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和田彩花の「アートに夢中!」

1894 Visions ルドン 、ロートレック展

毎月連載

第52回

現在、三菱一号館美術館(東京・丸の内)で開催中の『1894 Visions ルドン 、ロートレック展』(2021年1月17日まで)。本展は、同館が丸の内初のオフィスビルとして竣工した1894年を軸に、同館のコレクションの中核をなす画家である、オディロン・ルドンとトゥールーズ=ロートレックの時代に焦点を当てたもの。会場には同時代の日本の洋画家たちの作品も並ぶ。岐阜県美術館との共同企画であり、同館が誇る世界有数のルドン・コレクションから貴重な木炭とパステル画、ゴーギャンの多色刷りの木版画を中心とした作品群、山本芳翠をはじめとする明治洋画の旗手たちの作品を展示。エドゥアール・マネを研究していた和田さんは、マネよりも少しあとの世代の画家たちをどう見たのか。

印象派と同時期に活躍したルドンとロートレック

展示風景

今回は「1894年」を切り口として、オディロン・ルドン(1840-1916)とアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)を中心に、同時代にパリで活躍していた作家、そしてルドンと同じ師のもとで学んだ山本芳翠など日本の作家にも焦点を当てた展覧会です。

少しだけルドンとトゥールーズ=ロートレックについて紹介しておくと、ルドンは1840年にフランス南西部の町ボルドーで生まれました。ちなみにモネと同い年です。版画家として1879年に39歳と少し遅いデビューを果たし、1894年に初めて色彩の作品を発表。その画業はモノクロから徐々に色彩へと移っていきました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》 1891年 リトグラフ、紙 193.8×119.3cm 三菱一号館美術館蔵【現在は展示終了】

ロートレックは1864年に南仏の町アルビで伯爵家に生まれ、幼い頃から画才を発揮し、1880年代後半にはパリのモンマルトルで夜の街の人々をモデルに描くようになります。ちょうどこの頃、カラー・リトグラフ(多色石版画)がポスターに盛んに使われるようになり、ロートレックはこの技法を用いて《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》(1891年)でデビュー。この作品は多くの人に衝撃を与えたと言います。

この二人が活躍した時代は、印象主義が主流でした。でもルドンもロートレックも、印象主義とはまったく違う世界観なんです。

特にルドンは、戸外で制作したり、光の変化の正確な描写や、人間そのものの営みや街の活気などを描く印象派とは相入れないというか。印象派が外に目を向けている中で、自分の内面の夢と想像の世界を描き出しました。

同じ時代に活躍したのに違う方向の様式を突き詰めたその姿は、後世の画家に大きな影響を与えました。

それにロートレックもその作品は絵画ではなく「ポスター」というふうに見られ、いわゆる画家とはまた違った見方をされていたと思います。もちろん油絵などの作品もありますが、有名な作品の多くは版画の手法で制作されており、版画家と呼ばれました。その仕事はまさしくグラフィック・アーティストです。(注:現代では、ロートレックは画家=版画家(画家にして版画家)と呼ばれる)

印象派という主流とは違った道を進んだこの二人が、どんな作品を制作していたのか。今回の展覧会でそれを印象派の画家も並ぶなかで検証し、再確認できるのはとても嬉しい体験でした。

どこか奇妙なルドンの作品

オディロン・ルドン 石版画集『ゴヤ頌』《Ⅱ. 沼の花、悲しげな人間の顔》 1885年 リトグラフ/紙 27.8×20.6cm  三菱一号館美術館蔵 【展示期間:11月26日~2021年1月17日】

今回たくさんのルドン作品が並んでいたのですが、一度にこれほどのルドン作品を見たのは私は初めてでした。私のルドンのイメージは、ちょっと奇妙なモチーフが描かれたモノクロの版画たち。目玉や雲や人の顔、どれもそこに明るさはなく、暗い内面の世界が前面に押し出されているような気がしています。そして色彩豊かな作品を作るようになったあと制作された、三菱一号館美術館の人気作品《グラン・ブーケ(大きな花束)》もすぐに思い浮かびます。

オディロン・ルドン 《グラン・ブーケ(大きな花束)》 1901年 パステル/画布 248.3×162.9cm 三菱一号館美術館蔵

モノクロとカラー。一般的に考えて、カラー作品になるとその画面はやっぱり色彩によって明るくなり、モノクロとはまた違った印象を持つようになると思うんです。でもルドンはやっぱりモノクロでもカラーでも仄暗さを感じます。

特に《グラン・ブーケ(大きな花束)》は、かなり大きな作品ですし、パステルカラーの淡く美しい色彩に彩られた画面は、一見すると儚さも感じますが、美しい花の姿をただ描いているように見えます。でもじっくり見ていくと、生けられた花たちからはあまり生命力を感じられません。重力に導かれるままに下に下にと向いているような花たち、どうしてか黒に近いような色で描かれる左側の花。全体的にぼんやりとしています。そしてひまわりでしょうか、なぜか一本だけ上を向いているその姿には、ぐんぐん上へと伸びていく植物の生命力は感じません。それにどの花たちも視線が曖昧というか、視点をどこに向けたらいいのかわからない、そんな奇妙さも感じました。

そこで気づいたのが、ルドンが描いたモチーフたちの「視点」です。

ルドンの描く絵のモチーフたちって、いずれも視線が定まっていないんです。それは目玉であろうと、クモであろうと、人間であろうと、花であろうと。どこかぼんやりとした視点で空を見つめ、時には鑑賞者に視線を向けているものの、その視線が何か意味を持つような感じはしません。どこまでも空虚でそこがちょっと見る側に恐怖を与えるというか。でもそれを描いたルドン自身はいったい何を見ていたんだろうか、描かれたモチーフの視線はルドンの視線なんだろうか、という想像も掻き立てられました。

華やかなパリのはずなのに

パリの華やかな街並み、人々の営みや活気を描いている、という意味では、ロートレックと印象派は似ているかもしれません。でも幼いころの落馬事故によりロートレックは体に障がいがあり、差別を受けていたことなどもあって、その視線は、娼婦や踊り子など、いわゆる夜の世界の女性に向けられ、自身の姿と重ね合わせ、共感していたそうです。夜な夜なパリのムーラン・ルージュをはじめとしたダンスホール、酒場などに入り浸り、そこに集う人々を観察し、描きました。

もちろん印象派の画家も、ムーラン・ルージュなどのダンスホールを描いています。そこには娼婦や踊り子も描かれてはいるんですが、どうしてかロートレックとは違うんですよね。やっぱりロートレックの方が生々しいというか、その場の空気感をすごく感じることができます。

それに描かれた人々の顔が曖昧なんですよね。特に女性の顔には強いスポットライトが当たっているかのような、不思議な光を感じてしまいます。舞台に立っていなくても、正面を向いていなくても、いつも女性が主役というかのように、ロートレックが女性たちを尊重していたんだろうな、と想像できました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《シンプソンのチェーン》 1896年 87.2╳124.7 cm リトグラフ、紙 三菱一号館美術館蔵

あと、ロートレックはもともと歴史画家になりたかったそうなんです。一番初めは動物画家の先生に絵を習い、そのあと2人の歴史画家の先生に師事しました。だからか、ポスターを見ていく中で、やっぱりきちんと絵の勉強をしていたので、その絵には平面性と立体性が共存し、一概にポスターとも呼べない作品が多いなと思いました。きちんと遠近感を持たせているんです。単にイラスト的にポスターとして成立させていないというか。ポスターというと平面的なものが多いですよね。それは広告したい商品や文字などが重要で、それを目立たせるためにはあまり絵画的な要素はいらないからだと思っていました。でもこの《シンプソンのチェーン》は、もちろん商品も文字要素もしっかりと入ってはいますが、例えば自転車に乗る一人だけを大きく取り上げたりするとかではなく、レース会場のような場面を描きます。これはとっても絵画的ですよね。

その絵画的な要素と、ロートレックだからこそ見える切り口、場面の切り取り方がうまいなと思いました。それとやっぱり色使いがいいなって。特に《シンプソンのチェーン》は無駄な色がなく、とても心地よいなって思いました。

油絵に癒される

今回の展覧会、ただただ勉強になりました。特に日本人は印象派が大好きだと言われていますが、同時代にこんなにも面白くて、まったく違う道を進んだ画家がいるということはそんなに知られていないと思うんです。そして、この二人は美術史のメインストリームからはこぼれ落ちた存在のような感じもします。そこを救い上げてくれるのが今回の展覧会。ルドンとロートレックの作品をまとめて見ることができて、どれだけこの二人が重要な作家であり、また異質でちょっと異端であるか、ということをつぶさに見てとることができます。個人的にはここ最近しっかりとした西洋美術の展覧会に行けていなかったので、本当に嬉しかったし楽しかったです。

それに図録がめちゃくちゃオススメです! とっても詳しくこの時代について説明してくれていて、年譜も詳細なんです。この一冊あるだけで、この時代のことを知ることができます。

私は疲れたりすると油絵に触れたくなるんです。油絵の匂いとか、油絵具の質感や筆の運びとか、そういったことがすべて自分を癒してくれるんですよね。だから単純に油絵を堪能できたのが本当に嬉しかったですね。ただただ心地よい時間を過ごすことができました。

あと今回、本来ならばフランスの現代美術作家ソフィ・カルさんとのコラボレーション展示を行う予定だったんですが、新型コロナウィルスの影響で来日が困難になってしまって。残念でなりません。でも2024年に再度ソフィ・カルさんを招いた展覧会を計画中とのこと。

いったいあの三菱一号館美術館の空間でソフィ・カルさんがどういった作品を展示するのか、今から楽しみです。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

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【応募締め切り】
2020年12月19日(土) 23:59まで


プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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