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遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

南條史生さんとみる『未来と芸術展』

月2回連載

第36回

20/3/6(金)

鈴木 今回は、2019年12月末で森美術館館長を退任された南條史生さんをゲストにお迎えして、館長として最後に手がけられた、現在森美術館で開催中の『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命──人は明日どう生きるのか』(3月29日(日)まで※13日(金)まで臨時休館中)について、いろいろとお話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いします。

南條 よろしくお願いします。

遠山 南條さんお疲れさま会も企画させていただいたり、とても親しくさせていただいます。南條さんはいつから館長を務めていらっしゃったんでしたっけ?

南條 2002年に森美術館の副館長になって、2006年から館長ですね。

鈴木 約17年間、開館(2003年)前からずっと森美術館を支えられ、見てこられた。そして『医学と芸術展』(2009ー2010年)、『メタボリズムの未来都市展』(2011-12年)、『宇宙と芸術展』(2016-17年)など、数多くの展覧会を手がけられました。

遠山 手がけられた展覧会を思い返すと、ただ単純に「現代美術」や「絵画」といったものを取り上げるのではない、新しい美術の路線を南條さんは作られてきたなって思います。

エコ・ロジック・スタジオ 《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》2019年 PETG、バイオジェル、ユーグレナ 317×270×114 cm
(写真下)撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

【解説】「バイオ技術と建築を融合させる試み。ユーグレナを構造体のセルの中に埋め込むことで、建築の外壁が植物で覆われ、それが光合成をして酸素を生み出す。建物が呼吸するような建築として成り立てば、限りなく環境にいい建築物になるのではないか、という提案です」(南條)

鈴木 美術館で展示するものは美術作品である、という既定の概念通りではなく、美術、特に現代美術が、歴史的、社会的、博物学的、科学的、医学的な分野の最先端事例や資料などと一緒に展示された時に、どういった側面を持ちうるのか、ということを南條さんは考え、そしてそれを実現されてきたと思います。それは森美術館のとても大きな特徴だと思います。ジャンル横断的というか。

遠山 確かに。展覧会タイトル見るだけで、ジャンル横断してるってわかる。そして今回も単純な絵画作品というのはかなり少ない。だって建築にファッションに、ロボットにバイオ技術にと、ものすごい幅広い作品というか、研究成果というか、そういったものが並んでいますもんね。

鈴木 ではまず今回の展覧会についてお聞かせください。

豊かさとは何か、
人間とは、生命とは何か

南條 これは2年ぐらい前から計画していた展覧会です。まず背景に、2011年の『メタボリズムの未来都市展』があります。実はこの展覧会のあとに、新しいメタボリズム建築の展覧会をやりたいと本当は考えていたんです。

遠山 私、メタボリズム建築大好きなんですよ。それも見てみたかったですね。でも新しいメタボリズムの展覧会っていうのは?

南條 1960年に日本の建築家らによって提唱された世界的にも有名な「メタボリズム」という建築理論があり、それをもとに2011年は展覧会を開催したんです。しかしその時に感じたのが、実際にはメタボライズ(=新陳代謝)してないじゃないかっていう批判がけっこうあるということ。ただその一方で、現代のソフトテクノロジーを使ったら、もうちょっといいものが作れるんじゃないか、ということで、『ネオ・メタボリズム建築展』っていう展覧会が可能じゃないかと思い立ち、その発想からスタートしました。

展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

【解説】「展示は都市から始まっています。60年代と現在の都市論の違いで一番重要なのは、環境問題。当時は、環境問題という概念があまりなかった。しかし現在は、環境問題というのはグローバルに重要な問題であり、どう解決していくかという大きな課題でもあります。例えば現在の都市づくりは、“スマートシティ”というキーワードで動いているものも多いですね。なのでセクション1「都市の新たな可能性」では、特に現在進行中の都市計画であったり、未来の都市像を提案するプロジェクトや、模型といったものが展示されています」(南條)

南條 そして我々は、先ほど鈴木さんが言ったように、科学や医学といった、アートだけではない多様なジャンルと同居するような展覧会をこれまでもやってきているので、その方針でやろうということになったわけです。また、森美術館は、アカデミーヒルズと森記念財団都市戦略研究所と共に2013年から、「Innovative City Forum(=ICF)」という国際会議をやっています。これは、現在都市が直面している、高齢化、環境の悪化、食料やエネルギー供給の困難など、多様な問題に対して、都市問題、科学・技術、アート・デザイン、経済・産業など互いに立場の異なる世界のオピニオンリーダーが集まり、さまざまな課題を横断的に議論するフォーラムなんですが、その中でこれまでに相当テクノロジーの話が出てきています。これからの時代を変えるテクノロジーは何だろうか? あるとするならその成果を展覧会に入れよう、ということになったわけです。そしてこの3つの背景が一つになり、この展覧会ができました。

ミハエル・ハンスマイヤー《ムカルナスの変異》  2019年 アルミニウム、EPS、スチール、合板 400×φ600 cm 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

【解説】「AIにデザインをやらせたらどうなるか、という事例作品。AIに“ムカルナス”という、イスラム建築、特にモスクの建築でよく見られる、幾何学的な内部装飾のアルゴリズムを読み込ませて、それを使って出てきたデザインをパイプで表現しています。AIがデザインする時代はすぐそこまで来ていて、相当複雑なものでも作れてしまうのです」(南條)

LOVOT(らぼっと) 2018年 ロボット 43×28×26 cm 所蔵:GROOVE X

遠山 どういった観点で、作品などを集めたんですか?

南條 これから人間の生き方を変えそうな技術や視点、社会インフラを変えそうなテクノロジーと、それに関連する表現を集めました。未来の変化についての、科学的、技術的根拠をもったヴィジョンがかなり入っていますね。特にAIやバイオといった側面にも注目しています。

「哲学」「倫理」の重要性

鈴木 テクノロジーとアートが入り混じった今回の展示ですが、何か南條さん自身気づかれたことや、発見されたことってありましたか?

展示風景 左:バイオ・アトリエ 右:森村泰昌《肖像(ヴァン・ゴッホ)》1985年 Cプリント 120×100 cm 所蔵:高松市美術館

【解説】「美術館の中に、「バイオ・アトリエ」という、実際にバイオアートの制作や実験ができる場を作ったことは画期的だったと思います。世界でも非常に珍しい事例です。このバイオ・アトリエの一番奥には、ディムート・シュトレーベの《シュガーベイブ》(2014-)という作品が展示されています。これはゴッホが切り落とした左耳を再現しようというプロジェクト。弟のテオの玄孫から採取したDNAとゴッホの母親の母系の子孫のミトコンドリアDNAを持つ軟骨細胞を培養したもので、これは生きているんです。生きた彫刻とも言えますね。限りなくゴッホの耳に遺伝子的に近い耳です。ただ、これは耳として機能を持つというところまではいっていません。iPS細胞ではありませんので。むしろアーティストのコンセプトを高度なバイオ技術を 使って作品化したということが重要なのです。ちなみにこの作品の左後ろには、森村泰昌さんの《肖像(ヴァン・ゴッホ)》が展示されていますが、これはゴッホの自画像のパロディです」(南條)

南條 今回の展覧会でわかったことは、最終的に情報技術はAIに行き着くということ。もう一つのバイオテクノロジーの方は、人間の体を変えていくような方向に行くだろうと。この2つが一番根本的な問題なんじゃないか。ところがこの2つについて、現実の社会は非常に遅れてるんですよ。それは何かというと、「哲学的思考」。要するに倫理的な問題がまったく議論されていないんです。例えばAIも倫理を教えないと非常に危険なものになる。バイオテクノロジーも、どこまで人間の体をいじっていいのかという問題がありますよね。でもこれらに明確なルールもないし、法律もない。

アギ・ヘインズ 《体温調整皮膚形成手術》(「変容」シリーズより)2013年 シリコーン、モヘア、油彩、綿 55×25×15 cm

南條 それにこのアギ・ヘインズの「変容」シリーズ(2013)は、外科手術で身体を強化した5人の新生児の彫刻。子どもが大人になった時に、どういう身体であれば社会的に成功するか、という可能性を最大限に高めるために、なんと親が修正デザインを描き、それを新生児に施すという作品。これも本当に許されることなのか、親だからといって、自分の子どもの身体にどこまで介入していいのか。遺伝子の問題と同様、とてつもなく大きな問題を秘めている作品です。ということで、現代は「倫理」「哲学」が重要な時代だということを私は言いたいんです。そしてその判断基準には美学があるべきだと。

遠山 でもそう簡単に結論が出る問題ではないですよね。

南條 そうなんです。でも結論は出ないけど、問題を投げかけることはできるし、いま決断することが未来を作ることになる、ということを伝えられる。僕の考えとしては、「未来」というものは自然にやって来るものではなくて、いま我々が作っているもの。その認識を持つべきではないかというメッセージをここで投げかけているんです。で、ゴーギャンが言った「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか(D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous?)」っていう哲学的な命題が、その後ろにあると思っていて、それを問いかける展覧会になっています。

鈴木 その「倫理」や「哲学」といったお話はとても重要だと思います。特に南條さんがこれまでやってこられた展覧会は、ただ現代アート好き、という人だけではなく、テクノロジーだったらテクノロジーの専門職の人であったリ、医療関係者だったり、科学者だったりと、お客さんの層もかなり変わってくると思うんです。だからどんなジャンルの人であっても、「哲学」で作品や考えというものを結びつけて、アップしないとって僕も思います。

ラファエル・ロサノ=ヘメル&クシュシトフ・ウディチコ
《ズーム・パビリオン》2015年 インタラクティブ・ビデオ・インスタレーション、サイズ可変 Courtesy: bitforms gallery, New York

南條 両方がわかる人間になるべきなんですよ。

遠山 アートだから、テクノロジーだから、という側面だけで見るべきではない。そして他分野において、芸術という側面が汎用しうる感じがありますよね。

南條 それに、それぞれがいままでの定義でやり続けていいのかっていうことがすごくあるわけです。

鈴木 確かにそういった問題を提起し続けてきたのも森美術館。南條さんもよくおっしゃってますが、いま世界的に美術館、美術というもの自体が問い直されている。そんな中で、美術館という概念のさらなる拡張と、新たな意味と意義や新しい路線を南條さんが作ってこられたと思います。

テクノロジーとアートの関係

遠山 その「哲学」や「倫理」というお話を受けて、私の素直な肌感覚的に、昭和の時代の主役というのは経済だったと思うんですね。でもこの展覧会を見ると、未来というのは常に芸術が横にありうるという予感と実感を得ることができました。だから楽しい。

南條 テクノロジーとアートの関係でいうと、サイエンスというのは、我々が生きているその世界がどうなっているのかっていうことを探求するわけですよね。だから論理的にやってるのは科学だけど、直感的にやっているのはアートなんじゃないかと思う。実は課題が同じ。ただプロセスは全然違う。さらに今度は技術とデザインっていうのが出てくる。技術は科学が発見したものをアプリケーションとして使う。つまり役に立つようなものとして使うと、それは技術になってくるわけです。アートの方も、アーティスティックな新しい美学が生じた時に、それをグラフィックであったり、例えばネオンの看板であったりとか、いろんなものに適用していくと、デザインと呼ばれるようになる。つまり何かの役に立つように変形するとデザインになっていくということです。ということで、4つのものに並行関係があるんじゃないかと思う。

鈴木 科学とアートがあって、その下に技術とデザインがあるということですね。

アウチ《データモノリス》2018/2019年 ハイビジョン・ビデオ・インスタレーション サイズ可変、12分30秒

【解説】「ここに映るのは、紀元前9600~7000年のトルコ南東部のギョベクリ・テぺ遺跡に刻まれていた図像や情報、周囲の環境をAIで解析し抽象化し、データとして表現し、生成し続けているもの。テクノロジーとアートが入り混じった展覧会だから、観客が2種類。特にこの作品は、象徴的。これならわかるっていうのが、アート系の人。そういう人はテクノロジーは説明しても難しいと言う。逆にテクノロジー系の人は、展覧会の前の方の作品はわかるけど、この作品は何が言いたいのかわからないって」(南條)
「でもある意味、このどんどんと変わっていく映像というのが、森美術館のこれまでの軌跡や、これからの発展など、いろんな意味で森美術館の縮図のような感じにも見えました。これが最後というのは、なんだか象徴的」(鈴木)
「それに『人間はこれからどうなるのか?』という哲学的な問いをも含ませた作品ですね」(南條)

南條 そう、それがそれぞれつながっているような状態。だからここで科学技術系とアート系、そして少しデザインも入っていますが、それらすべてを一緒に展示してるのは課題、問題が同じであるから。だから境目なく入れているわけです。

遠山 そういう技術や科学など、いろんな分野がある中で、まさに掛け算の「×」そのものがアートっていうか、何かと何かを結び付けるための考え方であったりとかって、すごく大事だと思います。

南條 やっぱりアートは直感的なんだよね。反対に技術は繰り返して同じ結果が出ないといけないものだからね。

鈴木 それで証明するわけですからね。直感ではなく、継続と繰り返しと、それこそ結論、結果が重要です。

南條 そう、そこに縛られていないのがアート。バッと結論に飛ぶわけだから。

遠山 それに結論なくてもいいですよね。ビジョンに飛ぶこともある。

鈴木 だからこそ、この展覧会で、現代美術というものが、まったく違う分野の事例や作品と一緒に展示された時に、どういった意味を持ちうるのか、立場となりえるのか、それを考え、知り、今後の議論にしていくことができるというのは、とても貴重だと思います。

遠山 これが南條さんの最後の展覧会になったというのも、そういった意味でも納得です。

南條 僕はすぐに展覧会やアート、テクノロジーを理解してほしいとは思っていません。ただ、現代美術の定義を広げることはできたんじゃないかと思っています。

鈴木 そして森美術館という都会の美術館で、アートを楽しむ社会であるとか、文化というものの重要さを提示してくださったと思います。南條さんのこれからのご活躍も楽しみにしています。今日はありがとうございました。

※新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、森美術館『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命──人は明日どう生きるのか』は3月13日(金)まで臨時休館中。3月14日(土)以降の予定については公式HPにて確認を。


構成・文:糸瀬ふみ 撮影:星野洋介


プロフィール

遠山正道 

1962年東京都生まれ。株式会社スマイルズ代表取締役社長。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」などを展開。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


鈴木芳雄 

編集者/美術ジャーナリスト。雑誌ブルータス元・副編集長。明治学院大学非常勤講師。愛知県立芸術大学非常勤講師。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。『ブルータス』『婦人画報』ほかの雑誌やいくつかのウェブマガジンに寄稿。

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