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新田真剣佑が全てを懸けた“最後の敵役”「『るろうに剣心』は世界に通用する作品」

ぴあ

新田真剣佑

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撮影中は、自分が3人いた感じがした

その白い衣を脱いだ瞬間、逞しい上腕二頭筋があらわになる。盛り上がった筋肉に見惚れると同時に、俳優・新田真剣佑が雪代縁という役にどれだけ身骨を砕いて向き合ってきたか、凄絶な日々の一端が見えた気がして、痺れる想いがした。

スクリーンの中で描かれる、剣心と縁の最終対決。それは、日本のアクション映画の歴史を塗り替えた映画『るろうに剣心』シリーズのラストを飾るにふさわしい、命と命のぶつかり合いだった。

「撮影中は、自分が3人いた感じがしました。剣心を憎む縁としての自分と、姉を想う純粋な縁としての自分。そして、そんな縁になりきるために、時間の許す限り体づくりに取り組み、いっぱい食べて自分の体を痛めつけている新田真剣佑と。カメラが回っているときはもちろん、そうでないときも、ずっと集中していました。」

過酷すぎた日々を振り返る。雪代縁は、新田真剣佑が俳優として持てる力のすべてを注いでつくり上げた役だった。

「それだけ自分を追い込まなければ、雪代縁という役は演じられなかった。だからこそ、『るろうに剣心』という映画は、世界に通用する作品なんだなと思います。直前に台本を読んでもできるような役は一つとしてない。ちゃんと準備期間があって、予算があって、かつ面白い。こういう作品に出会えることが、俳優としては何よりも幸せです」

受け答えは、極めてクール。だけど、言葉に充実感がにじんでいる。新田真剣佑がここまで本気で取り組んだのも、これまで『るろうに剣心』という大作を築き上げてきた“大友組”へのリスペクトがあったからだ。

「1作目がつくられたのは、僕が14歳のとき。他のみなさんは10年という月日を『るろうに剣心』と共に過ごしてきた。みなさん役が身に染み込んでいるし、それぞれの人物になりきっている。その中でいきなりパッと入ってきた僕が同じ説得力を持てるか。僕がどれほど縁になりきることができるかが難しいところでしたね」

やれと言われたら何でも出来るので言ってください、と伝えました

だからこそ、どんな高いハードルも絶対に超えてみせると決めた。『るろうに剣心』シリーズの見せ場のひとつでもあるアクション。新田真剣佑にも身体能力の限界に迫るような熾烈なアクションが与えられた。

「これほど動ける現場に会えたことがものすごくうれしかったです。コロナの影響で公開は『ブレイブ -群青戦記-』が先でしたが、自分にとっての初アクションは『るろうに剣心』。だからこそ、一切妥協はしたくなかった」

まず強烈な先制攻撃となるのが、映画冒頭の縁の登場シーンだ。狭い電車の中で、警官たちを次々となぎ倒す縁は、さながら鬼神のようだった。

「大多数の相手を倒すのって楽しいなと思いました。そこだけ文字にすると危ない人ですけど(笑)。この場面は戦い方も特殊なんですよ。縁は、けん玉で戦っていく。縁なら、けん玉さえも武器になること、そして何十人何百人と来ても倒せる力があることを冒頭で見せつけなければいけなかった。かなり暴れさせてもらったので、ものすごく楽しかったです」

アクション監督は、谷垣健治。シリーズ第1作から『るろうに剣心』のアクションを手がける、この映画の屋台骨だ。

「谷垣さんのクリエイティビティと想像力には何度も驚かされました。どうやったらこんなアイデアが出てくるんだ、と思うようなアクションがたくさん入っていて。セクションごとに、見る人を惹きつける難しい技が必ず入っているんですよ。だから、どこから見ても面白い。それがまた谷垣さんのすごいところだなって。僕としても、アクションで求められるクオリティが高かったので楽しかったです」

まるで最新のアトラクションに乗ったように、新田真剣佑は何度も「楽しかったです」と口にする。だが、映画本編を観てもらえれば一目瞭然だが、とても容易に「楽しい」と言えるような生ぬるいアクションではない。予想を裏切る大胆かつ斬新な動き。稲妻のようなスピード。呼吸も許さぬ膨大な運動量。これを習得するだけでも、想像を絶するトレーニングが必要だったはずだ。

しかし、新田真剣佑は悠然とした表情を崩さない。

「谷垣さんには、『想像しうる中で、いちばん難しい手を用意してください』と言いました。やれと言われたら何でも出来るので言ってください、とも。アクションの事前練習は1週間くらい。まずアクションチームの方たちがやってくれたのを見て、それを動画に撮って見て覚えて、家で練習して。慣れてきたら、どんどんスピードを上げていって、本番に向けて仕上げるという感じでした」

どんな高難度のアクションも1週間で絶対に自分のものにする。強気な姿勢を、新田真剣佑は有言実行してみせた。そこにあったのは、日本最高峰の映画に携われているという誇りだ。

「僕はこの『るろうに剣心』は、日本を代表する映画であると思っています。その中に出てくる最後の敵が、縁。縁を輝かせるために自分にできることは全部やりたかった。やった分だけカッコよく撮ってくださる組だったので、その期待に応えたかったというのもあります」

人生で一番大変な撮影でした

アクションだけでなく、雪代縁として生きるために、その内面とも真っ向から対峙した。原作は、あえて読まない。映画の中の雪代縁として、台本から人物像を浮かび上がらせた。

「本来の縁はものすごく優しくて、まっすぐな男の子。そんな縁を変えてしまったのが、剣心なんですよね。角度を変えれば縁が正義であり、剣心が悪という見方もできる。どちらかが正しくて、どちらが間違っているか、簡単に言えないところが面白いなと思いました」

だからこそ、決して縁が悪役だとは思わなかった。

「縁のやっていることは、愛する家族を殺した人間への復讐。自分の正義を貫いているだけだから、悪でもなんでもない。僕だって縁と同じ立場なら同じことをしている気がします」

復讐を遂げるために、殺戮を繰り返す残虐性と、一途に姉を慕い続ける純粋性と。縁が内包する二面性を、新田真剣佑は演技に込めた。

「縁の狂気と姉想いの面は、意識して変化をつけて演じました。実は僕、有村架純さんが演じている巴を、撮影が終わるまで一度も見ていません。あくまで、僕の頭の中にある巴のイメージを広げて、現場では演じていました。言葉で表すと難しいんですけど、そのシーンそのシーンに必要なかけらを拾い集めながら演じていたという感じです。自分でもどうやって演じていたのかわからない。でも、たぶんそういうことを頭の中でやっていたんだと思うし、現場に入って衣装を着れば、自然と縁になれました」

健くんは僕をすごく信頼してくれていた

最大の見せ場は、剣心との対決シーン。これまで作品を背負い続けてきた佐藤健と、全力でぶつかり合った。

「健くんは僕をすごく信頼してくれていたみたいで、あえて二人で役について話すことなく、あのシーンはとにかく自分の信じるものを貫いたという感じでした」

剣心との最終対決は、1週間かけて撮影した。連日続く嵐のようなアクションシーン。その壮絶さに、お互い日に日に無口になっていたという。

「4日目くらいから、体が重くて重くて。疲れているのか、バネがきかないんです。そんな体でも本番はやらなきゃいけない。本当に苦しかったし、大変でした」

文字通り満身創痍になりながら、雪代縁として生き抜いた。クランクアップの瞬間は、この疲労から解放される安堵感と、やり遂げた達成感が、同時に溢れ出た。

「3年前なのでちゃんと覚えていないですけど、確かその場ではうれしいですということと、あとは人生でいちばん辛い撮影でしたと伝えたのを覚えています。その言葉は今でも変わらない。間違いなく、自分の人生でいちばん大変な撮影でした」

だが、その苛烈な経験は、時を経た今、勲章となってその胸に輝いている。新田真剣佑にとって、この『るろうに剣心』はどんな作品になったのだろうか。

「海外への挑戦を前に、日本を代表する、世界に通用する作品に出られたことが誇りになりました。」

俳優・新田真剣佑の第1章は、『るろうに剣心 最終章 The Final』をもって完結を迎えた。次の舞台は、世界。その大いなる第2章の幕がいよいよ上がろうとしている。

取材・文/横川良明

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