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【ライブレポート】エレファントカシマシは「今を生きる」 有観客+配信で実現した31年目の日比谷野音公演

ぴあ

20/10/6(火) 13:30

エレファントカシマシ

エレファントカシマシが10月4日、恒例となっている日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブ「日比谷野外大音楽堂 2020」を開催した。じつに31年連続。今年は新型コロナウィルスの影響でどうなることかと思っていたが、生配信も組み合わせることで無事実現した。野音のエレカシ、といえばいいライブの代名詞みたいなものだが、今年はなおのこと素晴らしかった。全28曲、3時間弱。久しぶりに生で観客と向き合い、怒涛の勢いで新旧の楽曲を披露していったエレファントカシマシの姿からは、「今を生きる」という、変わらないけどこの時代にますます必要かもしれない姿勢がドバドバと溢れ出した。ちょっと大げさにいえば、エレファントカシマシがずっと続けてきたことに喝采を送り勇気づけられる、そんなライブだった。

夕暮れの日比谷野音に拍手が響き、メンバーが姿を現す。「こんにちは。ようこそ。じゃあ始めますか」。宮本浩次がそう告げると、石森敏行がギターを爪弾きはじめる。そして宮本が歌い出したのは“「序曲」夢のちまた”。ドラムを中心に向き合って呼吸を合わせる3人が繊細な音を鳴らし、それを背中で受けながら朗々と歌い上げていく。だんだんとそのテンションが高まっていき、そこから一転、宮本もギターを提げてぶっといコードをかき鳴らすと“DEAD OR ALIVE”に突入だ。冨永義之が骨太なビートを叩き出し、高緑成治が重いベースラインを奏でる。テレビでのパフォーマンスはあったとはいえ、久方ぶりのライブなのにこの仕上がりはどうだ。とくに宮本。もちろんソロで動き続けているというのもあるだろうが、張りのあるみずみずしい歌声が東京の空いっぱいに広がっていく。それに呼応するように、3人+サポートメンバーの細海魚と佐々木貴之の音も蒼く燃えている。がんがん焚かれたスモークが乱反射する白い光に包まれた宮本が神々しい。

そしてそこから宮本の4カウントでさらにギアを上げて“Easy Go”へ。もっと来いよ!とメンバーに向かって手招きすると、ガツン!バシン!とド直球のロックナンバーを投げ込んでみせる。客席でも拳があがり、一気に野音はヒートアップだ。真っ赤なライトに照らされながら、メロディをぶっちぎってマイクに食らいつくようにして言葉を叫ぶ宮本。ステージの中央に歩み出てギターソロをかますと、客席をまっすぐに指差す。うおお、震える。生きてる。生きてるぜ、エレカシも俺たちも。そんなことを思わず思う。こんな時代だからこそ、こんな状況だからこそ、このシンプルな曲がその存在そのもので放つメッセージは強くて熱い。

まだ暑さの残る10月頭である。早くもジャケットを脱いだ宮本が、黒いギターに持ち替えてノイズを撒き散らしながら叫ぶ。「エヴリバディ! ようこそ、日比谷の野音へ!」。そしてハードなリフから始めたのは、そう、“地元のダンナ”だ。軽快にブギーするリズムとオルガンの音がやんちゃに弾け、負け戦の人生に情熱の火をともす。筆者も中年に差し掛かりなんとなーくこの歌の言わんとするところがわかってきたような、わからないような気がするが、こういう曲にもしっかりと今鳴り響く理由が宿っている。そこからデビュー曲“デーデ”に流れ込んで、このバンドの歴史をひとつにつなげてみせると、さらに“星の砂”へ。汗だくになりながらシャープなビートを叩く冨永、そして縦ノリで身体を揺らしながらコードを鳴らす石森と細海。その石森のおでこを指でつっつき、髪の毛を鷲掴みにすると、シャツの胸元をはだけて「ハレンチなものは全て隠そう」と歌う宮本。キレッキレである。

並行してソロアーティストとしての活動も続ける宮本の、おそらくいつも以上に脂の乗った感覚が、エレファントカシマシというバンド自体をリフレッシュしている── どの曲からもそんな手応えをひしひしと感じるなか、いつの間にか日も落ちて夜の帳におおわれた野音。暗闇のなかに宮本の白いシャツだけが浮かび上がる。「古い曲を聴いてください……“星の砂”も古いか、15のときの曲なんで。次は部屋の中にいるときの歌」。そんな曲紹介からギターで弾き語り出したのは “何も無き一夜“! さらに続いて演奏された“無事なる男”とレア曲連発である。軽やかなリズムと牧歌的なメロディ、そんな音の印象とは裏腹に物悲しい歌詞。「こんなもんかよ。こんなもんじゃねえだろう この世の暮らしは」。このしみったれた男の独り言も、今聴くとどこかリアルなメッセージを感じるから不思議だ。ラストのキメもばっちり決めると、客席からは大きな拍手が巻き起こった。

と、ここでステージにはパイプ椅子が用意され、そこに宮本が座る。そして水を飲む。アコースティックギターを手にして曲を始める。これは!と思った矢先、ふと立ち上がって、さっき脱いで置いてあったジャケットを羽織る。そしてまた座り、ふたたびギターを弾いて歌い出す。真っ暗ななかで聞こえてきたのは、そう、期待通りの“珍奇男”だ。そこに冨永のキックからバンドが入ってきて、ピンクの光でステージが明るく照らされる。足を組むこともなく、大きく股を広げることもなく、心なしか内股で座ってギターをかき鳴らす宮本である。「おっとっと!」と目をひんむいて客席を指差し、立ち上がって石森とにらみ合いながらギターの応酬をかますと、今度は高緑と向き合い、冨永と向き合い、ぐぐっとセッションの濃度を高めていく。そんな“珍奇男“を絶叫で終わらせると、ぐっと落ち着いてギターを奏でながら「日比谷の野音、ありがとうございます、来てくれて」と感謝を口にしてみせた。

「今こそリアリティがあります」と歌われたのは“晩秋の一夜”。「日々のくらしに背中をつつかれて/それでも生きようか/死ぬまでは.....」……ギターとピアノ、そして宮本の口笛が、晩秋と呼ぶにはまだ早いが、少し冷たい空気が下りてきた日比谷の夜空に昇っていく。歌い終えた宮本は「難しい本読んで部屋にいる時の歌で。こうしてエレファントカシマシの野音で“晩秋の一夜”を歌えたのはすばらしい経験です」と語り、今日もバンドをサポートしている細海魚と一緒に作ったという思い出を語りながら“月の夜”へと入っていく。弾き語りから、ぐんと広がりのあるバンドアンサンブルへ。その真ん中で顔をくしゃくしゃに歪ませながら歌う宮本の声を、細海の弾くオルガンの音色が優しく包む。まぎれもない初期曲ではあるのだが、さっき宮本も言っていたとおり、今こそリアリティをもってどの曲も響いてくる。それはつまり、時代がどうこうは関係なく、エレファントカシマシが本当のことだけを歌い続けてきたという証拠だ。どうやって生きるか、31年の歴史で積み上げられてきた過去の名曲たちが、今あらためて光を放っている。

「トミ!」と呼びかけて冨永のどっしりとしたビートを呼び起こすと、緑色のライトが美しく光るなか鳴らされたのは“武蔵野”。大陸的というか関東平野的なビッグサウンドを背に、宮本はさっきまでとは打って変わって澄んだ目でまっすぐ前を見つめながら歌う。「確かに生きている」── こんな言葉だって、きっと今だからこそ響く意味があるのだろう。そしてさらにパワフルに響き渡った“パワー・イン・ザ・ワールド“。これまた、ライブでは久しぶりの披露だ。長い間奏部をメンバー同士アイコンタクトを交わしながら鳴らし切ると、鬼の形相の宮本は叫ぶ。「これは冗談じゃねえ 戦いの歌だ」。拳を握りしめ、声を絞り出す。なるほど。ここまで13曲、そろそろ時間的にも中盤戦といっていい頃合いだが、ようやくわかってきた。この日の野音、彼らはエレカシのためでも、ファンのためだけでもなく、世界のためにロックを鳴らしている。ストロングスタイルで「今」と戦っているのだ。シャツがはだけすぎてほとんど裸ジャケット状態の宮本の凛とした目は、ファイティングポーズなのである。

ここからは“悲しみの果て”から代表曲を連発。再びジャケットを脱ぎ去った宮本がハンドマイクでステージ狭しと歩きまわりながら身を捩らせて歌う“RAINBOW”では点滅するストロボがスリリングなムードを描き出し、激しく身体を下りながら音をかき鳴らすメンバーの気合いも伝わってきた。そして一呼吸置いて“ガストロンジャー”に突入だ。高々と掲げた拳に応えて、客席でも次々と腕が上がる。パイプ椅子の上に立ち、「エヴリバディ! いい顔してるぜ!」。渾身のスキャットを決めると「いくぜエヴリバディ、胸を張ってさ!」。いつになくポジティブに響く“ガストロンジャー”であった。

ライブの最初に戻ったかのように真っ白な光が後光のように降り注いだ“ズレてる方がいい”では歌いながら佐々木に寄り添い、石森を無理やりベースのほうに連れていき、「サンキューエヴリバディ!」という一言から、ついに鳴らされた“俺たちの明日”へ。優しく温かなエレファントカシマシの歌が宵闇の野音を包んでいく。客席から起きる手拍子、そして、大合唱はできないけれども、ひとりひとりから注がれる視線。客席とステージがぐっと近づいたような感触を覚える。「さあ がんばろうぜ!」───安っぽい話にしたいわけではないのだが、どうしたって今ここでエレファントカシマシがこの曲を歌う意味合いを考えてしまう。配信を通して会場には来れないファンにも届いているこのライブ。エレカシがこの状況下で野音を敢行する理由が、じんわりと伝わってくる。

ここで第一部終了、しばらくして始まった第二部は、宮本のフレッシュなカウントから “ハナウタ〜遠い昔からの物語〜”で始まった。温かなメロディと歌詞がとても心地よい。宮本も身体を揺らしながら気持ちよさそうに歌っている。そしてアコースティックギターをぽろぽろと弾きながら歌い出したのは“今宵の月のように”。毎度のことだが、夜の野音にこれほど似合う曲もない。2番ではハンドマイクで、ステージの前方を歩きながら歌い上げる宮本。ジャキジャキと力強く刻まれるコードとエイトビートを軽やかに乗りこなすバンドのサウンドもすばらしい。

と、ここでなぜかいきなりブーツを履き替える宮本。ヒールの高さが違うらしく、4cmのほうが足が長く見えるが、3cmのほうが歩きやすい、とか言っている(今……?)。メンバー紹介を経て“友達がいるのさ“。ソロライブでも披露されていた曲だが、やはりエレカシで聴くとぐっと来る。「もう一度歩きだそうぜエヴリバディ!」「一緒に、ドーンと行けー!」。文字通りエールを客席(と画面越し)に送りながら、笑顔を見せる。そしてライブはいよいよクライマックスへ。タイトなリフとリズムが急き立てるように走る“かけだす男”。髪を振り乱しながらハイハットを乱打する冨永、楽曲をドライブさせる高緑のベース、汗まみれの石森が鳴らすソロも炸裂し、一気にステージ上の熱が上がっていく。続く“so many people”ではガツンと明るいロックアンサンブルが弾け、6人全員で塊のようなグルーヴが生み出していくのだ。

続いて披露されたのは“男は行く”。椅子に座ってギターをかき鳴らし、叫ぶ宮本。ぐいぐいと最後まで押し倒すような迫力の演奏。阿吽の呼吸で鳴らされるアンサンブル。ブルージーなのにホットな、渾身のパフォーマンス。ここに来てますます絶好調の宮本の歌が、ビンビンに響く。「“男は行く”でした。シングルでした、ヒットしなかったけど」と言って笑うと、“ファイティングマン“へ。客席の隅々まで指指しながら拳を握り、宮本がステージを闊歩する。怒涛の勢いで展開する終盤戦。ラストをビシッと決めると客席を向いて両手を広げる宮本。さらに“星の降るような夜”の力強さと優しさの同居するようなメロディを届けると、石森も舞台のヘリぎりぎりまで進み出てギターを鳴らす。サングラスを外した石森の肩を抱き寄せて宮本が歌う様子に、客席も盛り上がった。

「みんな今日はありがとう。思ったより長くなっちゃったけど。みんないい顔してるぜ、たぶん。マスクしてるからわかんないけど(笑)」。そう言って客席に手を振り、「みんなに捧げます」とラストチューン“風に吹かれて”。重厚なギターサウンドが野音に鳴り響く。ストイックな青い光の中、僕たちを何度も奮い立たせてきた歌が今また希望の色をまとって届いてくる。「生きていこう、明日もよ」。もう一度客席に手を振って歌い終えた宮本が、ギターを置いて頭を下げる。最後はソーシャルディスタンスと言いながらメンバー、サポートメンバーのひとりひとりとハグを交わし、手をつないで一礼。久しぶりにライブをした喜びと、30周年でまたしても充実期を迎えているバンドの今が伝わってきた。

それでもライブは終わらない。宮本が黒いシャツに着替えて登場したアンコールでは、ぐっとコブシをきかせて“待つ男”をぶっ放す。真っ赤なライトのなか最後まで叫び、歌い続けた宮本。エネルギーの塊のようなパフォーマンスの余韻は、ライブが終わったあとも耳の中に反響していた。

取材・文:小川智宏

-セットリスト-

一部
1.「序曲」夢のちまた
2. DEAD OR ALIVE
3. Easy Go
4. 地元のダンナ
5. デーデ
6. 星の砂
7. 何も無き一夜
8. 無事なる男
9. 珍奇男
10. 晩秋の一夜
11. 月の夜
12. 武蔵野
13. パワー・イン・ザ・ワールド
14. 悲しみの果て
15. RAINBOW
16. ガストロンジャー
17. ズレてる方がいい
18. 俺たちの明日

二部
19. ハナウタ~遠い昔からの物語~
20. 今宵の月のように
21. 友達がいるのさ
22. かけだす男
23. so many people
24. 男は行く
25. ファイティングマン
26. 星の降るような夜に
27. 風に吹かれて

28. 待つ男

公演情報

エレファントカシマシ「日比谷野外大音楽堂 2020」

チケット購入はこちらから
https://w.pia.jp/t/elekashi-pls/

アーカイブ視聴可能期間:
2020年10月7日(水)23:59まで

配信チケット販売期間:
9月12日(土)12:00〜10月7日(水)18:00


エレファントカシマシ 公式HP
https://www.elephantkashimashi.com

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