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ミッツ・マングローブが語る、オリジナルプレイリストを通した中山美穂の魅力「J-POPの進化の歴史的資料みたい」

リアルサウンド

20/12/25(金) 18:00

 2020年にデビュー35周年を迎えた中山美穂。そのベストアルバム『All Time Best』の発売を記念して、女装家で音楽への造詣が深いミッツ・マングローブ氏が、中山美穂の楽曲によるオリジナルプレイリストを作成。完成したプレイリストを前に、選曲にあたってのこだわりや、中山美穂の楽曲、歌手としての魅力を聞いた。(蒲谷晶子)

全曲をエンドレスで聴き込み生まれたプレイリスト

ーー今回の選曲にあたり、あらためて楽曲を聴いてみていかがでしたか?

ミッツ・マングローブ:ミポリンの楽曲を聴き直して感じたのは、80年代、90年代、2000年代と、3つのディケイドそれぞれの最先端が反映されていることですね。もちろん、アイドルの楽曲には当時の時代性が反映されているんですけど、とくにミポリンの曲からはそのときの最先端のサウンドを、ストレートにぶつけている印象を受けました。

 90年代は掘り出しものの楽曲も多いですね。当時は洋楽で流行したサウンドが邦楽に落とし込まれるまでに、タイムラグが半年から1年ぐらいあったと思うんです。でもミポリンの楽曲は洋楽とほぼ同時進行というか、アレンジにしてもメロディラインにしても洋楽の流行が明確に昇華されている。90年代初頭に井上ヨシマサさんが編曲された楽曲には、ハウス系の音色を使った楽曲があったりするし、80年代後半のユーロビート系の楽曲も当時の洋楽にすごく忠実で。洋楽の流行を邦楽に取り入れるときって、日本で受け入れやすい音色にするとかテイストを変えることが多いんです。だけどミポリンの楽曲はそこがわりとストレートなんですよね。

――リアルタイムで当時のサウンドが反映されているというか。

ミッツ・マングローブ:今はインターネットやサブスクがあって、日本と海外の間に音楽的なタイムラグが小さいじゃないですか。でも、まだそのタイムラグが大きかった時代に、これだけのことをやっていたのがすごいし、J-POPが洋楽の要素をどう取り入れて進化してきたのか、その過程みたいなものもわかるんじゃないかな。選曲にはそういう視点も入れています。J-POPが欧米のダンスミュージックをどう取り入れたのか、その歴史的資料みたいな感じもあるんですよね。

ーー曲順もそれにまつわる感じで考えられたのでしょうか?

ミッツ・マングローブ:曲順はあえて時系列にしていないです。それをやるとダサくなると思ったから。私はこういうプレイリストを作ってカセットに録音していた世代なので、今回の選曲をするときにはそういうニュアンスもこだわりたかった。今はワンタッチでシャッフルできるから、そんなには伝わらない感覚かもしれないけど、一度はこの順番通りに聞いてみてほしいと思います。

 選曲にあたって1曲目をどうしようかな、というのはずっと考えました。どの曲で始まるかによって、そのあとに選ぶ曲も全然変わってくるので。とりあえず88、9年ぐらいのユーロビートから90年代に入って一気にハウスにサウンドが変わるところ、そういった変化も織り交ぜつつ、季節感みたいなものも少し考えて。たとえば「Funky Mermaid」から続く3曲は夏シリーズにしてみたり。あとは歌詞同士のつながり、整合性みたいな部分も考えたかな。

――選曲にあたってはまず記憶にある楽曲からあたってみた感じでしょうか。それともひたすら聴いてみて?

ミッツ・マングローブ:とにかく全曲をエンドレスで聴き続けて、そこから「今日はこれだな」という曲を20曲選んで、次の日に「今日はこれ」とまた20曲選んで……。そうやっていく中で自分の中にすごく染み付いた曲もあったんですけど、そういう情に流されて選ぶとひとりよがりになるので、一回引いて考えて、サブスクはマニアックな曲も手軽に聴けるからリミックスも入れたいなとかも考えつつ。

 ただ、あまりテイストを寄せてつなぎやすい曲でつないでしまうと、全部の雰囲気が似ちゃうんですよね。実はこれがプレイリストを考えるときの一番の落とし穴。ときにはガラッと色や情景、テンポ感を変えるために、あえてバラードを入れたところもあります。

 バラードといえば、ミポリンの楽曲には他のアイドルと比べてダントツでバラードの名曲が多いんです。だから、みんながよく知っているバラード曲もちょこちょこ入れて。あとはアルバム曲もバラしてまぶしています。たとえば「GET YOUR LOVE TONIGHT」は、同じアルバム『CATCH THE NITE』収録の「CATCH ME」とつなげてみたり。

 アルバム曲には攻めたアレンジが多いので、このプレイリストを聴いて、いろんなアルバムにも飛んでもらえたらいいですね。当初、アルバム『manifesto』の曲も候補にしていて結局入れなかったんですが、あの辺のサウンドなんて本当にゴリゴリですから(笑)。当時から本当に気概のあることをやられていたと感じます。

ーー代表曲からマニアックな曲まで、本当に多彩な選曲だと思います。ただ「Rosa」をもっと序盤に持ってこられるかな? と思っていたので、そこは意外でした。

ミッツ・マングローブ:実は最初のほうに持っていく案もあって、それこそ「Rosa」と「Platinum Cat」のどっちを先にするかも、何回も考え直しましたね。考えていく中で、中盤でひとしきり切ない楽曲が続いてから「派手!!! 」で1回リセットして、「わがままな あくとれす」でマイナー調に戻ってまたウェットになったときに「Rosa」がきたら、聴いていて「ウワーッ!」ってなるなと思って。ここの流れ、私好きなんですよ(笑)。

どんなサウンドにも溶け込む中山美穂の歌声

ーー音楽通が聴くとあっと思うような楽曲も結構ありますよね。先ほど話題に上がった「Funky Mermaid」を聴くと当時、マドンナがメガミックスを出していましたけど、そういう時代の空気も感じますし。

ミッツ・マングローブ:不思議な感じなんですよね。マドンナみたいな活動スタイルでもないし、ずっと同じ制作陣が作っているわけでもないのに。「Funky Mermaid」には「Moonlight Sexy Dance」のマリンバなど、ほかのミポリンの楽曲がサンプリングされていたり、「Panorama」にはサンプリングではないけど古舘伊知郎さんの台詞が入っていたりして、それがまたかっこいい。

 ミポリンにはアナログ盤にしたらかっこいい曲がいっぱいありますよね。「Rosa」とかもアナログで出してほしいなぁ。あと短冊CDコレクションも出してほしい(笑)。

ーー徹底的にこだわった作品が次々とリリースされていましたからね。

ミッツ・マングローブ:当時はアルバムを毎年リリースして、ツアーもやっていたわけじゃないですか。いちアイドルのコンサートに行って、これだけクオリティの高い音楽を鑑賞できるなんてすごく贅沢な時代だったんだなと思います。

 90年代以降はミポリンに、アーティストとしての自我が芽生えているのもわかるし、自分でサウンドを作るというところも含め、今聴いてみると全部がうまくいっていたんだなと感じます。ちょっと稀有なシンガーというか、アイドル歌手ですよね。

 一般的な方々からすると、やっぱり中山美穂といえば「You’re My Only Shinin’ Star」や「世界中の誰よりきっと」などが代表曲になると思うんです。「もっといっぱい、いい曲があるのに!」と思っても、時代が進むと作品の絶対量が増えるから、歌手1人に対して世間の許容量が少なくなっていく。それが私にとってすごく寂しいし、つまらないなと思うところで。

 だから曲を残すって世間の記憶力といかに戦うかなんですよね。ファンやオタクやマニアはそればかりやっているから絶対に削ぎ落ちることはないけど、普通に生きている人たちの記憶の中にどうやって残すか。それでいうとミポリンはB面の楽曲が本当に充実しているんです。捨て曲がまったくない。

――楽曲単位で初めて聴く方は、A面だったかB面だったかまではおそらくわからないですよね。そういった先入観なしに楽曲を聴くことができるのも、プレイリストの利点かもしれないです。

ミッツ・マングローブ:ただ、「この曲はあのシングルのB面だった」という情報を持っておくことも、音楽の楽しみ方の醍醐味だとも思うんですよ。そういうことがわかると同じ曲を聴いてもよりおもしろいから。

 今って音楽を「読まない」でしょう? 私たちの世代には音楽には読むものという側面がありましたから。バンドやFM放送、レコードについての雑誌がいっぱいあって、そういった読みものから得るものがすごくあったと思う。その分、頭でっかちになっちゃうところもあったけど、活字で読んでコンサートに足を運んでみることで、知識と感覚のギャップを埋め合わせつつ、体験をいかに増やしていくという楽しみがあって。

 今は感受性ありきというか「考えるな、感じろ」みたいなことばかりじゃない? 当時は誰かの理屈や思い込みも享受して、それを取捨選択することで自分の感性が育まれたというか。そういう意味では今は危機的状況にある気がするんです。今は★が4個ついてればみんな聴いちゃうし、みんなが聴くから私も聴くという流れになっていて。そういう消費のしかたをしていると、同じものしか残らなくなる。だから音楽を「読む」という要素も復活したらいいですよね。このプレイリストも1曲1曲レビューが全部書けるくらい聴き込んで選んでいるので、どこかでレビューが書けないかな、と思っているくらいで。

ーーでは最後に、このプレイリストのタイトル「39/35」に込めた思いを教えてください。

ミッツ・マングローブ:「50/50」にもちょっとかけているんですけど、35年分の楽曲から39曲を選んだということですね。で、39は「Thank You」にもかかっていて……、まぁそれはたまたまですけど(笑)。プレイリストができあがる前日は45曲くらいあって、さすがに長いなと思って最後に精査したら39曲になったんですよ。それなら1曲足して40にするのじゃなくて、39で止めたんだなっていうのが、イメージとして伝わったほうがおもしろいかなって。

 ちなみにプレイリストは「You’re My Only Shinin’ Star」までがコンサート本編、「不意のKiss」からの3曲はアンコールのイメージです。だからピアノ1本で始まる「不意のKiss」がいいなと思ったし、今回聴き直して好きになった「花瓶」もここに入れようと思って。この2曲をつなぐために、3曲目に入れていた「時計草」を持ってきたんですよ。それでずっとラストにしようと思っていた「Sweetest Lover」を、思い切って3曲目に持っていくことにしたんです。あれは我ながら大英断でした(笑)。

ーー選曲にあたって、本当に聴き込んだことが伝わってきます。毎日、中山美穂の楽曲漬けになるのは大変だったのでは?

ミッツ・マングローブ:それが不思議と大変ではなかったんです。他の人の作品でこういうことをすると「しばらく聴きたくないかな」となったりするんだけど、今回は全然それがなくて。ミポリンの声ってどんなサウンドにもふっと溶け込む、不思議な魅力のある声なんですよね。クセはあるけど倍音がきれいで、人の耳と心を疲労させない。ずっと聴いていても疲れない声なんですよ。今回、あらためて聴き直してみることで「こんなにいいアルバムだったのか!」と気づくことが多かったですし、本当に楽しみながら、選曲することができました。

■MIHO NAKAYAMA『39/35』selected by MITZ MANGROVE
プレイリストURL
1.     Too Fast, Too Close (Dance Version) / シングル『女神たちの冒険』
2.     Witches ウィッチズ / シングル「Witchesウィッチズ」
3.     Sweetest Lover / アルバム『angel hearts』
4.     YOU AND I / シングル『ROSÉCOLOR』
5.     ROSÉCOLOR /  シングル「ROSÉCOLOR」
6.     誰かが愛に…/ シングル『これからのI Love You』
7.     野蛮な宝石 / アルバム『Jeweluna』
8.     あるきなさい / アルバム『Mellow』
9.     Funky Mermaid(M.I.D.DANCE MIX) / MASTER MIX:MASAHIKO“MONCHI”TANAKA、EDIT:MASAAKI TAMURA /アルバム『Makin’ Dancin’』
10.  By-By My Sea Breeze / アルバム『ONE AND ONLY』
11. 50/50/シングル『50/50』
12. noon moon/ アルバム『A Place Under the Sun』
13. 16ブランコ / アルバム『Mid Blue』
14. ただ泣きたくなるの(Neuf Neuf)漣/アルバム『Neuf Neuf』
15. 女神たちの冒険(Album Version) / アルバム『Jeweluna』
16. Strange Parade / アルバム『Mind Game』
17. EL NINO / アルバム『OLIVE』
18. True Romance / アルバム『Deep Lip French』
19. 泣かない指輪 / アルバム『Jeweluna』
20. スウェーデンの城 / アルバム『EXOTIQUE』
21. I can’t follow you / アルバム『COLLECTION II』
22. ジェラシー/ シングル『派手!!!』
23. ひとりごと / アルバム『Dé eaya』
24. 「派手!!!」/ アルバム『COLLECTION Ⅰ』
25. わがままなあくとれす / アルバム『わがままなあくとれす』
26. Rosa / シングル『Rosa』
27. Platinum Cat / アルバム『Mellow』
28. 遠い街のどこかで…/ シングル『遠い街のどこかで』
29. 天使の気持ち / アルバム『angel hearts』
30. SWITCH ON(ハートのスイッチを押して)/ アルバム『EXOTIQUE』
31. WAKUWAKUさせて (ロング・バージョン) / シングル『WAKU WAKUさせて』
32. 「C」LP Remix version / シングル「C」
33. Panorama / アルバム『Pure White』
34. GET YOUR LOVE TONIGHT / アルバム『CATCH THE NITE』
35. CATCH ME / アルバム『CATCH THE NITE』
36. You’re My Only Shinin’ Star / シングル『You’re My Only Shinin’ Star』
37. 不意のKiss / シングル『True Romance 』
38. 時計草 / アルバム『Neuf Neuf』
39. 花瓶 / アルバム『CATCH THE NITE』

■リリース情報
『All Time Best』
発売:12月23日(水)
・初回限定盤
(CD+Blu-ray) 三方背ボックス仕様
価格:¥7,000(税抜)    
収録内容:代表曲を含む40曲収録した3枚組み
・通常盤(CD)
価格:¥3,500(税抜)    
収録内容:初回限定盤と同内容

中山美穂 オフィシャルサイト
ミッツ・マングローブ オフィシャルサイト

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