは? 矢神家の遺産をめぐる女の闘いは本格化

リアルサウンド

20/11/9(月) 6:00

「またあの家の中で、私たちの知らないいろんな思惑がうごめいているみたいですね」

 失踪した矢神明人(染谷将太)の行方と30億と言われる矢神家の遺産をめぐって、獣医の手島伯朗(妻夫木聡)と弟の妻と称する矢神楓(吉高由里子)が奔走する『危険なビーナス』(TBS系)。ちょっと間の抜けた伯朗のキャラや訳ありっぽい楓の行動に注目が集まっていたが、本来は名家の因習と長年にわたる確執が渦を巻くドロドロとした人間ドラマである。ひと通り人物紹介が終わった第5話では、その業がマグマのように噴出してきた。

 行方をくらましていた支倉祥子(安蘭けい)のターゲットは矢神康治(栗原英雄)。遺産を手に入れるため、夫の支倉隆司(田口浩正)、使用人兼執事の君津光(結木滉星)、看護師の永峰杏梨(福田麻貴)引き込んで康治の暗殺計画を立てていた。そんなことを知らない伯朗の元に、何者かが「今夜、康治が殺される」と記した手紙を送りつける。ちょうどその日は「開かずの間」を開いて矢神家の遺産を確認する日であり、伯朗は楓と屋敷に向かう。

 先代当主の矢神康之介(栗田芳宏)がもうけた実子と養子は全部で6人。そのうち康治と矢神牧雄(池内万作)は寝たきりまたは昏睡状態で、現在、矢神家を取り仕切っているのは長女の矢神波恵(戸田恵子)だ。親族が揃う場には必ずいるのに、なぜかこれまでスポットライトが当たる機会が少なかった波恵。ここに祥子とその家族、離れたところで矢神勇磨(ディーン・フジオカ)と矢神佐代(麻生祐未)の養子コンビが控えている。

 うすうす気づいていたが、この際はっきり言うと、伯朗が誰からも怪しまれない、よく言えば信頼されている理由は、矢神家から見て伯朗が部外者つまり蚊帳の外にいるためである。これは矢神家の遺産をめぐる女の闘いなのだ。互いにけん制しながら、隙を見て全財産を奪おうとする彼女たちは、男性をダシに使う狡猾さも持っている。伯朗が矢神家に良い印象を持たなかったのも当然だ。

 しかし、そんな矢神家にも、いや、そんな矢神家だからこそ意外な盲点も生じる。互いを疑って一致団結できないことは、新参者の楓に付け入る隙を与える結果となった。明人の妻を名乗る楓は財産を主張する正当な権利を持っており、互いを利用することばかり考えている親族は、一度入り込んだ異分子を協力して排除できない。その人物が、康治や明人を守る意思を持っているならなおさらだ。

 つらつらと書き連ねてきたが、何の話かと言えば、波恵が守ろうとしているのは何かということ。もし長女の波恵にその気があれば、矢神家の遺産を総取りすることは難しくないだろう。そのあたりの融通の利きやすさは祥子と格段の差であり、祥子が全財産を手中に収めるには、康治だけでなく波恵もどうにかしなくてはならない。地味に見えて波恵の存在が、バラバラな矢神家をつなぎとめる重しになっているのだ。

 女の闘いに対して、第5話のもう一方の軸が父と子の葛藤だ。こちらは伯朗と康治のことで、そもそも義理の父を「さん」付けで呼ぶ時点でなかなかだが、寝たきりの康治を前にして「危険を冒してまでこの人を救いたいと思わない」と言ってしまう伯朗。こちらが思っていたよりも闇は深かった。明人や矢神家に対する伯朗の感情は、すべてこの後添いの父というフィルターを通して生じており、その根底に亡くなった母・矢神禎子(斉藤由貴)への思慕があることは明らかだ。

 ただし、それだけで終わらないのが『危険なビーナス』のユニークなところで、ある出来事があって、康治との間に決定的な溝ができてしまう。あるいは、伯朗がなぜ獣医の道に進んだかを説明しているかもしれない。「この人をお父さんと呼ぶことは、もう一生できないだろう」。そこまでのインパクトがある体験だったのだ。いろいろあって「お父さん」と呼びかけて、結局、呼べずに終わった伯朗を見ると、やるせなさに胸が締め付けられる。

 それより何より、親族の疑心暗鬼ぶりをこれでもかと見せつけるラストシーンの描写に身震いした。「この家はね、そういうわからないことだらけでできてんのよ」とは祥子の弁。マッドサイエンスな要素も出てきて、危険度はいや増すばかりである。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS

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