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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

『TBS赤坂ACTシアタープロデュース 志の輔らくご 恒例 中村仲蔵』 

山本益博の ずばり、落語!

第十二回『立川志の輔』 令和の落語家ライブ、昭和の落語家アーカイブ

毎月連載

第12回

19/5/30(木)

 「平成」の30年間を見渡すと、古今亭志ん朝、立川談志の両雄が亡くなり、柳家小さん、桂米朝の人間国宝ふたりも失って、一時は落語界の行く末が案じられたが、その「平成」の落語界を支えてきた一人が立川志の輔である。「令和」の時代に入ったいま、大黒柱で第一人者と呼んでも過言ではなかろう。

 志の輔は古典落語も自作の落語も高座にかける、今、はやりの言葉で言えば「二刀流」。彼が、この「二刀流」で先頭を歩んでいることが、どれほど新作落語の旗手たちを勇気づけているかわからない。

 1954年、富山県新湊市(現・射水市)出身。1983年、29歳で立川談志に入門、前座名志の輔。その前座名を真打になっても名乗っているのは、極めて珍しい。

 私が志の輔の落語に注目したきっかけは古典の『中村仲蔵』だった。噺の運びが悠然としながら、仲蔵が『忠臣蔵』五段目の斧定九郎役の衣装のひらめきを授かる夕立のなかの「そば屋」のくだりが迫力満点だった。そして、何より、歌舞伎役者を題材に取り上げた古い噺でも、若い観客を惹きつける「現代語感」に優れていたことが、何よりの魅力だった。

 そして、志の輔の本領発揮の高座を知るきっかけとなったのが、渋谷で毎年1か月にわたって開催されていた『志の輔らくごin PARCO』である。毎日、前座も使わず一人で古典と新作を三席、3時間ほどの公演。高座に上がるたびに「ようこそおいでくださいました。昨日までは、すべて今日のための稽古でした」といって笑わせながら、落語の高座を劇場空間に拡大する試みを続け、「現代の落語とは何か」を問うてきた。

 今でも忘れられないのは自作『歓喜の歌』のラストシーン。噺が終わったと思いきや、舞台後ろの幕が開かれると、噺の中に登場したママさんコーラスのメンバーがひな壇に並び、志の輔が指揮者に変身して、ベートーヴェンの『第九』の『歓喜の歌』を歌いだした。終わった瞬間、私は思わず、「ブラヴォー」と叫んだのを思い出す。後日、『歓喜の歌』は映画にもなった。

 私のお気に入りの作品といえば『みどりの窓口』にとどめを刺すが、もし、代表作を一つ選べとなれば伊能忠敬を題材にとった『大河への道』だろうか。千葉県香取市の伊能忠敬記念館を訪れたことから話が始まり、地域おこしの千葉県職員を狂言回しに、江戸と現代を行き来しながら、話が進んでゆく。

 いまとは違って、人生の終焉時の55歳から一念発起して、日本中を歩いて測量し、17年もかけて精密な『大日本沿海輿地全図』を完成させた偉人を描いた長講一席。とても落語向きではない主人公を扱いながら、巧みに笑いで包み、落とし噺でも人情噺でもない噺をまとめ上げた。

 お見事だったのは、舞台上の仕掛けで、噺のあと背景に約200年前の伊能の作成した地図が映し出され、そこに衛星から撮った日本地図がゆっくりと重なってゆくシーン。驚くほどの重なりで、客席から感嘆の声が上がるほどだった。いつもの志の輔の新作落語とも違う、不思議な話芸の感動で、「PARCO」ならではの劇場落語の傑作といってよい。

『本多劇場プロデュース 志の輔らくご in 下北沢 恒例 牡丹灯籠』

 近年、『中村仲蔵』は『大忠臣蔵~仮名手本忠臣蔵のすべて~』とセットになって一晩のプログラムに成長をとげ、同じ手法で三遊亭円朝作『牡丹灯籠』も、高座の前半で、大勢の登場人物たちの相関図を簡潔に説明しながら、後半、本題に入ってゆく。そこには、現代の若者たちに「古典」をよりよく知ってもらおうとする工夫が満載されていて、志の輔の「噺」への意欲、情熱のとどまるところを知らない。「令和」の時代も当分は、志の輔がリーダーシップを発揮するに違いない。

豆知識 『うける』

(イラストレーション:高松啓二)

 落語の源流は、仏教の節談説教と言われています。お坊さんが各地の寺を廻って、説教をし、その見返りに信者たちからお金やお米のお布施をいただく。その説教の要諦は「はじめしんみり、なかおかしく、おわりとおとく」といわれています。

 例えば『親鸞聖人一代記』などでは、静かに話し始めて、次第に話が熱を帯びてくると、自然に節がついてゆきます。そして、飽きられないよう随所に、笑いをとりながら、ありがたいお話で締めくくります。節がついたところが「浪花節」になり、笑いの部分が「落語」に進化したと言われています。

 もう何年も前になりますが、築地の本願寺で「説教者大会」がありました。本堂に詰めかけた大勢のお年寄りの信者さんが、節談説教に聞き入りながら、何度も数珠を手に「なまんだぶ(なみあむだぶつ)なまんだぶ」と唱えていました。これを「受け念仏」と呼びます。

 私たちが普段「話がうけた」とか「バカうけ」というときの「うけ」は、実はここから来たと言われています。私たちが忘れてしまったところで、仏教がしっかりと日常とつながっているのですね。

作品紹介

『歓喜の歌』(2007年・日本)

2008年2月2日公開
配給:シネカノン
監督:松岡錠司
原作:立川志の輔
出演:小林薫/伊藤淳史/由紀さおり/浅田美代子/安田成美

『TBS赤坂ACTシアタープロデュース 志の輔らくご 恒例 中村仲蔵』

日程:2019年5月11日~14日
会場:赤坂ACTシアター

『本多劇場プロデュース 志の輔らくご in 下北沢 恒例 牡丹灯籠』

日程:2019年7月8日~15日
会場:本多劇場

プロフィール

山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。落語評論家、料理評論家。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論『桂文楽の世界』がそのまま出版され、評論家としての仕事がスタート。近著に『立川談志を聴け』(小学館刊)、『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)など。

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