Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

野村正昭 この映画がよかった! myマンスリー・ベスト

私の12月第1位は、日本映画『無頼』、外国映画『魔女がいっぱい』、そして私的年間ベストも発表します!

毎月連載

第29回

20/12/31(木)

12月公開の日本映画、この10本

①無頼
②アンダードッグ 前・後編
③日本独立
④私をくいとめて
⑤ミセス・ノイズィ
⑥天外者
⑦夏、至るころ
⑧調査屋マオさんの恋文
⑨吉関菜央特集 Dancing Films 情動をおどる
⑩君は彼方

※対象は11/26~12/24公開のもの

『無頼』『アンダードッグ 前・後編』は、どちらも長尺の作品だが、見応え十分なので、ぜひ観てほしい。井筒和幸監督8年分ぶりの新作『無頼』は、当初今年5月に公開されるはずだったが、コロナ禍の影響で12月公開になってしまった。だが、アウトローたちの昭和史を俯瞰し、総括する内容からいっても年末公開の方が相応しかったかもしれない。物語の中心人物である井藤正治役を演じるのは、初代EXILEのパーフォーマーで、現在は俳優として活躍中の松本利夫。彼を軸にしてその妻で、ヒロイン佳奈役の柳ゆり菜、それに、ラサール石井、三上寛、隆大介、升毅、小木茂光、木下ほうか、中村達也、外波山文明ら曲者揃いのキャストが、はみ出し者たちを熱く演じて、2時間26分を一気呵成に駆けぬける。主題歌を泉谷しげるが、自らの代表曲『春夏秋冬』の”無頼バーション”をセルフカバーして、じっくり聞かせてくれる。

『アンダードッグ 前・後編』も、森山未來が、崖っぷちのボクサーを演じ、北村匠海、勝地涼らと迫真のファイトシーンを見せてくれる。『百円の恋』の武正晴監督&足立紳脚本コンビが、満を持して放つ問題作だけに、これも必見といえます。硬派の映画が続きますが、伊藤俊也監督の『日本独立』は、第二次大戦直後、米国主導で早急に憲法改正を推し進めようとするGHQに抵抗した人々を描くドラマ。主人公・白洲次郎役の浅野忠信をはじめ、宮沢りえ、渡辺大、柄本明、松重豊、伊武雅刀、佐野史郎、石橋蓮司ら豪華女優陣もさることながら、特筆すべきは、のちの内閣総理大臣・吉田茂役の小林薫。ミスキャストかと思いきや、入念なメイクを施して役柄に挑み、浅野忠信ををして、「”小林薫さん”とは現場でお会いした記憶がありません」と言わしめるほど、存在感のある結果となった。

『私をくいとめて』『ミセス・ノイズィ』『夏、至るころ』などの佳作も充実していたが、「吉関菜央特集 Dancing Films 情動をおどる」の実験的な中・短編は、未来への可能性を強く感じさせ、この分野でのさらなる活躍を期待したい。(私が観た12月の日本映画は23本)

12月公開の外国映画、この10本

①魔女がいっぱい
②ネクスト・ドリーム ふたりだけで叶える夢
③燃ゆる女の肖像
④ヘルムート・ニュートンと12人の女たち
⑤ノッティングヒルの洋菓子店
⑥ブレスレス
⑦声優夫婦の甘くない生活
⑧アーニャは、きっと来る
⑨ニューヨークの親切なロシア料理店
⑩ヒトラーに盗られたうさぎ

※対象は11/26~12/24公開のもの

12月下旬から公開の新作、例えば『ワンダーウーマン 1984』や『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』などを未見なので、こうした作品を観ていればこのテンもかなり変って来たと思いますが、それにしても『ナイル殺人事件』や『ブラック・ウィドウ』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、どんどん公開延期になり、果して、いつになったら観れるやら。その中で『魔女がいっぱい』は、全米では配信だけで、劇場公開されず、あまり期待せずに観ましたが、思いがけない拾い物でした。『チャーリーとチョコレート工場』で知られるロアルド・ダールの原作を基に、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督が手がけたファンタジー。アン・ハサウェイが世界一恐ろしいといわれる大魔女に扮し、大いに楽しませてくれますが、この結末には驚いた。原作通りだそうですけど、まぁ、ファンタジーだから、これでいいのかなあ。

『ネクスト・ドリーム ふたりだけで叶える夢』は、ハリウッドの音楽業界を舞台に、トップ歌手と、その女性アシスタントの絆を通して、これも想像以上の面白さ。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のダコタ・ジョンソンの初々しいヒロインに注目ですが、トップ歌手グレース役のトレイシー・エリス・ロス、あのダイアナ・ロス(懐かしのシュープリームス!)の娘とはね。J・ラッパーとして活躍し、俳優としてもキャリアのあるアイス・キューブが、憎まれ役かと思いきや、後半いい味を出しているのも嬉しい。

『燃ゆる女の肖像』『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』『ノッティングヒルの洋菓子店』など、高品質の作品もオススメです。(私が観た12月の外国映画は16本)

2020年の日本映画、この10本

①海辺の映画館ーキネマの玉手箱
②僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46
③37セカンズ
④無頼
⑤窮鼠はチーズの夢を見る
⑥空に住む
⑦映像研には手を出すな!
⑧劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編
⑨魔女見習いを探して
⑩音楽

歴史上かつてないトンデモナイ年でしたが、ベストテン自体は、すんなり選出できたのは意外。ドキュメンタリーだけでも10本選べますが、ここはあえて欅坂に代表してもらいました。『アンダードッグ』『スパイの妻』『望み』『罪の声』『his』『ステップ』『ソワレ』『喜劇 愛妻物語』『 夏、至るころ』『私をくいとめて』などもテンに入れたかったです。

2020年の外国映画、この10本

①パラサイト 半地下の家族
②彼らは生きていた
③バクラウ 地図から消された村
④フォードvsフェラーリ
⑤1917 命をかけた伝令
⑥ザ・ハント
⑦男と女 人生最良の日々
⑧ようこそ映画音響の世界へ
⑨淪落の人
⑩THE CAVE サッカー少年救出までの18日間

コロナ禍以前に観た『パラサイト 半地下の家族』『彼らは生きていた』『フォードvsフェラーリ』が何だか随分昔に観た映画のような気がします。『リチャード・ジュエル』もそう。これはコロナ禍がもたらした時空の歪みなのか。『ハニーボーイ』『カセットテープ・ダイアリーズ』『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』などもテンに入れたくて、最後まで悩みました。

残念ながら、今回で、ひとまず私のマンスリー・ベストは終了となります。2020年はコロナ禍の影響で、映画界も大変な年になってしまいましたが、来年こそは、思う存分、新作が観られることを祈りつつ、これまで毎月、ご愛読いただきありがとうございました。なお、私の〈水先案内〉は、来年も続きますので、何卒よろしくお願いします。

それでは、皆さん、よいお年を!


〈おしらせ〉連載「この映画がよかった! 野村正昭のmyマンスリー・ベスト」は今回が最終回です。皆様、ご愛読ありがとうございました。(編集部)

プロフィール

野村正昭(のむら・まさあき)

野村正昭(のむら・まさあき) 1954年山口県生まれ。映画評論家。年間新作800本を観る。旧作も観るが、それを数えると空恐ろしい数になるので、数えないことにしている。各種ベストテンの選考委員を務めている。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む