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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」のチラシ

太田和彦の 新・シネマ大吟醸

シネマヴェーラ渋谷「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」で観た『狼の王子』と『われらの時代』

毎月連載

第9回

19/3/2(土)

日活のルーチンとも見える中に、まれにみる、問題意識を持った傑作!

『狼の王子』(C)日活

『狼の王子』
シネマヴェーラ渋谷
特集「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」(2019.2/2〜2/22)で上映。

1963(昭和38年) 日活 104分
監督:舛田利雄 原作:石原慎太郎
脚色:田村孟/森川英太郎 撮影:間宮義雄
音楽:伊部晴美 美術:千葉一彦
出演:高橋英樹/浅丘ルリ子/川地民夫/加藤嘉/石山健二郎/鈴木瑞穂/垂水悟郎/チコ・ローランド/藤竜也/ミッキー安川
太田ひとこと:社会改革よりも小さな幸せに生きようと決めた浅丘が、買物帰りに子供たちの縄跳びに加わる場面が泣かせる。

昭和二十五年、敗戦直後の北九州若松。米軍相手にかっぱらいを続ける浮浪児五人組は、黒人兵のチコ・ローランドにかばわれる。チコは少年タケに「戦争に負けた日本は犬のようだ、お前は狼になって闘え」と言い残し、始まった朝鮮戦争に出兵してゆく。港湾を仕切る日下組の親分・石山健二郎は浮浪児タケの眼に狼を感じ、特攻隊で死んだ息子の代わりに二代目若大将として育てると決める。

十六歳になったタケ(高橋英樹)は身体を持て余し、台頭する加納組との喧嘩に飛び込むが、そこには浮浪児の一人で加納組に入った川地民夫がいて、再会を喜ぶが敵同士とも知る。石山は喧嘩で脚を折った高橋を「男はそげな怪我でひるむな」と病院から連れ出し町の中を歩かせる。そこを襲った加納組の三下に石山は刺されるが、高橋は追うことができなかった。

事件の裁判で証人として出廷した高橋は、傍聴席で腹に巻いた晒しから拳銃を出し、ためらわずその三下と親分を射殺し、拳銃を置いて裁判長に両腕を差し出した。

少年刑務所で三年の刑を終えた高橋を塀の外で迎えた日下組の組頭・加藤嘉は、近くの路傍の茶店で盃を上げ「愚連隊のような加納組により日下組は落ちぶれ、若大将も狙われている。今すぐ東京に身を寄せ、再興のときを待て」と着替えと拳銃の入った鞄を渡す。

その東京の右翼団体に挨拶に行くと、国会を取り巻く反安保デモ隊の妨害に向かわされ、世の中から離れていた高橋は、学生デモ隊に激しく襲いかかる警官が何のことか判らずぼう然とし、デモ隊にチコがいて殴られ負傷するのを見る。かつぎこまれた病院には怪我人が重なり、取材していた女記者・浅丘ルリ子は無自覚な高橋を激しく非難する。チコは朝鮮戦線から脱走してきたと知った高橋は「闘えと言ったのはお前じゃないか!」と去る。

それから二年。安保条約が改定されると世はたちまち経済復興享楽ムードになった。クリスマスに派手なクラブに遊びに来た浅丘は、そこの用心棒となっている高橋に気づき、「社会を正そうと赤旗を振り、嵐が過ぎるとこのお気楽、私たちの反抗ってこんなものよ」と自嘲する。たまたま現れた川地民夫は久しぶりの高橋に、今や若松の俺達も中央の大きな組と手をつなぐ時代だと誘う。高橋は世の動きについて行けないまま、浅丘との暮らしに埋没してゆく。

若松から二人の住まいを探し当てて来た加藤は、日下組親分の八周忌大興行を打ち、加納組を蹴落すので戻れと高橋に迫るが、もうそんな時代ではないと断られ、腑抜けとなった姿に憤然として去る。浅丘は高橋に安心し、小さくても毎日楽しいことがある暮しを夢みて二人の新居団地に引っ越しする。

興行を邪魔された加藤は単身、加納組の花会に斬り込んで討死。それを伝える組からの電報は「スグカエレ」だった。行くのではないかと恐れた浅丘は懸命に無意味を訴え、自分たちの幸せをと懇願するが、黙する姿に無駄を悟る。「自分は狼であったはずだ」と目覚めた高橋は単身北九州に向かう。

アバンタイトルの冒頭で激しく息をする狼をアップでとらえ、それを注視する五人の浮浪児でこの映画のテーマがくっきりと示される。戦後のマッカーサー進駐から、サンフランシスコ講和条約、メーデーの車両炎上、水爆実験、浅沼稲次郎暗殺、安保反対デモ、国会の強行採決、その後の経済復興まで、絶え間なく挿入されるニュースリールは日本の戦後史を通観し、そのうえでの今、忘れてはいけないものがあるのではないかと鋭く問いかける。

渾身のテーマに監督の演出は引き締まり、北九州ロケもふくむ撮影は大掛かりで、市内をゆく石炭貨物車に引きずられる石山健二郎など俳優も熱演。激しい安保反対デモの現実映像と再現映像のカットバックににちらりと浅丘を見つけた驚き。クラブで酔ってかつぎこまれた自分のアパートで、社会に無関心な高橋を攻撃する浅丘は、彼女本来の主張のある女性を演じて最高だ。せまい部屋の二人だけの場面は精妙な照明が心理を照らし出す。

また組頭の加藤嘉。日本の俳優で怒りの演技が最も怖いこの人が、渾身の憤怒を炸裂させる。いかにも北九州ののぼせもん組員の川地民夫もぴたりのはまり役。右翼団体でひそかに高橋を監視する垂水悟郎は、しだいに彼の人間に惹かれてゆき、浅丘の部屋に高橋が居ることを知りながら、聞こえよがしに「北九州から呼び帰すように言ってきたが行くな、そしてオレがあばよと言っていたと伝えてくれ」と帰る名場面。

そしてストイックな高橋のすばらしさ。法廷で相手の名を確かめるといきなり射殺してその場で自首する眼。戻った北九州でも単身まっすぐ敵の組に入ってゆき親分二人を即座に射殺する眼。「自分は狼」にこれほど適役はなく、文字通り代表作だ。

この社会的テーマが、日活アクションの手法で作られていることに映画的な完成度をみる。ラストシーンは、忙しい新聞社デスクで北九州の親分殺しを知った浅丘が窓から外を見る大きなビルを、次第にロングに引いてゆき、悲しげなトランペットソロがくっきりと主題を印象づける。

この作品は、私が1964年に上京して入った大学の映画研究会で圧倒的な人気だった。それは前年の安保反対デモの挫折から生まれた心理にストレートに突き刺さる「自分たちに迫った」映画だったからだ。

ながい間、日本映画を見続けてきたが、日活のルーチンとも見える中に、まれにみる、問題意識を持った傑作が生まれていた感動でいっぱいだ。再上映あらば必見!

蔵原の演出は力は入っていても空回り。

『われらの時代』(C)日活

『われらの時代』
シネマヴェーラ渋谷
特集「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」(2019.2/2〜2/22)で上映。

1959(昭和34年)日活 97分
監督:蔵原惟繕 原作:大江健三郎
脚本:白坂依志夫 撮影:山崎善弘
音楽:佐藤勝 美術:松山崇
出演:長門裕之/吉行和子/渡辺美佐子/小高雄二/金子信雄
太田ひとこと:クラブマネージャー金子信雄だけがいつものオーバー演技で救いになる。

日本脱出を夢見る東大生の長門裕之は、学生運動の強引な動員にも革命組織の誘いにものらず、フランス国費留学の応募論文を書いている。年上の渡辺美佐子に囲われて学費も出してもらっているが、渡辺は外人専用の娼婦でパトロンの来るときは部屋に入れない。長門はパトロン男に「日本人は腑抜け」と罵倒されても「そうです」とかわす。

長門の弟はクラブで三人組でジャズ演奏して稼ぎながら、トラックを買って気ままな旅に出るのを夢見ている。世の中がおもしろくない三人は、朝鮮人で戦争経験のある小高雄二の発案で財界大物を爆弾で脅す計画を実行するが失敗する。ホモの小高は朝鮮で愛人だったアメリカ男と再会、大金を持っているのを知り殺して強奪する。仲間割れで小高と一人は死に、残された弟は警察に追われて逃げ死ぬ。

留学論文が通った長門は有頂天になり、囲う渡辺を捨て、フランス語を教えるうちに恋人になった吉行和子とともに渡航を決める。しかし重い結核で、身ごもった子を生めないとわかった吉行は絶望して長門とガス心中を計り、間一髪で助かった長門は吉行とも別れ、復縁に来た渡辺も拒絶して、すさんでゆく。

革命組織から紹介されたアラブ人はフランスのアルジェリア弾圧に抵抗していて長門に協力を求める。フランス大使はそういう人物とのつながりを絶てと諭すが長門は「ノン」と答え、留学はご破算になる。絶望した長門は鉄橋で飛び込み自殺を計るがそれもできず、肩を落として去る。

冒頭「我々の世代に希望はあるか」と正面からナレーションが入って身構える。「希望はない」という結末に向かって話は進むが、スリル、スピード、セックス、ジャズで表す現代風俗は表面的で、小高の爆弾事件などはあまりにちゃち。自分本位の長門に渡辺がなぜ惚れているかもわからない。大きな夢を一時の正義感でご破算にする長門もバカだ。

これすべて脚本が不出来だから。大江健三郎の小説は面白いピカレスクと読んだのだが、脚本の台詞はナマで、話に説得性を作れずついてゆけない。蔵原の演出は力は入っていても空回り。『狼の王子』と同様、こちらも日活アクションスタイルで時代を描いたが、1953年に発表された小説の即映画化は地に足のつかない形だけだった。

連載先月に、蔵原の本作を★★★★★に含めたけれど、十年ぶりくらいに再見したら良くなかったので★★★に訂正します。失礼しました。

プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。

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