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朝ドラだからこそ成立したラブストーリー 『半分、青い。』鈴愛と律のキスシーンを読み解く

リアルサウンド

18/9/24(月) 6:00

 いよいよ今週で最終回を迎える『半分、青い。』(NHK総合)。9月19日の放送では、ついにヒロインの鈴愛(永野芽郁)と幼なじみの律(佐藤健)がキスするシーンも公開されて大いに話題となった。ドラマを初回から見てきたものとしては、本作がラブストーリーを描くことが目的ではないからこそ、ラブストーリーの部分がより鮮明に見えるドラマだったと思う。

参考:『半分、青い。』はなぜ新しい朝ドラとなったのか インタビュー&コラムからその軌跡を振り返る

 筆者は、「キスシーンは第1話でしてはいけない」という論をあちこちに書いてきた。視聴者としては、その2人のキャラクターもわからなければ、関係性も、キスをすることになった2人の背景も知らないわけだから、単に演じている俳優同士がキスをしているようにしか見えないからである。

 もちろん、第1話でキスシーンを入れたい制作側の気持ちも理解できる。ニュースになるし、反射的に目を引くという効果もある。今まではドラマにおける1話は重要視されてきた。1話をまず見てもらわなければ、その後を継続して視聴してもらえる可能性が低くなるというのもわかる。しかし、スタート時から20%に達するドラマなどほぼ存在せず(朝ドラは除く)、じわじわと口コミで視聴率が上がっていく作品が多い昨今では、1話よりも大切にすべきは、2話以降の展開となっているのではないだろうか。

 そもそも、高視聴率であったり、後々まで語られたりするラブストーリーは、主役カップルの(妄想やハプニングを除く)キスシーンは1話には出てこない。例えば『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は第6話、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)は第8話、『昼顔~平日午後3時の恋人~』(フジテレビ系)は第4話で初めてキスシーンが出てくる。すべて、「この2人はどうなるんだろう」とヤキモキさせてからのことだ。この中の2作品が不倫ものなのは、「不倫なんて本当はしたくはない、したくはないけれど…」という気持ちの枷があるからこそ、キスシーンが遅くなるという意味もある。

 また、『半分、青い。』の北川悦吏子が脚本を担当した『ロングバケーション』(フジテレビ系)の場合も、キスシーンは第6話で出てくる。恋愛ものだからと言って、最初から恋愛モードから始まらないからこそ、視聴者をどうなるのか…と惹きつけることができるのである。

 『半分、青い。』は、朝ドラであるからキスシーンはない可能性もありえた。朝ドラの直後に放送される『あさイチ』で、司会の博多華丸・大吉の2人も「しそうでしないのが朝ドラと韓流ドラマ」「わたくしもそう思ってましたけどね」とコメントをしていたくらいだ。

 こうした、キスシーンはなくても成立することや、ヒロインの人生をじっくり半年間をかけて描くという朝ドラの性質が、実はラブストーリーを描くことでも、うまく作用したのではないだろうか。

 その半年という間、鈴愛と律は、それが恋なのかわからない状態があり、お互いに恋人ができたときには、それが恋ではないと思いながらも、何か複雑なものを感じ、また律がプロポーズをしたにも関わらず、タイミングが合わないということもあった。その間、数年を離れ離れで過ごす時間もあった。

 もしも『半分、青い。』が幼なじみとの純愛ものと最初から知っていたら、ここまで興味がわかなかったかもしれないが、そうではなかったことも功を奏した。鈴愛は、マアくん(中村倫也)と涼ちゃん(間宮祥太朗)という男性との恋愛模様も見せた。マアくんの誰のことも好きなのかと勘違いさせるゆるふわな恋愛強者的な雰囲気に若さからころっと転び、人生に疲れたときに、運命っぽい出会いをした涼ちゃんと勢いで入籍してしまった鈴愛は、言ってみれば、とても普通に恋愛を重ねている人と言えるかもしれない。

 しかし、そんなその場の勢いに任せてこなかったからこそ、律との関係性は切っても切れるものではなかった。しかも2人は、今やお互いの持ち味を活かしたままに、同じ夢に向かって進もうとしている同士や相棒でもあるから、若さや性的な動機からくっつく以上の関係性の濃密さがあるし、だからこその、一度はキスしても「大丈夫、まだ引き返せる」「まだ大事には至ってないな」というセリフなのである。こうして整理してみると、最終回で2人がどうなろうと、最強のラブストーリーであると思えてくるのだ。(西森路代)

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