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有村架純と是枝裕和が初タッグ! 完成したのは“古き良きホームドラマ”!?

リアルサウンド

20/3/20(金) 8:00

 有村架純は2010年に女優として活動を始め、『SPEC』シリーズ(TBS系)や『あまちゃん』(NHK)で注目されて一気にブレイク。2015年に『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)で月9初主演、その翌年には連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)で朝ドラヒロインとなり、この10年間で主演級女優としてのポジションを確かなものにした。映画でも『映画 ビリギャル』などのヒット作に主演している。可憐なルックスと演技力の確かさでビッグチャンスを次々につかんできた彼女が、3月20日(金・祝)深夜0時からスタートするWOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』で一風変わった企画に挑んだ。有村は今回の挑戦についてこう語る。

参考:是枝裕和、今泉力哉らが描く“国民的女優の休日” 『有村架純の撮休』の見どころを徹底解説

「2019年の春先に芝居に対するアプローチだったり、自分のお芝居について、ちょっと迷いや不安を感じ始めてきた時に今回のお話をいただき、次の扉を開くきっかけになるかもしれないと思いました。直感で面白そうと思いました」

 彼女が演じるのは女優の有村架純。その人気ぶりと活躍、世間での認知度も、リアルな彼女と変わらない。ただ、ここで放送される映像は、ドキュメンタリーではなく、あくまでドラマとして創作したものだ。「役者が実名で出て、劇中でも俳優をしているという設定だが、あくまでフィクション」というコンセプトは、遠藤憲一、大杉漣らが出演した『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら』(テレビ東京系)、バカリズム脚本の『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)と同じである。こういったメタフィクションのドラマでは、実際に彼女、彼らが出演した作品が存在する世界として描かれる一方、パブリックイメージと違う意外な面を見せるなど、虚実入り乱れ、どこまでが本当でどこからが創作かわからないところが刺激的だ。

 『有村架純の撮休』の第1話「ただいまの後に」は、『万引き家族』の是枝裕和が演出したことでも話題に。同作でカンヌ映画祭パルムドールを獲得した後、日本で次に監督したのがこのドラマということになる。有村は「是枝さんがこの作品をお受けしてくださったことに驚きましたが、私自身を演じるこのドラマで撮っていただけるのはとても貴重な機会ですし、本当にありがたいです」とコメント。それに対して、是枝監督は演出を引き受けた理由をこう語っている。

「有村さんはいつかご一緒したいと思っていたので、今回このようなきっかけをいただけてとてもありがたいです。有村さんは、お芝居がとても端正な方で、感情をそんなに表に出さなくても、ちゃんとこちらに伝わってくるというか、内に秘めたものが沢山ある女優さんで、監督としては撮りがいがあります」

 そんな監督と女優の新しい出会いがあって生まれた第1話では、休みの日、久しぶりに実家(おそらく出身地である兵庫県伊丹市の設定)に帰る有村の姿を描く。有名人の彼女だが、普通に新幹線と在来線に乗って生まれ育った町まで帰り、普通にスーパーで買い物をし、普通に実家のリビングで母親と共に夕食を作る。実家自体も住宅街にあるごく平均的な一軒家で、その室内空間もリアルな“うち”そのもの。この企画を知らずにドラマを観たら、本当に有村の実家で撮影しているのかと思ってしまいそうだ。ただ、母親役が風吹ジュンで、スーパーの店長役が金田明夫。実家に訪ねてくる男性が満島真之介がという顔の知られたキャストなので、彼らが登場した瞬間、これはフィクションなのだとわかる。

 実家の仏壇には父親の遺影が飾られている。母親(風吹ジュン)は夫に先立たれ今はひとり暮らしなのかと思いきや、時間の経過と共に、しだいに“平凡ではない”家族のストーリーが見えてくる。母娘でスーパーの店長(金田明夫)の話をし、有村はそこで意味深なことを言う。そして、突然、アポなしで訪ねてきた有村より少し年上のイケメン(満島真之介)はいったい何者なのか? まるで往年の向田邦子ドラマのような展開になってくる。有村架純は是枝監督が言うところの「内に秘めたものがたくさんある」演技を見せており、結末まで観て真相を知ってから、もう一度観ると、何気ない日常の場面で有村が見せた繊細な表情が、何を意味していたかわかる。まさに是枝監督が言うとおり「内に秘めたものがたくさんある」「感情をそんなに表に出さなくても、ちゃんとこちらに伝わってくる」のだ。

 ただ、第1話は古き良きホームドラマのフォーマットで描かれる親子の物語。一見、仲が良さそうに見えても、娘と母の間柄というものは複雑だ。母ひとり娘ひとりで暮らしてきたなら、なおさら。同性の親子だから相手の行動パターンはよくわかるのだが、よくわかるがゆえについ口を出してしまうこともある。スターである“有村架純”が母親の前では、ちょっと意地悪だったり子供っぽく拗ねたりする。そんな描写が新鮮で、母親にしか見せない顔をよく捉えている。一場面にあるが、母親から子供扱いされてムキになり、つい母の弱点を突くようなことを言ってしまうのは、娘の立場なら「あるある」と共感できる流れではないだろうか。是枝監督のシンプルかつ丁寧な描写と、有村の「端正な演技」は自然になじんで、メタフィクションということも忘れさせ、人間ドラマに集中させてくれる。

 そして、是枝監督にとっては、『万引き家族』の後フランスで撮影した映画『真実』に続いて、特殊な母親と娘の関係を描き出したことになる。このテーマが今、監督の追っているものなのかもしれない。

 また、有村と母がロールキャベツのような“ロール白菜”を作るシーンも印象的だ。是枝監督がこれまで描いてきた料理の場面、例えば『そして父になる』で真木よう子演じる母親が作っていた山盛りの餃子、『海街dairy』で綾瀬はるか演じる長女が作っていた天ぷらそばを思い出す。それは高級マンション備え付けのアイランドキッチンなどではなく、昔ながらの庶民的な台所のガスコンロで作られる“お母さんの味”。「お母さんの料理はぜんぶおいしいから」という有村のセリフもあり、是枝作品における家庭料理は、ささやかで実は得難い幸福というものを象徴しているように見える。

 第2話以降は、ぶっとんだ設定も、有村の“キャラ変”もありになってくるので、第1話のリアル路線はいいイントロダクションになりそうだ。もう1エピソード、是枝監督が監督した第3話や、今泉力哉、山岸聖太、横浜聡子、津野愛が演出する他のエピソードでは、有村のまたちがう顔が楽しめる。(小田慶子)

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