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『ジャングル・ブック』が定義付けた映画の新ジャンル ジョン・ファヴローの“娯楽職人”気質も全開

リアルサウンド

20/6/6(土) 12:00

 映画『ジャングル・ブック』が、6月6日21時よりフジテレビ系列で地上波初放送される。

参考:ほか場面写真はこちらから

 “少年以外すべてCG”という触れ込み通り、この『ジャングル・ブック』という作品はもはや実写でもアニメーションでもない、従来とはまったく異なる映画の大ジャンルを定義したと言っても過言ではない。本作の3年後には同じくジョン・ファヴロー監督のメガホンのもとで“すべてCG”で作り出した『ライオン・キング』が製作され、「超実写版」というネーミングが施されたわけだが、本稿では1967年に製作されたアニメーション版『ジャングル・ブック』をはじめとした一連の『ジャングル・ブック』作品にも触れていくため、便宜上「実写版」というくくりに入れた上で進めていきたい。

 さて、この『ジャングル・ブック』の大元を辿っていけば、ラドヤード・キプリングの短編連作小説へと遡る。120年ほど前に書かれた原作は、ジャングルの奥地でオオカミによって育てられた少年・モーグリが、仲間の動物たちに支えられながら、敵であるトラのシア・カーンと対峙し、人間の村を目指すという物語で、本作以前にも幾度となく実写映画化がされている。40年代の最初の実写化から始まり、よく知られているディズニーのアニメーション版を挟んで1994年のスティーヴン・ソマーズによる実写版(これもディズニー製作だ)、さらに1997年にも『少年モーグリの大冒険』いう副題付きの実写版があり、この2016年の実写版に至るというのが主な流れだ。そして2018年にも、かなりダークな様相のアンディ・サーキスによるNetflix版が製作されている。

 この2016年版は、もっぱら2015年の『シンデレラ』から本格的にディズニー実写作品の主流となる、過去の名作アニメーションの実写リメイクプロジェクトの一環である。その後も『美女と野獣』『ダンボ』『アラジン』、前述の『ライオン・キング』に公開延期中の『ムーラン』と続き、今後もまだまだ多くの企画が進行しているのだが、そのどれもが、数年前ならアニメーションでしか実現できなかったファンタジーの世界が現代の技術を用いれば実写化できることを明確に示した画期的なものばかりだ。それと同時に、ケネス・ブラナーやビル・コンドン、ガイ・リッチーといった作家たちが、“らしさ”を維持しながらもディズニー作品と思わぬ親和性を発揮している点が実に興味深くもある。

 しかしながらこの『ジャングル・ブック』においては、その革新的すぎる映像表現によってアニメーション版が焼き直されたというインパクトがかなり大きく先行し、他の作品と比べると作り手のカラーがそれほど強く表出されていないように思える。けれどもそれは決してネガティブな要素ではない。俳優としてのキャリアを積み、コメディ作品からアクション映画など多岐に渡る作品を生み出し、いまや世界の映画史にその名を轟かせるマーベル・シネマティック・ユニバースを司る重要なクリエイターとなったファヴローの“娯楽職人”としての気質は、作家としての個性を強く主張するまでもなく、作品自体が持つパワーを全面的に信頼してこそ成り立つものだ。

 劇中では同じ“ジャングル映画”である『地獄の黙示録』や、少年の成長譚を描いた過去の名作へのオマージュを散りばめるといったアクセントこそあれど、概ねのストーリーはオリジナルのアニメ版を徹底的に踏襲。そして従来の実写版ではいずれも大きな壁となっていた動物の描写を、単に技術の進歩に従属させることなく“動物らしく”映し、また唯一の人間キャラクターであるモーグリの活き活きとした動きを際立たせる。そして公開時にファヴローが「キップリングの時代、自然は克服するものだったが、現代では守るべきものに変わった」と語っていたように、オリジナルのアニメ版や原作への敬意を込めながらも時代に即した物語へとニュアンスが書き換えられている点も見逃せない。これは『ライオン・キング』でも同様のアプローチが取られていたはずだ。

 2018年頃には、本作の続編の企画がファヴローと脚本のジャスティン・マークスの続投のもとで進行しているという報道もあったのだが、それから2年以上続報がなく、現在ではどうなっているのか不明瞭である。オリジナルのアニメ版も2003年にディズニー・トゥーン・スタジオの作品として続編が製作されているわけだが、こちらはお世辞にも出来の良い作品とは言い難いものだった。とはいえ『ライオン・キング』でディズニー実写の技術革新は一段も二段もスケールアップしているだけに、“超実写版”をも凌駕する作品になることは間違いないだろう。 (文=久保田和馬)

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