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隈研吾の建築を、ネコの目線で再検証!? クマとネコの意外な関係とは?

ぴあ

隈研吾 撮影:渡邊明音

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スコットランド初のデザイン博物館「V&Aダンディー」や、この夏、いよいよ世界にお披露目される「国立競技場」の設計への参画など、国際的に注目される建築家・隈研吾。彼の公共性の高い建築68件を、隈本人が「ネコ目線」で解説するという、なんとも不思議かつ大規模な個展が、6月18日(金)より東京国立近代美術館で開催される。この展覧会『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』について、隈研吾本人に聞いた。

飼いネコを捨てられて建築家に

――まず、本展のタイトルを聞いた人の多くが「なぜネコ?」と思うと思うのですが、隈さんはもともとネコがお好きなのですか?

実は子どもの頃から大のネコ好きです。それが高じて獣医になろうと思っていたほど。ところがネコ嫌いの父親に飼いネコを捨てられてしまい、それを機に建築の道に進んだのです。

――隈さんの建築の原点には、本当にネコがいたというわけですね。

最近気づいたのですが、僕がやってきたことは、コンクリートの冷たい建築の中に、ネコのように小さくて柔らかく、温かいものを取り入れること。ネコとバータ-(交換)で建築家になったという想いがあるからか、自分の建築の中にネコ的なものを取り戻したかったんでしょうね。

オドゥンパザル近代美術館(トルコ) 2019 (c)Erieta Attali

――それで展覧会でも、ご自分の建築を、「孔」とか、形や素材の「やわらかさ」といった、ネコの好む5つの要素ごとに解説されているんですね。

そう、ル・コルビュジエの「近代建築の5原則」ならぬ、隈研吾の「ネコの5原則」ね。

隈建築のキーワードのひとつは「ウェルカム感」

――隈建築といえば、木材を使った、和のテイストを取り入れた建築、という印象を勝手に持っているのですが、それもネコと関係があるのでしょうか?

そうですね、路地裏をうろついているネコは、やはり木とか土とか自然の感触が好きでしょ。

それから和のテイストに関しては、僕自身は「日本的」であることにこだわってはいません。ただ、本展を企画した保坂健二朗さん(ゲスト・キュレーター/滋賀県立美術館 ディレクター(館長))が、僕の建築の特徴を、“たくさんの人が集まる場所”と言ってくれたように、僕の設計の大事な基準が、いかにウェルカムな感じを作るかということなんです。

La Kagu 2014 (c)SS Co., Ltd.

そう考えると日本の伝統建築は、少しだけひさしが出ていたり、縁側があったり、西洋の石の建築に比べて、だんぜん人を迎え入れる感覚があるんです。木で格子を作るとちょっと向こう側が見えるから入ってみたくなるとか、そういう日本の伝統建築の方法は、大いに参考になりますね。

ミラーの関係にある? 2つの国立競技場

――今回はコロナ後の人間の生活に生かすために、隈さんの建築が集まる神楽坂のネコたちにGPSをつけて彼らの生態を調査した、《東京計画2020 ネコちゃん建築の5656原則》も発表されています。この「東京計画2020」とは、20年前の東京オリンピック前に丹下健三が打ち出した「東京計画1960」への応答とのことですが。

そうです。丹下健三は1964年の東京オリンピックの時に、代々木の国立競技場を設計しました。そして僕は、東京オリンピック2020の国立競技場の設計に参画した。丹下さんの時には、日本は高度経済成長のピークでしたが、今は右肩下がりの日本経済に、コロナが追い打ちをかけている。僕はこの2つの国立競技場は「ミラー=合わせ鏡」の関係にあると思っています。

――「ミラーの関係」とは?

たとえば丹下さんの国立競技場は、水泳競技などの体育館ですから、天井を高くする必要はないのです。しかし彼は競技場の屋根を高く吊ることにこだわりました。一方、僕らが意識したのは、競技場をいかに地面に近い低層階にするかということ。それから素材も丹下さんがコストをかけてコンクリートをふんだんに使ったのに対し、僕らは日本で一番流通している安い木材を使っているんです。

――地面や木材を身近に感じるというのも、路地裏や自然の素材が大好きな「ネコ的視点」ですね。

後世の人が1964年と2020年のオリンピック・イヤーは本当に対照的だったと認識してくれるような案を出したのですが、最初に「木材を使って、低層階にしたい」と提案した時、スタッフのみんなが「それカッコいいよね」と賛同してくれて、これが今の時代の感性なんだと思いましたね。

――つまり新しい国立競技場は、丹下健三建築へのアンチテーゼと言ってしまっていいですか?

大丈夫です。

ポスト・コロナの公共建築とは?

――では最後に、コロナ後の公共建築について、隈さんのお考えをいただけますか?

雲の上の図書館/ YURURI ゆすはら 2018 (c)Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

テレワークが進んだポスト・コロナは、人間がハコを出る時代になると思います。それまでは、高層のコンクリートのハコの中に住んだり、働くことが一種のステイタスでしたが、そんな都会のハコの中にいなくても仕事はできると多くの人が気づきました。こうして自然に帰った人があらためて集まる場所が、21世紀の新しい公共性だと思うのです。そこを訪れた人が好きなところに座って好きなことができる。そんなネコが集う日だまりのように誰でも受け入れてくれる空間が、これからの公共建築に求められていると思っています。

取材・文:木谷節子 撮影:渡邊明音

【開催情報】
『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』
6月18日(金)~9月26日(日)、東京国立近代美術館にて開催
https://kumakengo2020.jp/

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