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新垣結衣の体当たり演技に衝撃 『獣になれない私たち』が切り込む“現代社会の働き方”

リアルサウンド

18/10/11(木) 12:30

 「今なんでこの仕事やっているんだろう」と、働いてる自分に突如疑問を持つ人は少なからずいるだろう。入社した頃に描いていた業務以外のことを命じられ、仕方なく熟していくにつれて、どんどん“それ以外”が膨れ上がる。それでも仕事は仕事なので不満を抱えながらやるものの、上からの正当な評価は得られずアシスタントや非正規雇用から抜け出せない。

 10月10日からスタートした野木亜紀子脚本の『獣になれない私たち』(日本テレビ系)は、新垣結衣と松田龍平が見つめ合う明るいビジュアルとは裏腹に、現代に働く誰もが抱える悩みや鬱憤を凝縮させた、あまりにも心が痛むドラマだった。新垣結衣演じる深海晶は、ECサイトの制作会社に営業アシスタントとして勤務する30歳。しかし、立て続けに社員や社長秘書がやめてしまい、会社は人手不足なため、業務外のことを押しつけられている。

 晶を振り回すのは、伊藤沙莉演じる松任谷夢子、犬飼貴丈演じる上野発の2人のポンコツ社員と、24時間ひっきりなしに連絡してくるせっかちな社長・九十九剣児(山内圭哉)。松任谷は身内には饒舌なのに、社外に出た途端パニックになるあがり症で、上野は取引先の会食では居眠りをかまし、窮地に陥ると仮病で早退する責任感の低い人間だ。(でも上野はデスクトップのアイコンを、丁寧に「うえの」の形に並び替えている。そういうところは頑張る)

 周りに迷惑をかけるのに憎めない。そんな愛すべきバカに囲まれながらも、淡々と与えられたミッションを完了させていく晶なのだが、このドラマの恐ろしいのは、時折ゾッとさせられる要素が混じっているところだ。伊藤と犬飼のコメディエンヌ&コメディアンっぷりに笑わせられる一方で、晶は激務で心がすり減り、最終電車に飛び込もうとしてしまう。

 毎日毎日笑顔でなんとか乗り切っている中、理不尽な仕打ちやセクハラなど、一見些細に見えることで人間はプツッと感情の箍が外れてしまうことがある。誰もいないオフィスで終電まで働き、1つの仕事が終わったと思えば、スマートフォンに次の仕事の連絡が届く。わたしたちはいつから24時間営業になってしまったのだろう。こんな日々が終わるなら……ある種の希望を見出し、線路に飛び出したくなる気持ちは、痛いほどわかる。

 でもなにより悲しいのは、もう2年前になる『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で新垣演じるみくりが反対した“やりがい搾取”が、現状まだまだ行われているということだ。多くの人はそこから生まれる不満を、見て見ぬふりして押し殺すことで、明日を迎えているのだろうが、『獣になれない私たち』は皆があえて無視をしていた問題に真正面からぶつかっていく。

 それにしても、満員電車の窓にファンデーションを付けてしまったり、ホームの床でパソコンを開いたり、はたまた土下座までさせられたりと、“天下のガッキー”の衝撃的な姿が第1話から目白押しだった。新垣のあまりにもかわいそうな姿に同情をする一方で、それが日常となっている自分への哀れみがこみ上げてくる。

 ただ、野木の物語はリアルを切り取るだけでは終わらない。『アンナチュラル』(TBS系)、『逃げるは恥だが役に立つ』でもそうだったが、辛い現実を切り取る中で必ず希望と優しさを忍ばせている。第1話のラストで晶は普段と打って変わったモードなファッションに武装し、社長の九十九に業務分担の改善要求書を突き付けた。

 野木の作品がこんなにも愛され、支持される理由は、それは物語の共感性の高さと、嘘のない世界、そしてそのリアルな現実へのアンサーが示されているからだろう。勇気を振り絞り前に進もうとした晶は、同じような環境に苦しむ大人たち全員の希望の光になることに違いない。これから約3か月間、わたしたちの苦しみを支えるサプリメントのようなドラマが新たにスタートしたことが喜ばしい。(阿部桜子)

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