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『第69回NHK紅白歌合戦』の傾向は? “平成最後”の出場者から浮かぶ3つのキーワード

リアルサウンド

18/11/27(火) 8:00

 11月14日、平成最後となる『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合/以下、「紅白」と表記)の出場歌手が発表された。特別企画で登場する椎名林檎と宮本浩次を含めて全43組。この数は平成に入って最も少ない。まだ発表されていないアーティストのサプライズ出演も考えられるが、基本的には一組ずつのパフォーマンスをじっくり見て聞いてもらおうという姿勢の表れだろう。

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 その顔ぶれを見ると、いくつかのキーワードが浮かんでくる。

 まずひとつは「復活」だ。

 今年最も話題を集めた楽曲がDA PUMPの「U.S.A.」であることは、衆目の一致するところだろう。独特の振り付けも「ダサかっこいい」と人気を呼び、今年を代表するヒットにつながった。

 DA PUMPと言えば、アイドル的人気を誇るダンス&ボーカルグループとして1998年から2002年まで5回連続で出場するなどかつては「紅白」の常連だったが、その後16年出場が途切れていた。これだけ久しぶりの復活は、きわめて珍しいケースと言える。

 ほかにも今年は復活組が目立つ。aikoが5年ぶり、いきものがかりが2年ぶり、松任谷由実が7年ぶり、MISIAが3年ぶり、EXILEが3年ぶり。それぞれ事情は異なるが、DA PUMPとあわせ計6組が復活を果たした。初出場が計6組と昨年から4組減っていることもあり、復活組の存在感はより際立っている。

 もうひとつのキーワードは「ネット発」だ。

 先述のDA PUMP「U.S.A.」がここまでヒットしたのも、もとはと言えばネットで公開されたMVの力が大きかった。ネットでの反響が起爆剤になるのはいまに始まったことではないが、その傾向は年々強まっているように見える。

 そうしたなか、今回初出場となったのがDAOKOである。新世代のラップシンガーとして注目を集める彼女だが、音楽の世界に足を踏み入れたきっかけは動画共有サービス・ニコニコ動画へのオリジナルラップの投稿である。中学3年生のときだった。

 既存のアーティストのMVが人気になったというようなことではなく、ネットでの活動に音楽的創作のルーツを持つアーティストが「紅白」出場を果たしたという意味では、またさらに「ネット発」の次元が進んだと言ってもいい。昨年発売され大ヒットした「打上花火」でDAOKOとコラボし、「紅白」への出場も待望されている米津玄師も、音楽活動を始めた当初、ニコニコ動画に自ら歌った動画やオリジナル曲を投稿していたことで知られる。今後、「紅白」におけるこうしたアーティストの台頭は続くのではあるまいか。

 最後のキーワードとしては、「歌詞」を挙げたい。

 やはりなにかと世間の注目が集まるのは、初出場組だ。いまふれたDAOKOもそうだが、ジャニーズから今年デビューし、CD売り上げも好調なKing & Prince、2018 NHKサッカーテーマ「VOLT-AGE」が話題になったSuchmos、念願の「紅白」出場となった男性ムード歌謡コーラスグループ・純烈、それにアニメ『進撃の巨人』のオープニングテーマで共演したYOSIKI feat. HYDEとバラエティに富む。また別枠ではあるが、企画コーナーで登場する2.5次元ミュージカルの刀剣男子と声優ユニット・Aqoursも近年「紅白」出演が続くアニメ・ゲームカルチャー関連の代表ということで、出演発表と同時にSNSでも早速大きな盛り上がりを見せていた。

 そうしたなか、異彩を放つ初出場組があいみょんだ。最新シングルが日本テレビ系ドラマ『獣になれない私たち』の主題歌に起用されたことでも話題を呼んだシンガーソングライターである。

 そんな彼女の音楽を語るうえで欠かせないのがフォークの影響だ。むき出しのストレートな感情を過激な比喩表現で綴った歌詞が放送自粛になったこともあったほどだが、それはまさにかつてのフォークにも共通する言葉への強いこだわりが彼女にあるからだ。インタビューなどでは、小学生の頃に見た映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の挿入歌「今日までそして明日から」を聞いて吉田拓郎が好きになったことを告白したりもしている。

 音楽受容の仕方が多様化し、誰もが知るヒット曲が少なくなったことはいまさら繰り返すまでもない。最近の「紅白」に対する不満も、「知っている曲がない」というようなものが多い。もちろんそれぞれの世代でヒットしたり話題になったりする曲はあるのだが、それ以上広がっていかない。

 先ほどふれた復活組の各世代に配慮したような顔ぶれには、そうした世代間のギャップを埋める意味合いがひとつあるだろう。だがもうひとつ、世代を問わず視聴者を惹きつけるために有効なのは歌詞の力ではなかろうか。

 ダンスパフォーマンスや最新テクノロジーを駆使した演出などの比重が増している最近の「紅白」。それは時代の趨勢であり、実際見応え十分でもある。しかし、すべてのひとに見てもらうことを目指すほぼ唯一の音楽番組となった「紅白」にとって、こころに響く歌詞を歌うアーティストもまた、世代間ギャップを超えるために必要不可欠だ。あいみょんはその可能性を秘めた存在だろう。彼女の歌声、そして歌詞が初めて聞く世代の視聴者にどう響くか、注目したい。(太田省一)

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