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上田慎一郎監督が力説。映画『カメラを止めるな!』が起こした“真の奇跡”とは?

ぴあ

(C)ENBUゼミナール

映画『カメラを止めるな!』が大ヒットを記録し、公開劇場を次々に増やしている。本作は低予算で製作されたインディーズ作品だが、観客の口コミが広がり、満席の上映回が続出。驚異的なスピードで上映規模を拡大していく様は“インディーズ映画界の奇跡”と呼ばれることもあるが、上田慎一郎監督は「上映館が2館から124館になったことも奇跡かもしれないですけど、それよりも“先に起こった奇跡”を忘れてはないか? とは思います。上映館数も動員数も、その“奇跡”の付加価値って気がするんです」と語る。2018年最大の話題作が起こした“真の奇跡”とは?

本作は、観客の多くが“内容については一切話せないが、とにかく観てほしい!”と語るほど、事前に内容を知らないで楽しんでほしい作品なので、冒頭だけを簡単に説明しておく。映画はキャストとスタッフがゾンビ映画を撮影しているところから始まる。しかし、本物のゾンビが襲いかかるトラブルが発生! 撮影隊は次々にゾンビになっていく……が、その後、映画は観客の想像の“超斜め上”をいく展開を見せる。

そもそも本作は、監督&俳優の養成スクールが手がける1作として製作され、都内の2館で上映を開始したが、口コミが広がって観客が殺到。満席の回が続出したことから、現在も上映館が増え続けている。

ここで突然、時計の針を少し巻き戻す。2013年に本作のアイデアを思いついた上田監督は長い時間をかけて脚本を練り、本作の実現を模索し続けていた。「この映画は自分の中でも完成形がイメージできない企画だったんですよ。舞台とかではこういう構造の話がいくつかあるし、映画でも時間が逆行したり視点が変わったりするものはありますけど、こんな映画は観たことがない。だったら、俺が作るしかない! 要は“自分が一番観たかった”ということなんですけど(笑)」

上田監督は学生時代から映画づくりを始め、これまでに8本の短編・1本の長編映画を発表してきた。しかし、本作は初の劇場用長編映画で「“これこそが俺だ!”と言える映画にしたかった」と振り返る。「短編をつくっていた時は右往左往してました。どこかで他人の眼とか意見とか気にしてたのもあって、それぞれが好きな映画ではあるんですけど、“これこそが俺だ!”って100パーセント胸をはって言える映画はそう多くはなかったんですよ。今だったらこの部分はこうするよな、とか言い訳しちゃう部分もあって。だからこそ渾身の長編をつくるんだったら、ヒットしようがしまいが、偉い人に何を言われようが、丸ごと“これこそが俺だ!”と言えるものを、とにかく自分が納得できる映画にしたいという気持ちがあったかもしれません」

とは言え、映画づくりは観客が思っているほどスムーズには進まない。スタッフやキャストはそれぞれに問題を抱えているし、人間関係が円滑にいかないこともある。スポンサーや関係者が無謀な要求をしてくることもあるし、撮影が始まれば予期していなかったトラブルが発生する。しかし、上田監督は「僕はそういう事情も楽しみながら映画をつくれる方だと思います」と笑顔を見せる。「偉い人からシーンを増やしてほしいって言われたり、この役者を使ってくれ的なことも僕は楽しめるタイプではあるんです。いろんな困難やムチャ振りによって自分がかき混ぜられてアイデアが生まれる場合も多い。撮影中もトラブルだったり予期せぬことが起こった方が面白い映画になる」。

先ほども少しだけ触れたが、本作の冒頭でも“撮影中のトラブル”が描かれている。「実は、冒頭の映画の“本来はこうなるはずだった”脚本もちゃんと書いて、みんなに配ったんですよ。でも、それよりもトラブルが起こった方が映画としては面白いんですよね。とは言え“トラブルが発生した映画の脚本”を撮っている俺たちにもトラブルが降りかかったりするわけで(笑)、もう2度と同じ映画は撮れないと思います」

どんな苦労があっても、予期せぬことが起こっても、映画を愛する人たちは困難を乗り越えて映画づくりを続ける。もちろん、映画は集団作業なので、作品に対する熱量には個人差がある。しかし、上田監督は「今回の映画は、監督、スタッフ、キャストが“面白い映画をつくる”というたったひとつのシンプルな目標に向かって“横並び”で走ることができた」と力を込める。「監督、キャスト、スタッフが横並びで一緒に映画をつくる。そこがこの映画の強みだと思ってるんです。この映画は300万の予算で、撮影期間は8日なんですけど、撮影が始まるまでにすごい時間をかけてるんですよ。脚本づくりもそうですし、キャストのリハーサルとか、みんなで飲み会したり、キャストと深夜に電話したり……密なコミュニケーションをたっぷりとって、そこで出た意見とか、飲み会でキャストが言った言葉とかをセリフにして映画の中に入れたりしてるんですね。スタッフの人もずっと同じだから、最終的には僕が判断はするんですけど、録音の人が演出について意見を出してくれることもあるし、撮影の人も普段は監督をしていたりするのでアイデアを出してくれる。普通の映画なら、アイデアの出所は監督が主ですけど、この映画は全員でアイデアを出し合ってるんです。それは撮影が終わってからも同じで、僕が編集してる間もみんながSNSで発信してくれるし、録音を担当してる人が映画のチラシを居酒屋に配りに行くことって普通はないと思うんですけど(笑)、この映画はキャストとスタッフ全員がチームになって一緒に横並びで走ってる。そんな映画あるか? これこそがまず“奇跡”だろ? ってのは思いますね」

興味深いのは、映画が公開されると“奇跡のチーム”に加わりたいと思う観客が続出したことだ。「そうなんですよね。だから、観終わった方の感想でも“いつもはひとりで観たいけど、この映画は誰かと一緒に観たい”とか“映画が終わった後にお客さん全員と打ち上げに行きたかった”って。一緒に映画を観た人も仲間に思える映画だと思うし、公開の前後も含めて“映画”として楽しんでくれている感じはします。だから、上映館が2館から124館になったことも奇跡かもしれないですけど、それよりも“先に起こった奇跡”を忘れてはないか? とは思います。上映館数も動員数も、その“奇跡”の付加価値って気がするんです」

『カメラを止めるな!』
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