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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

「天気の子」新海誠監督の才能を発掘 20周年を迎える「下北沢トリウッド」

隔週連載

第20回

19/9/22(日)

小劇場、ライブハウスが集まる“若者の街”、下北沢に唯一ある映画館「下北沢トリウッド」が今年12月、20周年を迎える。当初はショートムービーの専門館としてスタートし、今ではバラエティーあふれるラインナップを上映。新海誠監督のデビュー作『彼女と彼女の猫』(2000)や『ほしのこえ』(2002)などをいち早く紹介した。トリウッド代表が知るデビュー当時の新海監督とは……。

「彼は絶対、世に出ると思っていましたね。 “第二の宮崎駿”と言われたけれども、そうではなく、(唯一無二の存在である)“第一の新海誠”になると言っていました。その通りになって、ホッとしました」。「下北沢トリウッド」代表の大槻貴宏さんは『君の名は。』『天気の子』で大ブレークした新海監督をこう評する。

『ほしのこえ』のポスターと新海誠監督から届いた20周年を祝う贈り物

『彼女と彼女の猫』は新海監督がゲーム会社に勤務しながら、個人で全て製作した5分弱のCGアニメ。その当時の様子をはっきりと覚えている。「その時は20〜25分のプログラムの中の1本だったんです。映画はすごく面白いと思いましたが、お客さんは誰もいなくて、監督だけが客席に座っていました。監督と2人で『これが現実なんだ。いいものを作るだけじゃダメなんだ。クリエーターとして、どうお客さんに見せるかを考えなければいけない』という話をしました」。

「下北沢トリウッド」代表の大槻さん

その2年後に上映された『ほしのこえ』はトリウッドにも新海監督にも転機となった。宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の遠距離恋愛を描く、個人制作による約25分のSFアニメ。4週間限定の公開だったが、長い行列ができる大ヒットとなり、トリウッドの名を広く知らしめた。「上映最終日は、お客さんが途切れるまで上映しました。短い作品なので、何度でも上映できるんですよ。新海監督もいる中、深夜零時をすぎるまで上映しました。『君の名は。』は、あの時のインパクトが全国に広がったんだと思います」。

下北沢トリウッドは1999年12月に開業。大槻さんは学生時代から自主映画の監督として活躍し、PFFに入選したこともある。大学卒業後は映像制作を学ぶため米国留学。94年に帰国し、映画の専門学校で講師を務めた。「98年頃、映画を作ることはできるかもしれないけれども、上映するところがないと感じていたんです。その状況はアメリカでも一緒でした。だったら、自分で映画館を作ればいいんだと思ったんです」。

当時32歳だった。資金はわずかな自己資金と通産省のベンチャー企業の助成金500万円、さらに、この通産省の“お墨付き”を武器に銀行からの融資を受けた。「下北沢にはライブハウスもあるので、敷居を低くして、『映画館のライブハウス』みたいなものを作れれば、面白いんじゃないかと思いました」。

トリウッドが入居するビル外観

劇場は小田急線・千代田線「下北沢駅」より徒歩約5分、雑居ビルの2階。席数は47。当初はショートムービーの専門館としてスタートしたが、2年目から路線変更。今では国内外の商業映画、インディーズ映画、アニメーションなどを上映。ここでしか観られない映画も数多い。上映形態が異なるため、動員比較はできないが、『ほしのこえ』や『演じ屋』(2001、2003)が印象深いという。最近では、京都を中心に活動する劇団「ヨーロッパ企画」と下北沢映画祭とのコラボ企画「トリウッド大作戦」や山本寛監督による東北三部作の最終章となるアニメ『薄暮』(上映中)も人気を集めた。

『薄暮』のトークイベント。山本寛監督(右)とゲスト出演した松江哲明氏(左)。松江氏がプロデュースしたアニメ『音楽』は下北沢映画祭でも特別上映される

「20年やり続けられたのだから、需要があったんだろうと思います。始めることより、続けることが大変でした。運もよかったのかな。多分、50席弱といういう規模感が時代に合っていたんだと思います。今あるミニシアターの1スクリーンは50〜60が主流で、回転を良くしています。それに、売っているものがいろいろ違っているのも、よかったんでしょうね。作品は山ほどある。新海監督を始め、新しい才能がどんどん出てきていますから」

ショートムービーやインディーズ作品は現在では配信でも観られるようになったが、配信は映画上映の妨げにはならないと考えている。「先日行った『ウィーアーリトルゾンビーズ』(長久允監督)のイベントの直前にも無料配信をやっていましたが、映画館はほぼ満員でした。配信で観て映画館にも来た方が7人いたんです。僕らには、観客の皆さんに映画を観てもらって、イベントに参加していただき、パンフレットを買ってもらって、登壇者のサインをもらって帰っていただく、というやり方がある。配信がいい悪いではなく、上映と配信とはまったく違う体験だと思っています」と話す。

ロビー

「下北沢映画祭」(10月12日から14日まで、会場:北沢タウンホール、ライブハウス近松、下北沢トリウッド、スカイサロン)では、「五・七・五・七・七から生まれた映画たち」(12、13日、開場19:15開演19:30)と題する企画上映を行う。これは、短歌コンテストの応募作を、杉田協士監督が長編映画化した『ひかりの歌』(2019)を構成する4作品の短編バージョンを一挙上映するというもの。また、10月14日には「ヨーロッパ企画の新プロジェクト発表会」というイベントもある。

「下北沢映画祭には第1回から審査員として関わらせていただき、途中から会場としても参加させていただいています。ヨーロッパ企画とのプロジェクトはまだお話できませんが、2020年に向けて新しいことに挑戦したいと思っています」。トリウッドの由来は、トーキョーと映画の聖地「ハリウッド」をかけ合わせた造語。インドのムンバイ(旧名ボンベイ)がボリウッドなら、ここは下北のトリウッドだという思いからつけた。これまでも映画の企画者に名を連ねる大槻さん、トリウッドの21年目に向けた新展開に注目だ。

映画館データ

下北沢トリウッド

住所:東京都世田谷区代沢5-32-5-2F
電話: 03-3414-0433(電話受付:営業時間内 ※火曜日定休)
公式サイト: 下北沢トリウッド

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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