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平原綾香、『メリー・ポピンズ リターンズ』完全日本語吹替版で魅せたシンガー・声優としての表現力

リアルサウンド

19/2/14(木) 19:00

 公開中のディズニー映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の完全日本語吹替版で、主人公メリー・ポピンズの声と、彼女が歌う劇中歌、そして日本版エンドソング「幸せのありか」をシンガーソングライターの平原綾香が担当し、話題となっている。先日も朝のワイドショー番組『スッキリ』に登場し、「幸せのありか」を披露。ここ最近は“シンガーソングライター”としてだけでなく、“ミュージカル女優”としても積極的に活動をしている彼女の、一段と深みを増したボーカル表現力はお茶の間にも強い印象を残したようだ。

 『メリー・ポピンズ リターンズ』は、1964年に公開された『メリー・ポピンズ』の続編にあたる作品である。前作から20年後、大恐慌時代のロンドンが舞台となっており、大人になったジェーンとマイケルのバンクス姉弟、そしてマイケルの3人の子供のもとに、“すべてにおいてほぼ完璧”なナニー(ベビーシッター兼家庭教師)であるメリー・ポピンズが再び現れ、得意の魔法でバンクス家の“危機”を救う……というストーリー。監督は、これまでにもミュージカル映画『キャバレー』を舞台化や、『シカゴ』の映画化(アカデミー賞6部門にノミネート)などを手がけてきたロブ・マーシャル。主人公メリー・ポピンズには、『プラダを着た悪魔』や『クワイエット・プレイス』で主演を務めたエミリー・ブラントが起用された。

 メリー・ポピンズといえば、オリジナル版のジュリー・アンドリュースがあまりにも有名だ。実は、原作者であるイギリス出身の児童文学作家パメラ・トラバースは、当初ディズニーからの映画化の依頼を何度も断っており、ようやく実現したこのアンドリュース版にも事前に様々な条件(最初はアニメもミュージカルもNGだったらしい)をつけたという。その制作秘話ものちに『ウォルト・ディズニーの約束』として映画化されたが、試行錯誤の上に完成された『メリー・ポピンズ』とジュリー・アンドリュースの演技は大きな評価を浴び、第37回アカデミー賞では最多13部門にノミネートされ5部門を受賞した。

 そんなメリー・ポピンズを、今回の『メリー・ポピンズ リターンズ』で新たに演じることになったエミリー・ブラントは、あえてアンドリュース版の前作を参考にしなかったという。その代わりにトラバースの原作を初めて読み、そこから役作りのヒントを得た。アンドリュース版のメアリーよりも、エキセントリックで遠慮がなく、厳しさとユーモアを併せ持った振る舞いを演技に活かすことで、バージョンアップしたメリー・ポピンズが誕生したのだ。

 さて、そのエミリー版メリー・ポピンズの声を担当するにあたり、平原綾香はどのようなことを心がけたのだろうか。2018年にミュージカル版のメリー・ポピンズを演じた彼女にとって、そこで作り上げたメリー・ポピンズ像と、エミリー版のそれとの違いに最初は戸惑ったという。

「エミリー・ブラントさんの声がとても低い声なので、その低い声のまま、日本語で低くするとすごくドスの効いた怖いメリー・ポピンズになっちゃうので、“若干上げたほうが合うんだな”とか、いろいろそういうところを研究しながら収録していきました。(中略)翻訳の方と相談して、ちょっとミュージカルよりのメリー・ポピンズに寄せてみようっていうことで、”わかりました”を”わかったわ”とか、”なんとかなんです”を、”なんとかなのよ”にしたりしました。そうやって「語尾をどんどん変えていってみよう」というトライができたのも、ミュージカルを経験していたからこそだと思います」(平原綾香:公式インタビューより)

 原作のメリー・ポピンズをもとに役作りに挑んだエミリー・ブラントと、ミュージカルの中で“日本語を話す”メリー・ポピンズを演じてきた平原綾香。そんな2人の、それぞれのメリー・ポピンズ像がミックスされた日本語吹替版の『メリー・ポピンズ リターンズ』は、字幕版とはまた一味違った深みを味わうことができるというわけだ。

「ミュージカルを観て、メリー・ポピンズを好きになってくださった方が観ても、“ああ、ミュージカルのメリー・ポピンズもここにいるんだな”って思ってもらえた方がきっと楽しいと思ったので。ミュージカルの期間も含めて、<メリー・ポピンズというものはこういうものだ>とずっと研究しながら教えてもらっていたので、そのすべてが今回この映画で表現できたと思っています」(平原綾香:公式インタビューより)

 前作『メリー・ポピンズ』には、「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」や「チム・チム・チェリー」など、シャーマン兄弟による不朽の名曲が流れていたが、『メリー・ポピンズ リターンズ』はこれらを封印。『アダムス・ファミリー』や『ファースト・ワイフ・クラブ』などを手がけた音楽監督マーク・シャイマンによる書き下ろしの新曲が、全編にわたって散りばめられている。メリー・ポピンズが歌う楽曲は、もちろん平原が担当しているが、ディズニーの吹替を監修しているリック・デンプシーからは、必ずしも「オリジナルに忠実な歌い方」を求められたわけではなかったという。

「“表紙に騙されないで”という本の歌の時は、エミリー・ブラントみたいに歌ってたら、“日本語版は変えてみよう”とおっしゃって、リックさんは“エミリーが歌っていないような表現でやってみて!”って言うんです。“え、エミリーはそんな風に歌ってないけどいいんですか?”と言ったら、“ここでお客さんの心を掴みたいから、日本語版のオリジナルでやってくれ”と言われて。だから、もしそこが違和感だって思われても、私じゃなくてリックさんに文句を言って欲しいなって思っています(笑)」(平原綾香:公式インタビューより)

 中でも印象に残るのは、やはり冒頭でも述べた劇中歌「幸せのありか」だ。映画の中では、母親を亡くしたマイケルの子供たちを寝かしつける、メリー・ポピンズによる子守唄として歌われるこの曲に、平原は2つの意味を見出したという。

「子供たちが聴くと、亡くなってしまったお母さんが僕たちのことを見てくれてるんだっていう解釈になると思うんですけど、メリーとしてこの歌を歌った時、“私を忘れないで”っていうある種のメリーの寂しさみたいな心の声を聞いたような気がしました」(平原綾香:公式インタビューより)

 メロディもシンプルだが非常に美しい。個人的に特に好きなのは、ふた回し目のバースの後半、〈そうねきっと 待つのよ〉のラインで、サブドミナントコードに対してシャープ11thのメロディを乗せている。これは『アラジン』のテーマ曲「ホール・ニュー・ワールド」にも用いられている、胸が締めつけられるようなドリーミーな響きだ(筆者はこれを、勝手に「ディズニー・コード」と命名している)。また、この曲はエンドソングにもなっていて、その歌も平原が担当している。劇中歌とエンドソング、両方を1人のシンガーが歌うのは、日本では平原が初めてだという。こちらも快挙と言っていい。

「エンドソングは、もちろん、平原綾香として歌ったんですけど、心の中でずっと傍にいるメリーのソウルみたいなものが歌わせてくれた気がしました。メリーっぽくとか、平原綾香っぽくとか、あまり考えることはなく、自然に歌えたと思います」(平原綾香:公式インタビューより)

 メリー・ポピンズというアイコニックなキャラクターを通して、平原綾香のシンガー〜声優としての魅力が詰まった『メリー・ポピンズ リターンズ』日本語吹替版、是非とも劇場で確かめてみてほしい。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

■リリース情報
『幸せのありか』
発売:2019年2月6日
価格:¥1,204
CD
1 幸せのありか
2 Chim Chim Cher-ee(既発アルバム「Dear Music ~15th Anniversary Album~」収録)
3 Supercalifragilisticexpialidocious(既発アルバム「Dear Music ~15th Anniversary Album~」収録)
4 Chim Chim Cher-ee (Instrumental)
5 Supercalifragilisticexpialidocious (Instrumental)

平原綾香オフィシャルサイト

■公開情報
『メリー・ポピンズ リターンズ』
全国公開中
監督:ロブ・マーシャル
キャスト:エミリー・ブラント、リン=マニュエル・ミランダ、ベン・ウィショー、コリン・ファース、メリル・ストリープほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2018 Disney Enterprises Inc.
公式サイト

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