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広瀬和生が選ぶ2019年落語・高座myベスト10

ぴあ

19/12/30(月) 0:00

「年間ベスト」から

12月に観た落語・高座myベスト5

「志の春落語劇場」のチラシ

①立川志の春『阪田三吉物語』
 新宿角座「志の春落語劇場」(11/26)
②三遊亭兼好『陸奥間違い』
 恵比寿ガーデンホール「恵比寿ルルティモ寄席」(12/16)
③立川談春『芝浜』
 人見記念講堂「立川談春独演会 『阿吽』(あうん)ー平成から令和へー」(12/18)
④柳家喬太郎『マイノリ』
 ザ・スズナリ「ザ・きょんスズ30」(11/27)
⑤三遊亭粋歌『浮世の床から』
 内幸町ホール「粋歌の新作コレクション2019冬」(12/11)
〈番外〉SWAブレンドストーリー『心をこめて』
 よみうりホール「SWAリターンズ」(12/13)

*日付は観劇日
 11/26〜12/21までに行った寄席・落語会20公演、72演目から選出

今月は志の春の『阪田三吉物語』に大いなる感銘を受けた。戯曲『王将』のモデルとなった天才棋士・阪田三吉の波乱万丈の生涯を描く1時間40分に及ぶ大作を前編・後編に分けて演じた。従来の“破天荒な夫を支える女房”を中心とする物語ではなく、志の春はあくまでも“将棋の物語”として、関根金次郎とのライバル物語に焦点を絞り、新たな阪田三吉像を提示した。語り口といい構成の妙といい、師匠・志の輔の影響を強く感じる。地の語りの用い方が絶妙で、将棋に詳しくない者が初めて聴いても感情移入できる。そして志の春は大阪出身だけに大阪生まれの阪田三吉やその周辺の人々を上方言葉で演じるのが実に自然だ。正真正銘の名作であり、志の春の代表作となるだろう。

「恵比寿ルルティモ寄席」のチラシ

『陸奥間違い』は浪曲の演目を兼好が独自に落語化した傑作。幕府直参の小役人が出した手紙が元で引き起こされるドタバタ劇を、兼好は持ち前の軽妙な語り口で楽しく描く。度重なる間違いがめでたい結果を生むストーリーは実に爽快だ。

「立川談春独演会 『阿吽』(あうん)ー平成から令和へー」のチラシ

談春が二夜連続で人見記念講堂で行なったネタ出し独演会「阿吽」。前日の『文七元結』も圧巻だったが、やはり『芝浜』は別格だ。愛すべき魚勝夫婦のドラマを独特な台詞回しで実に魅力的に描くラブストーリー。しかも演る度に変化している。師匠の談志がそう思わせたように、談春の『芝浜』もまた毎年聴きたい噺だ。

「ザ・きょんスズ30」のチラシ

喬太郎の30周年記念の1ヵ月興行「ザ・きょんスズ30」の全30公演の中で僕がチケットを取れたのは、過去3回行なわれた千葉雅子(女優/脚本家/演出家)とのコラボ「きょんとちば」の「ザ・スズナリ」出張版とも言うべきこの日のみ。落語家と女優の、80年代に共に過ごした青春から現在に至る物語『マイノリ』は、第1回「きょんとちば」(2011年)で千葉が喬太郎に書いた、恋愛未満の“男女の友情”を描く甘酸っぱい物語。こういう“昭和の男女の物語”を演劇的に語ったら喬太郎の右に出る者はいない。伊藤咲子の『乙女のワルツ』という小道具の使い方が絶妙なラストが、何とも言えない素敵な余韻を残す。

「粋歌の新作コレクション2019冬」のチラシ

粋歌の『浮き世の床から』は引きこもり歴30年で43歳の女性“烏森サワコ”が父親に自立を促されて就職する噺。コンビニのオーナーの“落語好きのオバさん”のキャラが素晴らしい。小ネタかと思わせた“落語”という要素が実は鍵を握っていた、という構成も見事。終盤は人情噺テイストで展開しつつ、単なる“いい話”に終わらせない二重のドンデン返しが物語に深みを与えている。重いテーマながら心に沁みる作品だ。

「SWAリターンズ」のチラシ

なお今月は“番外”としてSWAのブレンドストーリー『心をこめて』を挙げておきたい。喬太郎『八月下旬』/昇太『心をこめて』/彦いち『泣いたチビ玉』/白鳥『奥山病院奇譚』の4席が、同じ町で並行して起こった出来事として絡み合うこの構成は、やはりSWAならでは。エンディングトークでは2020年以降も継続していくとの報告も。祝・SWA復活!

2019年に観た落語・高座myベスト10

①春風亭一之輔『千早ふる』(10/25)
②桃月庵白酒『芝浜』(2018.12/30)
③柳家さん喬『ちきり伊勢屋』(8/21)
④柳家権太楼『鼠穴』(5/13)
⑤五街道雲助『鉄砲のお熊』(11/14)
⑥三遊亭兼好『お化け長屋』(6/24)
⑦立川談春『吉住万蔵』(5/8)
⑧三遊亭白鳥『メルヘンもう半分』(1/25)
⑨三遊亭萬橘『中村仲蔵』(4/6)
⑩立川志らく『不孝の家族』(4/22)

*2018.12/26~2019.12/20に行った寄席・落語会から選出

年末なので年間ベストを考えてみた。既に毎月のベストを挙げているので12ヵ月の“1位”の中で順番を決めるのが筋かもしれないが、月によって“1位も2位もほぼ同じ”ということも多かったし、同じ演者の同じ噺を何度も挙げるのは避けたり、というのがあるので、“1位縛り”を外しつつ、一人の演者が複数回出てこないように選出している。一之輔の真骨頂は“バカバカしい噺”にこそあり、それを遺憾なく発揮した「一之輔七夜」での『千早ふる』は素晴らしかった。白酒の“長屋噺テイスト”の『芝浜』は“この人にしかできない”感が凄く、それでいて、『芝浜』って本来こうあるべき噺なんだろうな、とも思えてくる。さん喬の『ちきり伊勢屋』は「あの長編をこう作り直したか!」と感銘を受け、権太楼の『鼠穴』は色々と腑に落ちた。雲助が白鳥作品を圓朝作品のごとく演じた『鉄砲のお熊』は、ある意味2019年最大の衝撃かも。(笑)

プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

広瀬和生(ひろせ・かずお)1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)など。

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