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第6回:“心を伝える”ビジュアルづくり。『アナ雪2』の映像世界

ぴあ

19/12/11(水) 12:00

全世界で大ヒットを記録している『アナと雪の女王2』は、心に響くストーリーやキャラクター描写だけでなく、大スクリーンの隅々まで広がる“ビジュアル”もこだわって制作が進められた。背景や衣装はもちろん、魔法や自然現象を描くエフェクトも劇中のエルサとアナの物語を描く上では欠かせないものだからだ。ディズニーのアーティストが長い時間をかけ、試行錯誤を繰り返しながら『アナと雪の女王2』の映像世界を作り上げるのは、観客が物語を最高の状態で楽しむため、そしてディズニーが長年に渡って築き上げてきた伝統と想いを引き継ぐためだ。

アレンデール王国に秋が来た!

(C)Kaori Suzuki

前作『アナと雪の女王』は、エルサの魔法によって訪れた“永遠に終わらない冬”が舞台で、氷や降り積もる雪、低くて重い空、吹きつける冷たい風が作品の背景に描かれたが、成長していくエルサとアナのドラマを描くため、続編では成熟をイメージさせる“秋”が舞台に選ばれた。

共同プロダクション・デザイナーを務めたリサ・キーンは「1作目は雪と氷の世界、つまり白紙のパレットに自分たちの望むどんな色も描くことができました。ところが本作は秋が舞台ですから、前作とは違う要素や色を扱う必要がありました」と振り返る。

「前作の世界観は壊したくありません。その一方で、自然にも忠実でなければなりません。では、どのようにして秋の色をバイオレットや青、エメラルドなどで彩られた前作の色調に持ち込めるか? さらに色鮮やかな背景の中でキャラクターが浮き上がって見えるようにしなければなりません」

ディズニー作品の色は“そのシーンに必要な色”を設定するのではなく、映画全体を通してみた時にそのシーンの色調はどうあるべきか? を考えて設計されている。創作中には“カラースクリプト”と呼ばれる映画の流れを色で示した“色の脚本”が作成され、彼らは物語を通して色調がどのように変化していくかを考える。

特に『アナと雪の女王2』は木々が生い茂る“魔法の森”が主な舞台だ。秋の森は葉が赤や黄に色づき、地面は落葉で埋め尽くされる。夏には“地面は茶色、見上げれば緑”の場所でも、秋には“地面も黄色、見上げても黄色”ということになりかねない。例えばそこに黄色い洋服を着たエルサが立つと……何が何だかわからなくなってしまう。

「そこで私たちはオレンジや明るい黄色のかわりに、トーンを抑えたマジェンタ(赤紫色)や焦げたオレンジ色を選びました。黄色は出てきますけど、抑え目に使っています。アレンデールや魔法の森は現実の世界とはまったく違うんです」(キーン)

完成した映画を観ると、劇中の森は私たちがイメージする“秋の自然”が広がっている。しかし、それらの色は時間をかけて選択され、“雪の女王”を連想させるブルー系の衣装を着たエルサや他のキャラクターが同時に登場しても、色がぶつかり合ったり、混ざり合わないように設計されている。さらに、魔法の森は広大で複雑。周囲は霧のようなものに覆われていて、エルサとアナが想像もしなかったことが次々に起こる。

「森というのはビジュアル的にとても“乱雑”なものになり得ます」と語るのは、作品の世界観を構築する仕事を担ったアート・ディレクター・エンバイロメントのデヴィッド・ウォムスリーだ。「ですから、様々な木々をグラフィック的に解釈をして描くことで、森が混沌として見えないようにする必要がありました。そこで私たちは自分の家の裏庭にある木を画面の中に置いたりせずに、ノルウェーの植物学者と話をして、木の大きさ、形の対比を見ながら木のグループ分けをするところからはじめました」

リサーチして得た木のデータはCGモデルが作られ、グループ分けされ、観客が観てもゴチャゴチャし過ぎないように、キャラクターが登場する場面も観客がドラマに集中できるように配置されている。ちなみに彼らは“標高の高い場所でしか育たない木”は劇中でも可能な限りそのような位置に登場させるなど、リサーチで得た知見を盛り込んだという。

「ところが、ある方向から観ると素晴らしい木のグループでも、(3Dの空間に配置しているので)カメラを5度動かすだけでヒドく見えることもあるんです。だから、どの角度から見ても、良く見えるように回転させながら配置していきました」(ウォムスリー)

街や城はそれがどれだけ巨大であっても人間がつくりあげた世界なので整理されているし、そこには“人間界のルール”がある。大通りの真ん中に家が建っていることは少ないし、映画館の座席の真ん中に信号機があることはない(上映中は信号機も携帯も電源はオフに)。でも本作の舞台になる魔法の森は違う。そこは不思議な出来事がたくさん起こる未知の場所で、前作には登場しなかったキャラクターや森を護る精霊たちがいる。そこには独自のルールがあるのだ。

謎に満ち、荘厳な自然を感じさせるけど、観客がエルサとアナのドラマに集中できるよう、魔法の森のデザインは細部まで調整されている……映画を一度観たあなたも改めて『アナと雪の女王2』を観なおすと、1回目では気づかなかった“森の秘密”をさらに見つけられるかもしれない。

背景も効果もすべてが“ドラマ”を描いている!

(C)Kaori Suzuki

通常のアニメーションは、登場人物がセリフをしゃべり、表情で感情を伝えながらドラマを前に進める。しかし、風や木や動物たち……あらゆるものに“命の魔法”を吹き込んできたディズニー・アニメーションでは、画面に登場するものすべてが感情を表現し、ストーリーを語ることができる。それは『アナと雪の女王2』でも変わらない。

「キャラクターだけではなく、自然やちょっとした表現もすべてが大事で、感情表現に大きく貢献していますから、アートディレクターのマイケル・ジアイモは感情を喚起することを意識してデザインをしました」とヘッド・オブ・アニメーションのベッキー・ブリーズは説明する。「ですから、この映画はこれまでのどの作品よりも多くの部署が密にコラボレーションすることになりました」

多くのアニメーション・スタジオではキャラクターと背景は別々の部署が作成し、作業の後半でそれらは組み合わされ、炎や水などのエフェクトが追加されて、ライティング部門が光を調整する。しかし、本作のアニメーションはそれらの部門が創作中に何度も話し合ってビジュアルづくりが行われた。

本作の予告編にもエルサが海を凍らせながら疾走し、大きな波を乗り越えて先に行こうと奮闘するシーンが登場する。これが劇中のどこに登場するかは映画館で確認してほしいが、このシーンはこれまでのアニメーションの作り方では決して実現しなかった場面だ。

「これまでの映画で私たちは多くの水のエフェクトを手がけてきましたが、本作では解決しなければならないエキサイティングな課題が問題がありました」とエフェクト・スーパーバイザーのエリン・ラモスは語る。「なぜなら、エルサは基本的に水の上を走っています。つまり、彼女はシミュレートされた水の表面を走っていることになります。ですから、私たちは波をシミュレートして画面に表現しながら、同時にエルサが走るための地面/エリアを用意しなければなりませんでした。通常ですとエフェクト部門はアニメ―ションが完成した後に作業にかかりますが、このシーンではシーンのラフスケッチの段階から参加しました。

水のシミュレーションはちょっとした変更を行うとすべてが変わってしまう。つまりエルサの行動エリアもすべて変わってしまうわけです。そこでエルサの動きと水の動きがマッチするようにエフェクト部門のアニメーターとキャラクターを描くアニメーターが一緒に創作にあたることが重要でした。海がエルサに影響を与えますが、エルサも海に影響を与えているからです」

今回取材した多くのアーティストたちが『アナと雪の女王2』では“他部門とのコラボレーション”の重要性を強調する。キャラクターの瞳の動きも、森を囲む霧も、エルサを陸へ押し流そうとする黒い波も、すべてがキャラクターで、すべてが感情表現になっている。『アナと雪の女王2』のアニメーションとビジュアルは単に“画像を精細にした”では終わらない進化を遂げたのだ。

“アナ雪2”に息づくディズニーの伝統

では、なぜ彼らはここまでしてビジュアルについて長い時間と手間をかけ、新たな手法や創作過程を導入したのだろうか? 前作で基本となる世界観はすでに完成しているし、CGアニメーションのテクノロジーは相当なレベルにまで進化している。「確かに現代のCG技術を駆使すれば、リアルな映像はいくらでも作り上げることはできると思います」と監督を務めたジェニファー・リーはうなずく。

「でも、私たちが描きたいのはリアルな世界ではなくて“信じられる世界”なんです。私たちは自分たちが暮らしている世界をCGを使ってコピーしたりマネするのではなく、観客が現実とはまるで違う世界に放り込まれた感覚を味わってほしいと思っています。それこそがディズニー・アニメーション・スタジオがやってきたことです。スタジオにいる人たちはみんなディズニー作品が大好きで、だからこそここで働いています。『アナと雪の女王2』にはベテランの2Dアニメーターも才能あふれるCGアーティストもみんなが参加してくれて、美術の画の1枚ごとに、キャラクターの動きひとつに愛情と魂をこめてくれました」

『アナと雪の女王2』は前作以上に抽象的だったり、芸術性を優先させた表現が盛り込まれている。時に背景は黒一色になり、そこに精霊たちが美しい模様を描き出す。秋の森は現実の色とは少しだけ違った色彩で描かれ、雪の結晶が城のバルコニーを埋めつくす。かつてウォルト・ディズニーが『シリー・シンフォニー』や『ファンタジア』で目指したもの、ディズニーが現代にまで引き継いできた“真の伝統”がここには息づいている。

クリス・バック監督は「そんなことを言ってもらえると……とても謙虚な気持ちになります」とほほ笑んだあと、こう続けた。「僕がスタジオに入った時、先生になってくれたのは、伝説的なアニメーター“ナイン・オールド・メン”のひとり、エリック・ラーソンさんでした。ウォルトが築き上げたキャラクター表現やストーリーテリング、エンタテインメントの感覚を、僕はエリックを通して受け継いだのだと思っています。もちろん、日々の映画をつくる中でウォルトの築いた伝統を引き継ぐ責任について考えているわけではあありません。でも……そう言ってもらえるのは光栄ですね」

『アナと雪の女王2』のビジュアルは前作から格段に進化している。それはあるスタッフ曰く「ひとコマまで、ひとピクセルまでこだわった」作業の結晶だ。それらはエルサとアナの物語を伝え、彼女たちの心の動きを伝え、そして亡きウォルト・ディズニーのアニメーションに対する想いを私たちに伝えてくれるのだ。

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