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密室トリックに切り込む『鍵のかかった部屋』の色褪せない魅力 月9とミステリーの相性を象徴する

リアルサウンド

20/5/18(月) 8:00

 『鍵のかかった部屋 特別編』(フジテレビ系)では、大野智が鍵マニア榎本径を演じる。2012年4月期に放送された連続ドラマは「密室は、破れました」の決めゼリフとともに最高視聴率18.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)を記録し、国内外のドラマアウォードを受賞するなど大きな反響を呼んだ。

参考:『野ブタ。をプロデュース』に続き『鍵のかかった部屋』で遡る、戸田恵梨香の歴史の1ページ

 フジテレビ月曜夜9時の連続ドラマ枠「月9」は、1990年代のトレンディドラマ全盛期から男女のラブストーリーをメインとする作風で親しまれており、2000年代以降、数は多くないがミステリーも取り上げられるようになった。月9のミステリー路線といえば、2007年10月期の『ガリレオ』がよく知られている。福山雅治主演で平均視聴率21.9%を記録した同作の成功は後発の作品に影響を与え、これ以降、恋愛ものだけでなく医療や刑事ドラマなど幅広いテーマを扱ってきた。

 貴志祐介著『防犯探偵・榎本シリーズ』を原作とする『鍵のかかった部屋』は、同枠でも数少ない本格ミステリードラマだ。いかにもオタク然とした風体の榎本が、豊富な知識とジオラマを駆使して複雑なトリックを解決する手並みの鮮やかさは痛快で、謎解きのカタルシスを存分に感じさせるものだった。見た目と中身のギャップという点では、榎本は『ガリレオ』の湯川学に負けていない。いずれも「変人」という言葉がしっくりくるが、「常識にとらわれない天才」というシャーロック・ホームズ以来のイメージは月9ミステリーでも踏襲されている。

 名探偵のバリエーションのような主人公に対して、2017年4月期の『貴族探偵』では異例ずくめのキャラクターも登場した。相葉雅紀演じる、その名も「貴族探偵」は上流階級出身であること以外すべて謎という設定で、自らは推理も捜査も行わない。「推理などという雑事は、使用人に任せておけばいいんですよ」とうそぶき、アバンチュールを楽しむ姿は、従来の「探偵=ミステリーの主役」というイメージを裏切るものだった。松重豊や中山美穂らが演じる使用人と、武井咲扮する「女探偵」高徳愛香が知恵比べをし、結果的に貴族探偵が事件を解決する斬新な構図は、同枠のチャレンジ精神を象徴している。

 相葉は2015年4月期の『ようこそ、わが家へ』でも主演を務めており、月9ドラマとの相性は上々といったところ。ちなみに『ようこそ、わが家へ』と『貴族探偵』によって挟まれた約2年は同局が恋愛路線回帰を打ち出した期間だったが、ふたたび多彩な作風に転換するタイミングで相葉が起用されていることは興味深い。『夏の恋は虹色に輝く』『ラッキーセブン』『失恋ショコラティエ』と3作で主役を演じた松本潤と合わせて、嵐が月9の歴史上も重要な役割を担っていることがわかる。

 サスペンスタッチの『ようこそ、わが家へ』や変則的な『貴族探偵』とは異なり、『鍵のかかった部屋』で、ワトソン役の青砥(戸田恵梨香)や芹沢(佐藤浩市)に振り回されつつ(振り回しつつ)、想像の斜め上を行く推理で密室トリックを破る榎本の活躍は、ミステリーファンの見たいミステリードラマを体現するものだ。トレンディ路線から発して、多様な視聴者を取り込みながら作品主義を追求してきた同枠ミステリーのひとつの到達点とも言えるだろう。

 2019年10月期の『シャーロック』でミステリーの源流に到達するなど進化を続ける月9ミステリーだが、重層的なトリックに大胆に切り込んだ『鍵のかかった部屋』は、ミステリーとしての純度の高さによって今なお色あせない魅力を放っている。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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