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パノラマパナマタウン、なぜ走る? 「めちゃめちゃ生きてる」MV撮影から見えた“情熱とユーモア”

リアルサウンド

19/2/21(木) 18:00

 パノラマパナマタウンがバンド初のフルアルバム『情熱とユーモア』を2月13日にリリース。オルタナティブ、インディロック、ポストパンク、ヒップホップなどの要素を曲ごとにオリジナルなバランスで配合し、バンドが掲げてきたテーマをそのままタイトルに冠した同アルバムには、彼らの強い意志が凝縮されている。2018年12月末には、収録曲から、透過LEDモニターを日本のバンドで初めて使用し、撮影した「Top of the Head」のMVを公開。そんな中、リアルサウンドでは、続く同アルバムの収録曲「めちゃめちゃ生きてる」のMV撮影現場に密着した。これまでの情熱的な演奏シーンを主としていたパノラマパナマタウンのMVとは対照を成す「めちゃめちゃ生きてる」のMVのテーマや、曲が意図するものをどう映像に落とし込んでいったのかなど、その様子をメンバーをはじめ、監督の南虎我氏や彼らが所属するレーベル<A-Sketch>の小林聡里氏のコメントも交えて、今回のMVの魅力とともに伝えていきたい。

(関連:パノラマパナマタウン「めちゃめちゃ生きてる」Music Video

 「『情熱とユーモア』は、自分の人生とバンドのテーマでもあって、何かを表現したいという熱さと、言葉を変えて自分らしく表現するユーモアの両方がバンドには必要だと思っていて。今回の作品もロックバンドっぽい情熱とヒップホップっぽい言葉遊びの両方を詰めた作品になったので、『情熱とユーモア』と名付けました。その中でも『めちゃめちゃ生きてる』は、自分たちの中でも一番できたというか、確信がつかめた曲です」(岩渕想太・Vo/Gt)。「パノラマパナマタウンそのものって感じの曲ですね。めちゃめちゃ生きてるし、めちゃめちゃやりたいことを全部やるために僕たちは生きてる」(タノ アキヒコ・Ba)。ポジティブもネガティブも、どうにもならない悲しみや、普遍的な温かみも……それらのすべてをぶち込んだラップで、どの感情も〈めちゃめちゃ生きてる〉と肯定。浪越康平(Gt)のソリッドなカッティングとリフ、ポストパンクのサウンドとヒップホップのリズムを叩き出すタノと田村夢希(Dr)のアレンジが冴える。サビのメロディに乗る〈希望は語るためのもの〉〈ドギマギしてる間に死んじまいそうさ〉〈涙も笑顔も俺のもんだから〉で、これまでじわじわと膨張させてきた熱い思いと興奮を解放させる構成も、さらに心拍数を上げてくれる。

 完成したMVもまた、見ている自分も息が上がりそうなほど、まさに走りっぱなしな映像に仕上がっている。けが人が出なかったのが不思議なほどの疾走感に引きずり込まれる。今回のMVはバンド初のドラマ仕立て。メンバーと担当ディレクターである小林氏の最初の話し合いでは、「演奏シーン以外でメンバーをフィーチャーすることを意図した、バンドとしての一つの試みとなる作品にしたい。ハードボイルド寄りのユーモアという意味では、『トレインスポッティング』や『ラン・ローラ・ラン』をイメージさせるような勢いのある映像に仕上げたい」というイメージから今回の構想がスタートしたという。その演出を提案した南監督は自身も俳優である新進気鋭のアーティストで、最近ではさなり「Prince」や堂村璃羽×Yuto.com TM「Ambitious」など、ラッパーのMV作品を手がけ、頭角を現している。「今までパノラマパナマタウンは基本的に演奏シーンのMVばかりだったので、同じことをやっても自分的にもバンド的にも面白くないなと思い、ストーリー仕立てにしたいというお話をしました。そこは岩渕さんとも共通したところですね」(南)。

 大まかな筋立ては、以下の通りだ。音楽を生業とするパノラマパナマタウン。ある日、岩渕がとある女性に一目惚れし、連絡先を渡すことに成功するが、そのことがバンドに思わぬ事態を巻き起こしていくーー。このストーリーは南監督の実体験がベースになっているという。「“めちゃめちゃ生きてる”ってどういうことなのかを考えた末に出てきたのが、死を感じたときだなって。もちろんこのストーリーはフィクションですが、僕自身が過去にほんとに死ぬんじゃないか? という経験をしたことがあるんです。事故的なものだったんですが、死を覚悟したときに、同時に生きることを覚悟したというか。そこで自分の意志を貫かずに死ぬぐらいだったら、意志を持って生きてやる、かつ死んでやる、と思ったんですよね。そのことがベースになってますね」(南)。

 撮影は闇組織の男たちに追われるメンバーのシーンからスタートした。このMVの主要になっているのが、この走るシーンである。都内某所の地下歩道で、メンバー4人と闇組織役の4人の男性が全力ダッシュを繰り返す。しかも逃走シーンだけで4パターン。走る8人を後ろから追いかけるカット、並走しながら8人の足元を映し出すカット、正面から走ってくる8人を捉えるカット、そしてMV終盤の岩渕がマイクを握りしめながら逃走するカットだ。数十メートルに渡るダッシュをワンカットごとに何本も行うメンバーと役者陣。1回撮影するごとに、現場にいる全員でリプレイを確認しながら、さらなるリアリティを求めて意見を出し合う。決して妥協せず、丁寧に撮影を重ねていく。毎回気合を入れながら被写体もカメラクルーも全力で走るため、転倒する場面もしばしばあり、逃げ惑う躍動感が自然に出ている。特に後方からと足元を追ったカットからは凄まじい臨場感を味わえるはずだ。総勢8人がくんずほぐれつ、半ば乱闘寸前の殺気を醸し出しながら走る様子は、まさに“めちゃめちゃ生きてる”としか言いようのないものだった。

 この段階で岩渕は、演技自体が初めての経験であるため、MVの全体像はどうなるかわからないとコメント。だが、「走るシーンは見どころにしたいとは思っていて。“めちゃめちゃ生きてる!”って感じる瞬間は色々あるけど、僕たちとしては“めちゃめちゃ生きてる=走ってる”というイメージが強かったので、とにかく走りたいなと思いました」と続ける。

 また小林氏から話が出た映画のイメージについて聞くと、岩渕は「『トレインスポッティング』のイメージは僕も持っていて。あれも当時のイギリスの今を生きてる若者をテーマにした映画だし、“自分の居場所はどこなんだ?”と感じている主人公が、ハッピーかアンハッピーかという結論は置いておいて、自分のやりたいことをとにかくやる、自分のことは自分で選ぶという内容で。今も自分たちにとって何が正解なのか、何が正しいのかわからない世界だからこそ、ただ走りたい! と思いました」と影響を受けた映画とともに、社会に抗うスタンスとして“走る”シーンをメタファーとして入れていることを明かしてくれた。

 地下歩道の映像はシルバーグリーンがかったクールな質感で、ハードボイルドな逃走劇に、少し近未来的な要素を加えている印象だ。田村は「映像はクールですけど、その中でどれだけ人間らしさを出せるかが、監督と俺らの戦いなので(笑)。監督の想定内を超えてやろうって感じはありますよ」と人間臭さが個性の一つでもあるパノラマパナマタウンらしい発言をしていた。浪越は「この枠組みの中でめちゃめちゃ生きてるっていうのを表現できたらと思ってます」と淡々と口にしていたが、実際の撮影では全力でダッシュ。それぞれが全く違ったキャラクターを持つ4人だが、メンバー、全員が120パーセントの出力で今回のMVに臨んでいた。

 地下歩道では岩渕のリップシンクのソロカットも撮影。ヒップホップ的ともロック的とも、形容しにくい独特のアクションで、時には地面に寝転ぶなどの予想できない動きで、カメラクルーをも翻弄していた。「いろんなバンドさんを撮ってきましたが、特に岩渕さんはいい意味でちょっと狂ってるというか。パフォーマンスも、1、2を争うくらい面白い。特にリップシンクのパフォーマンスはらしさが出ていて、めちゃくちゃ刺激的でした」(南)。

 メインとなる地下歩道での撮影を終え、地上に出ると、この日は凍えるほどの雪と風。そんな中、岩渕が一目惚れする女性に出会うシーンの撮影を敢行した。メンバー4人で歩道をダラダラ歩いていると、すれ違う女性に惹かれた岩渕が、とっさに彼女の手をとるも慌てて離す。そして、連絡先を渡そうとメモ帳を出すが書くものがなくパニックになるといった一連のシーン。唐突な出来事をどう自然に見せていくかについて、何度もリプレイを見ながら、納得いくまで監督と熱くディスカッションを重ねながら、試行錯誤していく岩渕。中でもパニックになりながらメモ帳を出し、コートやズボンのポケットから書くものを探すシーンは何テイクも行い、回数を重ねるごとにどんどん演技が真に迫っていった。

 このシーンに限らず、全体的に「ユーモアってやりすぎることがユーモアだと思ってて。普通やらないでしょ? ってとこまでやりたいですね」と岩渕。また「バンドってかっこよく見せたいというか、なんとなくの美学に則ってやってることがすごく多い気がする。でも僕らは音楽もなんとなくかっこいいぐらいじゃなくて、ダサいかヤバイぐらいのものを作りたいし、ミュージックビデオでもそういうことを表現できたらなと思ってます」とパノラマパナマタウンとしての信念を語った。

 撮影の合間には、テンションを維持するためか(!?)、Queenの曲を歌ったり奇声をあげたりと、終始楽しんでいる様子が伺えたパノラマパナマタウン。難しいシーンや凍えるような寒さなど、そんなことは一切関係なく、岩渕を軸に現場全体を自分たちのペースに巻き込んでいく、そんな印象だった。

 「ミュージックビデオって人間が出るというか、結局、人間力だと思ってて。僕らはずっと人間としても成長してると思うから、今、撮ったら一番面白いものができると思う。4人の生き様、人間が見どころだと思います」と、現在進行形のバンドに自信を見せた岩渕。荒唐無稽なストーリーに込められた、バンドと監督の見解がぶつかり、消化された「めちゃめちゃ生きてる」のMV。トータルの9割近くを全力疾走か乱闘シーンが占め、それが「バンドをやめるぐらいなら死ぬ、もしくは死ぬほど生きてやる」という意思を嫌が応にも体感させるーーパノラマパナマタウン史上最強に身体を張ったこの作品は、間違いなく、バンドのテーマ、そして今を120パーセント表現している。(取材・文=石角友香)

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