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『モコミ』小芝風花が体現する“世界”との距離の取り方 加藤清史郎との恋の行方にも注目

リアルサウンド

21/3/14(日) 11:00

 「これにて良いお兄ちゃんの役を降板させていただきます」――俊祐(工藤阿須加)の唐突な宣言から始まった土曜ナイトドラマ『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日系)第7話。

 前話、清水家に岸田佑矢(加藤清史郎)を招いての食事会であらわになった俊祐の意外すぎる本音。これまで反抗期もなかった俊祐の突然の告白と家出に、特に母親の千華子(富田靖子)は取り乱すも、萌子美(小芝風花)から「自分がどうしたら良いかわからない時に、いろいろ言われたらもっと混乱する。安心して戻れるように待っててほしかった」と自身が学校に行けなくなった時の気持ちや経験をもとに諭され、信じて待つことを決める。

 大変だったのは花屋での仕事だ。俊祐が作るオーソドックスなフラワーアレンジメントが好きだという常連客からのアレンジメント依頼に応えようと萌子美は奮闘する。花の声を無視して兄のアレンジメントに似せようとすればするほど、これまで色鮮やかだった花たちが一気に色彩をなくし、一気に元気をなくしていく。それはきっと萌子美にとって想像を絶する痛みを伴う試みだったのだろう。

 これまで幼い頃からどんなに周囲に変人扱いされても嘘つきだといじめられても、頑なに守ってきた自分だけの世界、大切なものを彼女は手放そうとしたのだ。兄のいない花屋を自分が守るために。兄に安心して戻ってこられる場所を残しておくために。彼女は俊祐が使っていた花ばさみを手にとり、そのハサミの声を聞いて作業を進めていく。見事俊祐に似せたアレンジメントが出来上がっていくが、一方萌子美の表情からはどんどんいつもの生き生きとした輝きが消えていく。彼女が神経をすり減らし消耗している様子を、萌子美演じる小芝風花が一切言葉を発さず、表情だけで見事表現していた。それは、花屋に兄の姿が戻り喜んだのも束の間、萌子美に急に異変が訪れた時もだ。これまで聞こえていた花やモノ、相棒のぬいぐるみのトミーの声さえ聞こえなくなってしまった。その大きな大きな変化感を、彼女の一瞬の表情やこれまでとは違うモノや花との絶妙な距離の取り方、もっと言えば彼女の「世界」との距離の取り方で表してくれていた。

 しかし、萌子美の身に起きている一連の出来事は一種の例えなのかもしれない。萌子美のような特殊な能力はなくとも、誰しも幼少期には固定観念に縛られず自由に物事の輪郭を描き、自分の思うままに世界を捉えていたのに、大人になるにつれいつの間にか自分の本音を見失ってしまう。千華子のようにどんどん「世間体」や「多数派」の意見、「常識」に惑わされ、雑音が増えれば増えるほど自身の「心の声」に蓋をしてしまい耳を傾けられなくなる。下手に「比較対象」や「基準」が出来てしまうことで、俊祐のようにチャレンジしてみる前に夢を諦めてしまったりするし、先回りして相手のリアクションばかり考えてしまい伸寛(田辺誠一)のように肝心なことほどなかなか口に出せなくなってしまったりもする。本当に自分自身が心底望んでいることなのか、心ときめくことなのかということよりも「こうあるべき」や「こうしなくちゃいけない」に意識が囚われ、“want”よりも“must”ばかりが大きくなってしまう。ふと立ち止まって自分の心の声に耳を傾けてみたところで、もう心が何も発せられなくなっている、あるいは心の声のキャッチの仕方がわからなくなっている。そんな迷える大人は少なくないのではないだろうか。

 ただ、本作が誰にとっても優しいのは、萌子美のような少し不思議な能力を持った人がどんどん外の世界と繋がる様子を描きながらも、一方で「何をやっても可もなく不可もなく」な俊祐のような人間が抱える悩みにも寄り添い、俊祐のコンプレックスでもある“オーソドックスさ”を求める人の存在もきちんと見せてくれるところにあるだろう。

 次週、萌子美はアイデンティティー喪失に繋がりかねないこの大きな変化をどのように受け止め、どう向き合っていくのか。佑矢と萌子美の恋の行方とともに見守りたい。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:00~23:30放送
出演:小芝風花、加藤清史郎、工藤阿須加、田辺誠一、富田靖子、橋爪功、水沢エレナ、内藤理沙ほか
脚本:橋部敦子
演出:竹園元(テレビ朝日)、常廣丈太(テレビ朝日)、鎌田敏明
音楽プロデュース:S.E.N.S. Company
音楽:森英治
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:竹園元、中込卓也(テレビ朝日)、布施等(MMJ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:メディアミックス・ジャパン(MMJ)
企画協力:オスカープロモーション
(c)テレビ朝日

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