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「誇らしさと感謝と安堵を感じています」、岡田利規演出「夕鶴」東京で開幕

ナタリー

全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」東京公演より。(撮影:サラ・マクドナルド)

全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」が10月30日に東京・東京芸術劇場 コンサートホールにて開幕した。

本公演は、團伊玖磨による歌劇「夕鶴」を、岡田利規の新演出で立ち上げるもの。本作には、つう役の小林沙羅、与ひょう役の与儀巧、運ず役の寺田功治、惣ど役の三戸大久に加え、ダンサーの岡本優、工藤響子が出演。また東京公演の指揮は辻博之が、愛知公演と熊本公演の指揮は鈴木優人が務める。

舞台には、台本に記された“雪深い村はずれの一軒のあばら家”というイメージとはかけ離れた、モダンなキッチンとリビングが設えられ、部屋の中央には見るからに頑丈そうな扉が見える。2階には植物などが配されたゆったりした空間が広がり、リゾート風のデッキチェアが置かれた。また部屋は高い壁に囲まれていて、上部の窓からは青空がのぞく。そこへ、ふてぶてしい態度の子供たちが姿を現し、カラフルな照明に照らされながら思い思いのポーズを決めた。続けて舞台の奥から姿を現した彼らは、アニメ風の表情が描かれた大きな風船を頭上に掲げ、いかにも“子供らしい声”で童歌を歌い始め……。

9月末に行われた本作の会見で、岡田は「『夕鶴』は、イノセントな存在であったつうが、資本主義にズブズブになっていく与ひょうたちによって資本主義に絡め取られていく物語。しかしつうをイノセントな存在、つまり資本主義というシステムの前にいる状態ではなく、ポスト資本主義にいる存在として描き、資本主義を乗り越えた存在であるつうが、我々にその問題を突きつけてくる、という形で今回は作品を立ち上げたいと思っています」と語った。果たして岡田演出版の「つう」は、白い肌に漆黒のドレスをまとい、悠然とした態度で姿を現すと、抑制した動きと表情で周囲を圧倒した。そんなつうの前で右往左往する与ひょう、成金風の出立ちでコミカルな立ち回りを見せる運ずと惣ど、そんな大人たちを舞台上の“客席”でじっと見つめる子供たちが、「夕鶴」の作品世界を立体的に立ち上げていった。

2部では、1部で抑えられていたつうの思いが、歌と共に爆発。ただし、与ひょうにすがるのではなく、“金”の虜になっていく与ひょうを蔑みにも似た憐れみの目線で見据え、鋭く突き放す。そして、与ひょうが熱望する布を、ある覚悟をもって織り上げたつうは、2人の蠱惑的なダンサーと共に、機織り部屋の重たい扉を開け放ってド派手に登場し、自らの意志で力強く、その場を去っていくのだった。

初日を終えた岡田は「指揮者、ソリスト、ダンサー、合唱のこどもたち、スタッフ──座組の全員とコンセプトを共有し、体現するための時間をかけてこの『夕鶴』を形にできたことに、誇らしさと感謝と安堵を感じています。オペラまたやりたいです」とコメント。岡本は「岡田さんから発信されたコンセプトの中で我々は生き、実現する事とその場を生きる事に快楽を得ながら、今この時代の『夕鶴』を伝えたいです」と思いを語った。全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」はこのあと、来年1月30日に愛知・刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール、2月5日に熊本・熊本県立劇場 演劇ホールで上演される。

岡田利規コメント

オペラにおいては、なによりも音楽が物語っている。そのことを際立たせるための演劇上演の演出、という仕事を初めて手掛けて、それはそれは楽しい経験でした。いただいたお題が「夕鶴」であったのも、たいへんにやり甲斐があることでした。日本のオペラを代表するとされている作品をわたしたちの生きているこの時代のためのものとするために、文脈化を施す。それは必要なこと、きっといつか誰かがやるはず(べき)のこと。それをやるチャンスがたまたまぼくに回ってきた、であればその務めをしっかり果たそう、と思いでつくりました。指揮者、ソリスト、ダンサー、合唱のこどもたち、スタッフ──座組の全員とコンセプトを共有し、体現するための時間をかけてこの「夕鶴」を形にできたことに、誇らしさと感謝と安堵を感じています。オペラまたやりたいです。

岡本優コメント

ついに開幕してしまいました。早くこの日が来ないかと思っておりました。
東京公演を目撃したお客様はさぞ驚いた事と思います。舞台からもそのざわつきが伝わって参りました。岡田さんから発信されたコンセプトの中で我々は生き、実現する事とその場を生きる事に快楽を得ながら、今この時代の『夕鶴』を伝えたいです。立場と役割のコントラストが、音楽に寄り添い、全てを体感していただきたい作品。きっと心に残るモノになります。ご来場お待ちしております。

全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」

2021年10月30日(土)※公演終了。
東京都 東京芸術劇場 コンサートホール

2022年1月30日(日)
愛知県 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール

2022年2月5日(土)
熊本県 熊本県立劇場 演劇ホール

指揮:辻博之(東京公演)、鈴木優人(愛知・熊本公演)
演出:岡田利規

キャスト

つう:小林沙羅(ソプラノ)
与ひょう:与儀巧(テノール)
運ず:寺田功治(バリトン)
惣ど:三戸大久(バスバリトン)

ダンス:岡本優、工藤響子

管弦楽:ザ・オペラ・バンド(東京公演)、刈谷市総合文化センター管弦楽団(愛知公演)、九州交響楽団(熊本公演)

子供たち:世田谷ジュニア合唱団(東京公演)、アイリス少年少女合唱団(愛知公演)、NHK熊本児童合唱団(熊本公演)

※初出時より本文を変更しました。

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