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山崎まさよし、映画主演&主題歌で浮き彫りになる魅力 『月とキャベツ』『8月のクリスマス』から考察

リアルサウンド

19/11/22(金) 14:00

 山崎まさよしの約14年ぶりとなる長編映画主演作『影踏み』が、11月15日より全国公開されている。原作は『64(ロクヨン)』『クライマーズ・ハイ』などで知られるミステリー界の巨匠、横山秀夫の同名人気小説で、監督の篠原哲雄とは『月とキャベツ』以来の長編でのタッグ。主題歌と劇伴も山崎が担当した。

(関連:山崎まさよし「One more time,One more chance」MVはこちら

 映画『影踏み』では新境地である泥棒役に挑戦するなど、2020年に迎えるメジャーデビュー25周年へ向けて精力的な活動を見せている山崎まさよし。そんな彼が手がけた映画主題歌をいくつか振り返ってみよう。

 まずは言わずと知れた名曲で、代表曲でもある「One more time, One more chance」。山崎まさよしの映画俳優デビュー作となった1996年公開の『月とキャベツ』の主題歌に起用されたこの曲は、上京したのになかなかデビューが決まらず悶々としていた、在りし日の山崎自身のパーソナルな気持ちを歌ったもので、実のところ書き下ろし曲ではない(劇伴は映画に合わせて制作)。にも関わらず、一途なラブソングとも取れるような懐の深いソングライティングによって、ひと夏限りの永遠を描いた不思議でピュアなラブストーリーと見事にマッチした。たとえば、〈ふざけあった 時間よ〉の歌詞からは劇中の少女・ヒバナ(真田麻垂美)との交流が思い返され、キャベツをおいしそうに食べる場面や美しいダンスシーンも楽曲全体を通して鮮やかに浮かび上がってくる。

 男のダメな部分や人間の弱さを悪びれることなく自然体で演じられるのが役者・山崎まさよしの魅力だけれど、演技同様にそのやわらかで温かくも哀感漂うメロディはとてもナチュラル。ブルースなどのルーツミュージックが下地にあるからか、アレンジも装飾しすぎず、彼の気取らない性格が伝わってくる。また、聴き手にとっては鼻歌みたいに口ずさみやすく、何かに包まれているような安心感があったりして、「One more time, One more chance」が徐々にチャートを上昇するロングヒットとなったのも納得がいく。

 もっとも、『月とキャベツ』は山崎がくすぶったミュージシャン役で主演を務めていたり、劇中の重要なシーンで「One more time, One more chance」をがっつり(ピアノで)弾き語っていたりと、言うなれば「One more time, One more chance」のための物語となっていて、むしろ映画の脚本のほうが楽曲からヒントを得た部分もあるのかもしれない。だとすれば、そうさせるほどに優れた自伝的ブルースだったということ。いずれにせよ、時を経て2007年、新海誠監督のアニメーション映画『秒速5センチメートル』の主題歌にも同曲が使用された事実が、いみじくもソングライティングの懐の深さを証明している。

 そして、2005年には韓国発の名作『八月のクリスマス』をリメイクした映画『8月のクリスマス』で山崎は再び主演を務め、主題歌と劇伴も担当。役者としては小さな写真館を営む青年をやはり自然体で演じ、小学校の臨時教員(関めぐみ)との淡い恋模様を美しく伝えてくれた。同名主題歌の「8月のクリスマス」も素晴らしく、こちらは書き下ろし曲なので、『月とキャベツ』とはまた違った感じで歌詞を読み解く楽しさがある。

 「8月のクリスマス」では、自身が演じた主人公の抱える葛藤を、劇中で発することができなかった心の声を歌に変え、映画を一段と切なく揺るぎないものにしている。〈ありふれた出来事が/こんなにも愛しくなってる〉〈わずかな時間でも/ただ君のそばにいたかった〉というのはすなわち、不治の病に侵されて余命わずかな状況にある青年の本音だ。彼女と出会って心底生きたいと思えた気持ちが、しっとりとしたピアノの旋律と共に胸を打つ。この捉え方だけでももちろん感動できる曲だけど、山崎まさよしの歌詞が味わい深いのは、至極ストレートな表現に見えてナチュラルに映画の枠を飛び超えてくるところだと思う。

 たとえば、先の〈ありふれた出来事が/こんなにも愛しくなってる〉〈わずかな時間でも/ただ君のそばにいたかった〉というラインには、映画本編のみならず、現実で普通に暮らす私たちの傍らに漂える普遍性がある。いつかの思い出ともスッと結びつくだろうし、結婚式での親への手紙を読む際のBGMなどにもふさわしいのではないだろうか。また、山崎まさよしの歌声を通して、普段から本音を心の奥底にひた隠しにしている自分の姿が浮かび上がってきたり、そんな言葉にならない葛藤に寄り添ってくれるような温かみも感じたりできる。生活ベースのフラットな目線が存在するからこそ、山崎の楽曲はとても人間くさい。喪失さえも美しく描けるほどに。

 絶賛公開中の映画『影踏み』の書き下ろし主題歌「影踏み」(最新アルバム『Quarter Note』に収録/movie ver.は配信のみ)も、主人公の揺れ動く繊細な感情を想起させる、余韻たっぷりのミディアムバラードとなっている。11月22日20時より放送の『ミュージックステーション 2時間スペシャル』(テレビ朝日系)では、同作で共演した山崎まさよし×北村匠海(DISH//)によるコラボレーションで「影踏み」を披露する予定だという。こちらもチェックを!(田山雄士)

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