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とけた電球、みなぎる野心と信頼の証 新体制初EP『WONDER by WONDER』を語る

リアルサウンド

20/3/4(水) 12:00

 たとえば思春期を抜け出した時、あるいは大切な誰かとの出会い・別れを経験した時、人はそれまでの人生とは違うステップを歩み出し、大きな成長を遂げる。少しでも自立して生きていかなければならない、自分らしく生きていかなければならないーーそんな想いが人を強くするのかもしれない。そしてバンドというのも同様に、その音楽性や作家性において、大きく殻を破って成長する瞬間がある。メンバー編成が変わればなおさらだろう。

 とけた電球は、昨年1月によこやまこうだい(Ba)が正式加入し4人編成となった。3月4日にリリースされた新作EP『WONDER by WONDER』は、バンドが現体制になってから初めての作品であり、これまでとは明確に異なる意味を持った1枚だ。まず、演奏の安定感と躍動感が、歌の良さにそのまま直結していること。それによって「ポップス」としての強み、「前向き」という新しさ、どちらの魅力もしっかり掴み取っているということだ。これはバンドとしての意識変化がなければ、成し得ないことだろう。

 絶妙なバランスで構築された『WONDER by WONDER』は、これからさらに加速していくバンドの変化と成長の過程を刻んだ大切な作品に違いない。今の正直な想いを4人に聞いた。

4人の個性を活かして、歌を前に出す

ーー新作『WONDER by WONDER』は4人体制になってから初めてのリリースですよね。まずは、よこやまさんの加入以前と以降でバンドがどのように変わったのか、お一人ずつ感じていることを伺ってもいいでしょうか。

髙城有輝(Dr/以下、髙城):できることが増えたなっていうのはすごく感じてますね。機材のことも(よこやまが)詳しいので、この1年でベースとドラムの噛み合わせを真剣に考えるようになりましたし、そこに感化されたプレイとかフレーズが今作にも滲み出たかなって思います。

境直哉(Key /以下、境):僕は方向性として、「バンドをやる」っていうマインドになれたと思っていて。元々岩瀬(賢明)の歌を中心としたポップスをやるバンドだったので、前のベーシストが抜けた時に、メンバーを入れないままポップグループになる選択肢もあると思ってたんです。でも、僕らはベーシストを入れて、こうだいと一緒に4人のバンドとしてやるっていう方向に軸足が向いたので、今回のレコーディングも4人だからこそできること、4人の個性があるから聴いてて面白いものにしようと思いました。

岩瀬賢明(Vo/Gt/以下、岩瀬):そうだね。心の面で言えば、心配事なく音楽ができるようになりました。こうだいはサポートで最初の1年やってくれてたんですけど、彼が音楽にストイックだったから、サポート以上の活躍をしてくれていて。こうだいの人柄が僕らに馴染んでくれたのも嬉しかったし、友達がメンバーになるのも新鮮でしたし、僕らが音楽に人生賭けられるマインドにもなれたんだと思います。こうだいは、本来は我が強いタイプのベーシストだと思うんですけど、このバンドの最終目標は歌を前に出すことなので、歌に寄り添いながらも自分らしさは失わないプレイをみんなができるようになったのは、こうだいが入ってくれた面が大きいと思います。

ーーというお三方のお話を受けて、よこやまさんはどう感じていますか?

よこやまこうだい(Ba/以下、よこやま):こんなに褒められるとはねぇ(笑)。でも、このバンドで作る曲って新鮮な面がかなりあるので、やってて楽しいし、入ってから1年間その感じがずっと続いてて刺激的なんです。前に自分が所属してたバンドが解散して、サポートも何もやってないフリーターみたいな時期に、バンドを続ける難しさ、誰かと音楽をやる難しさについていろいろ考えてたんですけど、このバンドでは思ってることも言いやすいし、楽曲に対して差し引きとかもできるようになってきたから、自分が成長してるなってことも感じられるんですよね。

ーーサポートを経て、4人の相性がすごく良くなっていたことが伺えるお話でしたけど、それがちゃんと新作にも表れているのが面白いですよね。歌を前に出しつつ、ちゃんとプレーヤーとしての個性も見せるっていうバランスが綺麗に収まっていて。まず楽曲と歌の良さが耳に入ってきて、よく聴いたら演奏も面白いことになってるというのは、ひとつの変化だと思うんです。

境:すごく嬉しいですね。それは元々ずっと目標としていたことで。一時的に満たされるような自己満のカッコよさじゃなくて、ちゃんと歌を聴かせて勝負したいっていうバンドの根幹を持ったままステップアップできたと思ってます。

岩瀬:以前はベースラインも含めて境がアレンジを引っ張ってくれていて、僕らもそれに乗っかってしまってたんですけど、今回の制作は基本それぞれメンバー任せだったし、自分の楽器や歌だけに集中していればよくなったので、こうだいが入ったことでそういう心配もなくなりましたね。あとは、歌や楽器をこうした方が曲が良くなるってことをこうだいが言ってくれるので、4人でバンドやってるんだなあっていう嬉しさは実感しました。

歌への意識変化「僕の人生には音楽しかない」

ーーそれによって、歌への意識が変わった部分はありますか?

岩瀬:今までの曲は僕が8~9割くらい作っていて、内容も実体験とか、僕を映し出したものが多かったんです。でも今回僕が全部作った曲って「焦がれる」だけで、あとは共作なんですよね。曲は僕だけが作るものじゃなくなってきていて。あと、以前は恋愛の曲ばっかりだったんですけど、最近恋愛に興味がなくなってきて、僕じゃない別の登場人物を作って歌詞を書いていくやり方にちょっとずつシフトしていて、歌い方も変わってきてます。自分のことじゃないのに自分らしさを出して歌うって難しいんですけど、4人でバンドとしてこんなに楽しくやれてるんで、それに乗っかって歌おうって思ったらすごく表現しやすくなりました。

とけた電球「焦がれる」(MOOSIC LAB 2019「ビート・パー・MIZU」コラボMV)
岩瀬賢明

ーーそれでいうと、1曲目の「トライアングル」はバンドの新しさがはっきり見える曲ですよね。歌詞でも〈いつかは誰かの 胸を照らすように〉と歌っていますけど、4人でバンドなんだって確信できているからこそ、バンドとして憧れられる存在になりたいっていう気持ちも強く芽生えてきているんじゃないかなって思いました。そこについてはいかがですか?

岩瀬:まず何曲かデモがある中で、境が「トライアングル」をやりたいってずっと言ってたんですけど、僕はこの曲自体の良さがあまりわかってなくて(笑)。でも、周りのスタッフも「トライアングル」をリードにするのは、今後の音楽人生考えたら今しかないって言ってくれて、それなら境に任せたほうが得意かなと思って共作にしたんです。おっしゃる通りあまりこういうことをやってこなかったし、僕は保守的な人間なんで今までのイメージを変えるのが怖いんですよ。こういう前向きな曲を聴くのは好きなんですけど、自分で書いて歌うのはなかなか苦手で……そもそも今までの僕だったら希望とかどうでもよかったし、前向きな人間じゃないんですよね。めちゃくちゃ後ろ向きで生活も暗いんですけど、この曲は内容もスッと入ってきて納得できたから歌えたというか。

とけた電球「トライアングル」(Official Music Video)

ーーお話を聞いていても、歌詞を読んでても、岩瀬さんってふいに情けなさを感じてしまう方なのかなって思ったんですが。

岩瀬:はははは。そうですね(笑)。

ーーそれはどうしてだと思いますか?

岩瀬:最近になってやっと、僕の人生には音楽しかないのかなって思うようになったんです。勉強もっと頑張れば今は違う場所で働いてただろうし、人付き合いを断ってなかったらもっと明るい生活もしてただろうし、僕の人生にはいろんな選択肢があったと思うんです。でも、やっぱり僕は音楽だけはやらなきゃいけないなって思ってるんですよね。義務感とかじゃなくて、僕の人生は音楽やってる方が楽しいなって思う。だから暗い曲ばっかり書きたくないんだけど、やっぱり後ろ向きなのは個性だと思うから、それもちゃんと反映したくて「未来」っていう曲を作りました。

ーー具体的にはどういうところで反映されていると思いますか。

岩瀬:未来に希望は持っていても、現状には不満しかないっていうのは死ぬまでずっと続くと思うんですけど、やっぱり音楽やってればいつか明るい日が来るっていう希望は持ちたくて。だから僕は自分のためにしか歌ってないんですけど、そうやって歌った歌が誰かの心にちょっとでも刺さってくれたら嬉しいし、普通に働いてて仕事しんどいなって思ってる人とかにも、希望を持って欲しいから。そういう意味で「未来」は今一番歌いたい曲でした。

ーー逆にいうと、今持ってる不満の原因って何なんですか?

岩瀬:本当に友達がいないんで、遊びに行くところがなくて(笑)。このメンバー以外ほとんど人と会わないんですよ。音楽やってなかったら僕の周りから人いなくなっちゃうんじゃないかなって思うと、すごく不安もあって……僕にとって、音楽は人生の保険なんです。これがあればいい、これさえあれば大丈夫だと思えるもの。だから音楽をやるのが目的じゃなくて、あくまで楽しく生きることが目的なんです。その上で僕にもできるなって思えたのが音楽だったんで、自分が帰ってこれる場所が音楽なんですよね。音楽さえあれば、きっと人生も楽しくなるっていう保険です。

よこやまこうだい

よこやま:でも、保険っていうとちょっと違う気がするけどね。なんだかんだ戻ってこれるところに音楽があるってことは、それに安心してるんだと思うし、頼ってると思うんですよ。

ーーきっと心の支えみたいなものですよね。

岩瀬:あぁ……そうですね。音楽なくなったら本当に何もなくなっちゃうんで、音楽をやってるってことが心の支柱になってると思います。選択肢がいくつかあって、辞めるタイミングはいくらでもあったと思うんですけど、音楽を辞めなかったのは、去年よりバンドが大きくなってるなっていう実感が毎年あるからで。たぶん今年の終わりにもそう思えるだろうから、それが僕にとっての希望ですかね。去年よりも今の僕らはいいバンドだし、続けていれば大きい舞台に立てるっていう自信があります。

ポップスとしての強度とフレーズの新しさ

境直哉

ーーそして後半3曲は恋愛についての歌で、このバンドらしい王道ポップスの強みもちゃんと押し出していますよね。前半2曲には新しさを出していきたいっていう想いが表れているから、そのコントラストが今作の大きな魅力だと感じました。5曲のバランスについてはどう思われますか?

境:やっとそういうことができたなって思っていますね。僕が弾くのはキーボードですけど、結構ギターロックが好きなんですよ。UKっぽいサウンドが好きだけど、そういうものに対する憧れって元々このバンドでは出せなかったし、趣味でいいかなっていう感覚だったんですけど、それを出せたのが「トライアングル」と「未来」だったのかなって思います。逆に後半3曲に関しては、アシッドジャズとかAORみたいな得意なパターンをやっていたり、あとはポップスとしていきものがかりが好きなんですけど、そういうJ-POP的な楽器の重ね方、展開の作り方って伝統芸能的ですごく美しいと思うんですよね。その追求はこのバンドでやっていきたいですし、「ドラマ」とかはそういう趣向が凝らされている曲かなって思います。

ーーラストの「恋の美学」にも今の話に通ずる部分がありますよね。優れたJ-POPであり、ファンクのテイストもありつつ、アウトロのセッション感ある演奏を聴いているとロックバンドとしてのカッコよさも兼ね備えていて、いろんな要素が詰まってる楽曲だと思います。

よこやま:「恋の美学」は僕がサポートの時からでき上がってた曲なんですけど、自分が弾いたものに対して岩瀬から「もうちょっとファンクっぽくペペッてやってよ!」っていう注文があって(笑)、それを自分なりに上手く消化できた曲でした。おっしゃっていただいたアウトロのところは、みんな好き勝手に楽しんでる感じなので、演奏って楽しいんだぜ! っていうバカみたいなことも言えるし、歌とのバランス含めていい感じに調和した曲だと思います。

ーーわかります。ここまで楽しさが真っ先に伝わってくる曲も新鮮ですよね。

よこやま:僕らってスタジオでそれぞれを囃し立てる瞬間とかがあって(笑)。髙城にみんなで「お前もっとやっちゃえよ!」って言ったりとか。

岩瀬:髙城が一番それ言われてるかもしれないね。もっとすごいフィル叩いてよ! とか(笑)。

髙城:(苦笑)。

よこやま:でも、そう言われてもみんな自然にできるんですよね。

髙城有輝

ーーそこに関して髙城さんはいかがですか。「恋の美学」に限らず、「トライアングル」ではサビ裏でものすごくカッコいいフレーズを叩いてますよね。

髙城:それこそ、みんなから「すげえのやってよ」って囃し立てられた延長ですね(笑)。歌が軸だっていうのが共通認識だからこそ、難産なフレーズでした。フュージョンとかジャズファンクも好きなので、ついついそういうフレーズやっちゃうんだけど、みんなからわかんないって言われると「大衆に迎合しなきゃいけないのか。やれやれ」ってなる(笑)。

全員:ははははは。

髙城:でも最近エンジニアさんに「曲が呼んでるものをやらないのは失礼だよ」って言われて、その言葉を大事にしているんですけど、「恋の美学」のサビ前のフィルとかは、この曲があるからこういう解釈なんだなって思いながら叩くことができて。あとは、こうだいがフィルとかバスドラムの抜けたところを結構気づくから怖いんですけど(笑)、どこに何の音を入れるか、一音一音まですごく丁寧に作れたなっていうのは実感しました。

とけた電球の未来「バンドは自分の存在意義」

ーー今作のアンサンブルの変化を象徴しているのが、今の髙城さんのお話だったと思います。今作を経たことで、とけた電球はどうなっていくと思いますか?

境:こうだいが入ってから、こういうアレンジや曲がいいんじゃないかっていうディスカッションができるようになったので、ここからもっともっと深めていけるんじゃないかなって思います。1年後くらいにこのEPを振り返った時に、面白いEP作れてよかったなって思えるんじゃないかなって。

よこやま:そうだね。この『Wonder by Wonder』は僕が入って初めてのEPだから、変化の要因が割と自分にあるのは自覚していて。中学から一緒のメンバーもいるけど、いきなり慶応でもマンドリン部でもない僕が入ってきたから(笑)、今までと違う要素だし、認めてもらえるかって不安に思いながら作ってたところはあって。でも、こうして言われたことを聞くとすごく安心するし、すでに自分の中の自信に繋がってますね。もっとみんなで楽しくやりつつディスカッションもちゃんとして、バンドに寄り添えるようにずっと作って行きたいなって思える1枚になりました。

髙城:自信になったっていう意味では僕も同じですね。「焦がれる」は初めて映画とコラボさせていただいて、脚本読んだ上で作ったものをこうして出すことができたし、バンドの得意なところとか「ここはこう行くよね」っていう共通認識を再確認できた部分もあって。「未来」みたいな歌をちゃんと歌えるバンドだし、「ドラマ」や「恋の美学」みたいなポップスもあるし、その振れ幅をちゃんとやれたのがすごくよかったです。岩瀬が「未来」を一番歌いたい歌だって言ってたのも印象的だし、彼が歌う意味、バンドとして出す意味がすごくあると思います。

ーーそういうストーリーが見えるから素晴らしい作品ですよね。岩瀬さんはいかがですか。

岩瀬:今回は楽曲に対する不安というより、聴いた皆さんがどう受け取るかっていう不安が結構あったんです。でも、僕らがこうして変わろうとしてる過程をちゃんと形にできるのが、音楽とかCDのいいところだと思っていて。どんどんサブスクに移行するとは思うんですけど、これから僕らが新しいCD出した時に「変わろうとしてる過程で、こういう作品もあったんだな」っていうふうに、形として愛して欲しいなって思います。僕の心境も変化するから、もっと明るい方に行くかもしれないし、暗い方向に行ってしまうかもしれないですけど、音楽を続けてたら人生よくなるっていう希望はずっと変わらないと思うので、そこから出てきた楽曲がみんなの希望になったら嬉しいなと思いますね。

ーー岩瀬さんは最初に「自分のためにしか歌っていない」っておっしゃってましたけど、今作ができたことで、誰かのために歌いたいっていう想いも芽生えてきたってことなんでしょうか?

岩瀬:いや、実はそこは変わっていなくて。やっぱり僕は自分のため、バンドのために歌ってるんです。とけた電球って、そのまま僕だと思っていて。僕は「とけた電球の岩瀬賢明」なので、とけた電球を面白がってくれてるってことは、そのまま僕のことを面白がってくれてるのと同じだと感じるんですよね。

ーーバンドと一心同体なわけですよね。

岩瀬:だからバンドが変わっていく過程を楽しんでもらえたら、僕がみんなから必要とされてる人間なんだって思えて、自分の自信に繋がるんです。

ーーバンドを通して、自分の存在意義を感じられると。

岩瀬:そうですね、まさに存在意義です。僕がとけた電球の岩瀬賢明であることに意味があるんだなってちゃんと納得できるし、それが頑張る根源になる。だから自分のために歌ってますけど、人からいいなって思ってもらえないと意味はないので。みんなが楽しんだり好きでいてくれるのが僕らの力になって、バンドが大きくなっていけばいいなって思います。

とけた電球『WONDER by WONDER』

■リリース情報
とけた電球 2nd EP『WONDER by WONDER』
3月4日(水)発売 ¥1,800円(税抜)

<収録曲>
1. トライアングル
2. 未来
3. DRAMA
4. 焦がれる
5. 恋の美学

■ライブ情報
『とけた電球ワンマンライブ 2020「オクターブ」』
3月29日(日)OPEN 17:15/START 18:00
料金:前売り¥3,600(ドリンク代別) ※SOLD OUT

とけた電球ホームページ

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