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米ビルボード ソングライター&プロデューサーチャートから読み解く、現代の音楽制作のあり方

リアルサウンド

19/7/5(金) 18:00

 米ビルボードが6月15日付のチャートより新たなウィークリーランキングを開始。ソングライターとプロデューサーにフォーカスをあてたチャートだ。アメリカでもっとも注目されていると言ってよい総合ソングチャート”Hot 100″を中心に、ジャンル別のソングチャートも含めて集計したものとのこと。全ジャンルをあわせた”HOT 100 SONGWRITERS/PRODUCERS”の2つに加え、各ジャンルごとのチャートも発表されている(参考:billboard(海外サイト))。

参考:『第61回グラミー賞』で象徴的だった人種と女性問題への提起 受賞作やスピーチなどから解説

 記事を執筆している段階で発表されているのは、6月15日付のものから同29日付のものまでの3週分。これらを見ていきながら、新たなチャートの意義と、そこから見えるアメリカのポップミュージックのいまを考察してみたい。

 ソングライター、プロデューサー双方で3週にわたり単独首位をキープしているのが、フィニアス・オコンネルだ。ビリー・アイリッシュの実兄で、彼女の楽曲の大半を共作している。ほか、ポスト・マローンをはじめとしてヒップホップやR&Bのミュージシャンを手がけるルイス・ベルが両チャートの上位をキープ(ソングライターでは4位→3位→5位、プロデューサーでは3週連続2位)。

 6月29日付のチャートでは、「You Need To Calm Down」のHOT 100登場に伴ってジョエル・リトルとテイラー・スウィフトが両チャートに連名でランクイン。彼女らも長く上位をキープする可能性がある。

 また、HOT100で首位を独走中のリル・ナズ・X「Old Town Road(Remix)」にクレジットされている面々(ソングライターとしてはリル・ナズ・X、ビリー・レイ・サイラス、ジョセリン・ドナルド、アッティカス・ロス、トレント・レズナー、プロデューサーとしてはロス、レズナー、ヤングキオ)が連名で登場しているのが「いかにも」だ。

 カリードの「Talk」をプロデュースしてプロデューサーチャートの上位を3週に渡ってキープしているイギリスのプロデューサーデュオ、Disclosureは、北米のミュージシャンがほとんどを占めるなかで存在感を放っている。かねてからダンスミュージックのアクトとして高い人気を誇ってきた彼ら。すき間をいかしつつもふくよかなサウンドがカリードの歌声にマッチしている。

 これらのチャートが、ソングライターやプロデューサーといった、いわば「裏方」に属するミュージシャンへ光をあてる機会になるのは間違いない。とはいえ、これらのチャートを読み解く前提として、現代の音楽制作のあり方をまとめておきたい。

 チャートから読み取れる制作現場の現状が、2点ほど指摘できるかと思う。第一に「ソングライティングとプロデュースの兼任」、第二に「サンプリングされたミュージシャンのクレジット」だ。

 前者はフィニアス・オコンネルやルイス・ベル、ジョエル・リトルとテイラー・スウィフトなどの例に顕著だ。そもそも、作詞や作曲を指す「ソングライティング」とアレンジやサウンド寄りの「プロデュース」の境界はいまとてもゆるやかだ。もちろんクレジットの詳細を見れば「どのような役割を担ったか」が明記されてはいるのだが、コライティングを含めた分業とコラボレーションの発展によって、メインのソングライターがプロデュースにも関わる例は多い。

 その点、ビートメイクとラップが明確にわかれていることが多いヒップホップではこういう事態がやや起きづらいものと思われる。ソングライターのチャートで上位に登場するJ・コールがプロデューサーのチャートに登場しないのは象徴的だ。ラップのライティングのみがクレジットされているためだろう。

 後者は、サンプリングという技法が音楽産業のなかでどのように処理されているかの例と言える。有名なエピソードだが、「Old Town Road」及びそのリミックスには、トレント・レズナー率いるNine Inch Nailsの楽曲「34 Ghosts IV」がサンプリングされている。コード進行を示してメロディを支える、印象的なバンジョーのリフがそれだ。サンプリングした側が原曲のクレジットを示す必要があるため、ロスとレズナーの双方がソングライター兼プロデューサーとして一連の「Old Town Road」関連楽曲に名前を連ねることになる。

 このように、ひとくちにソングライターやプロデューサーのランキングといっても、流動化する分業制や、ジャンル間の制作スタイルの差異、現代的なテクニックがもたらす権利処理の問題を前提においたほうがよい。その向こうにはじめて、個々のソングライターやプロデューサーの個性が浮かび上がってくるからだ。今後チャートが蓄積されていけば、より興味深い事実が捉えられるかもしれない。(imdkm)

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