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井上陽水、松任谷由実……大物アーティストのサブスク解禁が音楽シーンに与えるメリットは?

リアルサウンド

18/9/30(日) 15:00

 2015年にサービスを開始したApple Music、2016年に上陸したSpotifyなど定額制音楽配信サービス(サブスクリプションサービス:サブスク)が日本に登場して早数年、「CD大国」と言われる日本でも少しずつこれらのサービスを利用して音楽を聞くことが定着しつつある。その要因の一つに配信楽曲の充実が関係していることは間違いないだろう。

(関連:Mr.Children、膨大なカタログ楽曲から浮かぶ様々な側面 サブスク解禁を機に紐解く

 海外先行のサービスということもあり、開始当初はいわゆる洋楽アーティストの楽曲が豊富という印象が強かったものの、今ではJ-POPアーティストの楽曲も遜色なくラインナップされている。特に2017年にはDREAMS COME TRUEや宇多田ヒカル、今年2018年にはMr.Childrenや椎名林檎といった数々のヒット曲を持つメジャーアーティストたちが次々と楽曲を解禁するという大きな動きが見られた。さらに9月には井上陽水と松任谷由実、ともにデビュー50周年と45周年を迎えた大物アーティストが楽曲の配信を開始した。このようなキャリアのあるアーティストが楽曲を解禁したことで、サブスク、また音楽シーン全体にはどのようなメリットが生じるのか。デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に話を聞くと、まず、活動歴の長さや認知度の高さゆえの利点があると語る。

「キャリアのある人気アーティストになればなるほど、いろいろな接点を持つ“仮想リスナー”が膨大に存在します。TVCMやラジオで曲を知っているけれどCDを購入したりライブを見るまでには至らなかった人、一時期の作品だけを聞いていた人などの潜在的なリスナーに、サブスク解禁を機に知っている曲以外の曲へのパイプをつなぐことができる。初めて聞く人のほかに、昔聞いていた人に改めて曲を聞いてもらう機会があるというのは、大きなメリットだと言えます」

 また、そういったリスナーたちに再び音楽を届けることにより、音楽へのエンゲージメントを高める可能性があるとジェイ氏は続ける。

「最近聞いていなかった人たちが音楽を聞くことで、別の音楽を聞くきっかけになったり、CDを買う、ライブに行く……というような行動に発展していく可能性があります。また、ライブをする、新譜を出す、という動きがある時にあらかじめ過去作を聴いてもらい予習・復習ができたり、次の動きに対する期待値を高める効果もあるでしょう。聞いてもらいたい/聞きたい曲がいつでも、どこでも聞ける環境にあるというのは、アーティストもリスナーも選択肢が増え、結果的にシーン全体の活性化にもつながる。サブスクを終着点にするというよりは、作品と作品、作品と活動の間をつなぎ合わせるバイパスのような形で活用できるようになるとよいのでは。配信楽曲の充実は、そういった展開の土台づくりにもなりますよね」

 一方で、ジェイ氏は、昨今の大物アーティストの楽曲解禁の動きに対し「解禁依存」という言葉を使い、日本におけるサブスクの問題点を次のように指摘する。

「よく海外の人から日本人はジャンルで音楽を聞くよりも、アーティストにフォーカスした聞き方が多いということを言われます。そういった特性があるゆえか“解禁すること”にサービス側もレーベル側もやや依存していて、サブスク本来の持ち味を生かしきれていないような印象を受けるんです。現状のやり方では発売日にCDを目立つように並べるのとあまり変わらない。本当の意味でのアーティストやリスナーの利益を考えれば、解禁時にリーチする層を広げる複合的なプロモーション、解禁以降どう曲を届けるかなど、工夫できることはまだまだあるはず。特にキャリアが長ければ楽曲の種類も豊富なため、メッセージやテーマ、季節やイベントなど日本人によりフィットするプレイリストを作るなど、より多くのリスナーを巻き込む方法が増えることに期待したいです」

 J-POPの隆盛~全盛期に活躍したアーティストたちの楽曲の中には、今もなお多くのリスナーに愛され続ける名曲が多い。そういった楽曲に誰もが簡単にアクセスできることにより、それぞれのアーティスト・楽曲への再評価が進むなどのメリットがある一方、ユーザー特性に合ったレコメンデーションを丁寧に作り込んでいくことが、サブスク、さらには音楽シーン全体を盛り上げていくために求められる今後の課題なのかもしれない。(久蔵千恵)

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