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星野源、「折り合い」という言葉と音楽に表れた“今”に対するリアルな思い ソロデビュー10周年SP『ANN』を受けて

リアルサウンド

20/6/26(金) 19:00

 『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)は6月23日、ソロデビュー10周年スペシャルと題してYouTube同時生配信を行った。番組は星野源の大ファンを公言する銀シャリの橋本直が司会を務め、「星野源に学んだこと」をテーマにリスナーから寄せられた手紙を読んだり、佐久間宣行氏やオードリー若林正恭がお祝いコメントを寄せるなど、大いに盛り上がりを見せた。

(関連:星野源が貫くミュージシャンとしてのあるべき姿 『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』“ばらばら”の世界に向けて

 放送に先駆けて19日には、新曲「折り合い」のダウンロード&ストリーミングが各配信サイトにてスタート。放送ではこの曲を急遽リリースした背景についても語られた。

「そのときの自分の気持ちがそのまま音になったみたいな曲」

 そう話すこの曲は、ゆったりとした日常感のあるビートが印象的。というのも、今回のコロナ禍で空いた時間を使って「PC上で音楽を作るということをちゃんと覚えよう」と思い立ったらしい。そのため、「うちで踊ろう」にも参加していたmabanuaに電話でレクチャーしてもらい、初めて最初から最後までPC上だけでひとりで曲を作ったのだとか。つまり、音の微妙な隙間や音色選び、リズムからアレンジに至るまで、すべてのポイントに彼の直接的な意志が宿っているというわけだ。

 星野源作品と言えば、時には二胡までも登場するようなバンド演奏による豊かなアンサンブルが魅力のひとつとなっている。しかし、この「折り合い」で目を引くのは少ない音で構成された非常にシンプルなビートのループである(厳密には微妙にずらしたりなどしているようだ)。それによりある種のパーソナルな質感を帯びた楽曲になっている。

 打ち込みの楽曲は、ともすれば人工的なサウンドゆえに無機質に感じられたりしてしまうものだが、この曲からはむしろ温かさや柔らかさ、平常心といった雰囲気が漂ってくる。パーソナルだが孤独感がない。すべてをひとりで作り上げた楽曲と言えど、人肌の感じられる作品になっていると思う。

愛してるよ君を
探してるよいつも
他人のようで違う
2人の折り合いを

 歌詞には〈謝り方 考えなきゃな〉や〈君と喧嘩していたい〉といったフレーズが登場し、亀裂の入った人間関係を修復しようとする主人公が描かれている。その姿を想像するとなんとも愛らしい。彼らしく人への優しさにあふれた作品と言えるだろう。

 それにしても、「折り合い」というタイトルを最初に見たとき、思わずなるほど……と唸ってしまった。「うちで踊ろう」などにも言えることだが、彼の言葉選びのセンスというか、コピーライター的な才能にはつくづく感心させられる。

 この“折る”という字は、心が折れるとか挫折といったマイナスな気分が連想されがちだが、他方で、“折衷”や“折衝”のように二つ以上の物事をつなぎとめる際に使われる字でもある。そして“折り合い”とは、物の本によれば“人と人との関係”、あるいは“互いに譲り合って一致点を見つけること”を意味する。相容れない他者とでも距離を詰め合って、両者の接続を試みようとするときに用いられる言葉だ。

 先日の「おげんさん」についての記事(https://realsound.jp/2020/05/post-558868.html)で、彼が2010年に発売した1stアルバムの1曲目である「ばらばら」が、昨今のコロナウイルスによって我々が置かれた状況をまるで予見していたかのようだというような趣旨の話を書いた。個人主義の加速する現代において、世界が“ばらばら”になっていき、さらにウイルスによってもますます散り散りに散った世の中で、これから先の未来で我々に必要とされているのは、それぞれが納得できうる着地点を模索しながら進む、まさに“折り合い”の精神ではないか。「ばらばら」だからこそ「折り合い」が必要なのだ。

 コロナ禍の真っ只中で作られた曲であり、そこには彼の“今”に対するリアルな思いが表れている。そして10周年というタイミングでのリリースでもあるため、これまでの10年に区切りをつける意味合いも含まれているかもしれない。いずれにせよ、制作アプローチの大胆な変化からして、長い目で見た彼の活動におけるターニングポイント=“折り目”となることは間違いない。(荻原 梓)

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