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ユアネスのサウンドが生む、聴き手を無防備にさせる瞬間 『One Man Live Tour 2020 “ES”』 恵比寿リキッドルーム公演を観て

リアルサウンド

20/2/25(火) 18:00

 暗転するフロア。満員の観客のざわめきがピタリと止まる。濃いブルーのバックライト。ステージはまだ薄闇の中に沈んでいる。メンバーのシルエットが動く。拍手。スタンバイする4人。静寂。手紙を読む女性の声。最新作の2nd EP『ES』のオープニングを飾るポエトリーリーディング、「あなたは嘘をつく」が流れる。息がつまるような緊張感。静寂は続く。ため息のような女性の呼吸。切り取られた写真のように、ほとんど動かないステージと観客。そこにいる全員が、まるで感情をセーブするかのように、次の瞬間を待っていた。明滅する白い光。黒川侑司(Vo/Gt)の歌声が、次の瞬間を持ってきた。最新作のタイトルにもなっている「ES」が放たれる。会場全体の緊張感が一気に高まったように感じられた。観客それぞれが、全身でユアネスの放つエネルギーを受け止めようとした瞬間だったのだと思う。

(関連:ユアネスが示したライブの核と真骨頂 ワンマンツアー東京公演を見て

 言葉をひとつずつ、しっかりと受け止めるために。

 彼らのサウンドを一音も逃さず、体感するために。

 2月16日、日曜日。ユアネスの『One Man Live Tour 2020 “ES”』 のファイナル公演が、恵比寿リキッドルームで行われた。

 ユアネスは、前述したような“静寂”と“緊張感”を味方につけたバンドだ。この2つの要素を味方につけたバンドは、ここ最近珍しくない。だが、彼らには他にも武器がたくさんある。サウンド面で言えば、繊細さと情緒。クリアで流麗なギターのフレーズを筆頭に、一音一音を紡ぐ丁寧な演奏(でもかなり複雑なアンサンブルでスキルフル)は、黒川のボーカルにぴったりはまっていて、このバンドならではの説得力につながっている。楽曲アレンジのメリハリもまた然り。1曲の中で、ほぼ黒川の声だけになるような場面が結構あるが、この手法が楽曲の濃淡になり、聴く者のイメージを広げる余白と余韻になっている。さらに、ピアノ音や逆回しの効果音に代表されるような同期の取り入れ方が、バンドサウンドの彩りとしてではなく、バンドサウンドそのものとして鳴っている。同期とわかっているのに、そう感じないほどしっかり構築されていて、本当に素晴らしいと思う。そして何よりも強力な武器が、黒川の声質だ。ひとことで言うなら、誰にも嫌われない声。万人に受け入れられるマジョリティーを秘めている。特に中高音にそれが顕著で、ライブ中、何度も、黒川の歌声だけで気持ちよくなり、持っていかれ、無防備になる自分がいた。無防備になる――つまりそれだけ、ユアネスの音楽に安心して心身を委ねられたということだ。たぶん、この日リキッドルームをソールドアウトさせた満員の観客もそうだったのだろう。誰もがずっとステージを凝視しながら、ユアネスが描き出すサウンドに、どっぷりと心も体も浸かっていた。

 中盤に差し掛かると、「夜中に」「日々、月を見る」とバラードを続けて深い闇に沈んだ後、「100㎡の中で」ではミラーボールとともにフロアに光の破片を降らせた。まるで、闇の中にも光を見つけることが出来る……と言わんばかりに、セットリストでもストーリーを見せた。

 ライブは終盤へ。古閑翔平(Gt)がMCで、前作のリリースから最新作の『ES』まで1年くらい間が空いたことについて触れ、「自分が納得した形で曲を出したいと思った。(自信を持って)“行って来い”ってみんなに届けたいと思った」と締め括った。「紫苑」や「CAPSLOCK」など、新作収録曲を披露した後、黒川が「どうしても本編の最後に持ってきたかった」という「風景の一部」へ。スケール感あるミディアムバラードを、感情を振り絞るように歌う黒川。歌を支える、たゆたうように大きくうねるリズム。力強くも憂いあるギター。情熱を注ぐような演奏だった。

 序盤のMCで黒川が「ユアネスというバンドの魅力を知ってもらえるよう、たくさんの楽曲を見せられたらいいなと思ってます」と言ったとおり、『ES』 収録曲はもちろん、旧作2作からの楽曲や、自主制作盤からの曲も網羅した本ツアーのセットリストは、 “今のユアネスのすべて”が詰め込まれていたと思うし、ある意味、これまでの集大成ともいえる内容だった。しかしながら、この日最も印象深かったのは、アンコールだった。

 声援の中、田中雄大(Ba)がこう言った。

「今回のツアーから、アンコールやってます。曲が増えたおかげです。全部、みんなのおかげです」

 アンコールが出来るのが嬉しいと、無邪気な笑顔を見せた4人。その様子にこのバンドの音楽への向き合い方と、のりしろの広さが見えたように思う。ストイックでありながら、その向こうにある楽しさも知っている。アンコール2曲目、最後の最後は「pop」。サビではリズムに合わせて観客の拳が上がった。ライブならよくある光景だが、この日のユアネスのライブでは初めて見る光景であった。エンディングになると4人が視線を絡め、最後のブレイクを決めた後、小野貴寛(Dr)がすぐに立ち上がり、4人一緒に、深く長い一礼をした。

 この感謝の気持ちが、嘘のない真摯なスタンスが、きっと、もっとユアネスを強くする。そしてユアネスの音楽をもっと大きく、もっと広い場所に持って行く。(伊藤亜希)

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