Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

立川直樹のエンタテインメント探偵

デヴィッド・ボウイの衣裳を手がけた山本寛斎、アレキサンダー・マックイーン。レディー・ガガのMVを見事にパロディした渡辺直美

毎月連載

第57回

山本寛斎デザインによるデヴィッド・ボウイの衣装(写真:Shutterstock/アフロ)

7月21日に急性骨髄性白血病のために死去した山本寛斎さん関連の記事は随分たくさん目にしたが、朝日新聞7月28日付の「16年、デヴィッド・ボウイを悼む記事での取材時には“クリエーターは、どこかで常に死を覚悟して生きているものです”と語っていた。……」という一文が特に刺さった。

60年代の終わりに赤坂にあった伝説のディスコ“MUGEN”にディスプレイされていた寛斎さんデザインの斬新な服、70年代の初めに“渋谷西武”のA館にあった“カプセル”でも寛斎さんの世界は際立っていたし、デヴィッド・ボウイの初来日公演の衣裳に漢字で書かれた「出火吐暴威」という当て字は卒塔婆のように見えたのをよく覚えている。

「ファッション・デザイナーにはとどまらず、自分だけの表現をしたい」とジャンルを超えたイベントのプロデューサーになってからの仕事ぶりもエネルギッシュだったが、寛斎さんの死去の2日後にWOWOWで観ることが出来た『アレキサンダー・マックイーン / 反逆児が残したスタイル』というドキュメンタリーは何か見えない力が結びつけたのだろうか。

デヴィッド・ボウイ。着用している衣装はアレキサンダー・マックイーンのデザイン(写真:AP/アフロ)

2010年2月に最愛の母が死んで鬱になり、ドラッグの過剰摂取と首つり自殺で40歳の若さでこの世を去ったマックイーンが作り上げた何本かのショーの言葉では形容できない素晴しさ。「デザイナーの仕事は枠を打ち破ること」「僕が作りたいのは作品のイリュージョン」と言っていたマックイーンは切り裂きジャックが出入りしていたロンドンのBARの名前を冠したショーの後のインタビューで「これはファッション・ショー?」と聞かれると、さらりと「アートさ」と言葉を返していたが、クリエイティブなパワーというのはジャンルや時代を超えて人々を魅了するものだと改めて思わされた。

それはマックイーンの熱烈なファンだったというレディー・ガガの6枚目のアルバム『クロマティカ』に収録されている『レイン・オン・ミー』のPVを見事にパロディにした渡辺直美の大胆な挑戦にもつながっていく。

(C)YOSHIMOTO KOGYO CO., LTD

『レイン・オン・ミー』はレディー・ガガとアリアナ・グランデの共演で女性同士のコラボで初めて初登場1位という快挙に輝いた曲だったが、ゆりやんレトリィバァとのコラボで作品を作った渡辺直美はナイフの代わりに団子で締めるというオチまで含めて完全にインターナショナルなレベルに達している。これはやられたなーというのが僕の偽らざる気持だ。

(C)YOSHIMOTO KOGYO CO., LTD

PARCO劇場『三谷幸喜のショーガール』『三谷文楽「其礼成心中」』、美術館「えき」KYOTO『美しNIPPON』など

そして“やられたな”という感じは三谷幸喜という人の底知れぬ才能と客の心を捕まえるうまさ。勿論、以前からその旺盛な仕事ぶりは見知っていたが、8月4日にPARCO劇場で観た『三谷幸喜のショーガール~告白しちゃいなよ、you(Social Distancing Version)』と、8月8日にWOWOWで観た三谷幸喜が脚本・監督を務めた政治コメディ『記憶にございません!』のおもしろさと巧妙さには大いに笑わされ、8月13日に再びPARCO劇場で観た『三谷文楽「其礼成心中」』の伝統芸能のデキャンティングのやり口は、ちょっと誰にも真似が出来ないものかも知れないと思わされた。

『三谷幸喜のショーガール~告白しちゃいなよ、you(Social Distancing Version)』

あと書いておきたいのは、8月4日にPARCO劇場に行く前に観たヒカリエホール・ホールAで4日間だけ〈緊急企画!!〉として開催された『現代演劇ポスター展』。『「ジャパン・アヴァンギャルド〜アングラ演劇傑作ポスター」を中心に!! 〜 演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶 〜』というウタイ文句通りに厳選されて吊り下げられた342枚のポスターは1956年から2020年までの時空トリップを楽しませてくれたが、余りの物量に最後にはクラクラしてしまった。

『水野美術館コレクション 美しNIPPON』

そして展覧会と言えば、8月1日に万博記念公園のお祭り広場にオープンした“よしもとドライブインシアター”の初日のイベントで、ヤノベケンジと『太陽の塔』の上映前にトークショーをやった翌日に、美術館「えき」KYOTOで観た『美しNIPPON』も“ベスト・オブ「日本画」”と称賛したい小ぶりながら実に見ごたえのあるものだった。

近代日本画の王道ともいうべき日本美術院系の作品が核になっている水野美術館のコレクションから選ばれた名画がきれいに並んでいるのを見ると、“うまさ”と“美しさ”というのは理屈抜きだと思ったが、横山大観、上村松園、菱田春草……といった誰でも知っている巨匠の中に混じって展示されていた西郷孤月という画家の存在を知ったのも大収穫だった。

8月1日に万博記念公園に行く前に千日前のLAUGH & PEACE ART GALLERYで観たMADBUNNYの『PANDEMIC BLUES』も是非関東でも開催して欲しいと思う中々のものだった。

作品紹介

『アレキサンダー・マックイーン / 反逆児が残したスタイル』

放送日:2020年7月23日
WOWOW

PARCO劇場オープニング・シリーズ『三谷幸喜のショーガール~告白しちゃいなよ、you(Social Distancing Version)』

日程:2020年8月13日~20日
会場:PARCO劇場
作・演出:三谷幸喜
出演:竹本千歳太夫/豊竹呂勢太夫/豊竹睦太夫/他

『記憶にございません!』(2019年・日本)

2019年9月13日公開
配給:東宝
監督・脚本:三谷幸喜
出演:中井貴一/ディーン・フジオカ/石田ゆり子/草刈正雄/佐藤浩市
放送日:2020年8月8日
WOWOW

PARCO劇場オープニング・シリーズ『三谷文楽「其礼成心中」』

日程:2020年8月13日~20日
会場:PARCO劇場

『緊急企画!! 現代演劇ポスター展2020「ジャパン・アヴァンギャルド〜アングラ演劇傑作ポスター」を中心に!! 〜 演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶 〜』

会期:2020年8月2日~5日
会場:ヒカリエホール ホールA

『水野美術館コレクション 美しNIPPON』

会期:2020年7月4日~8月2日
会場:美術館「えき」KYOTO

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

アプリで読む