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aikoの楽曲は、なぜJ-POPの典型を守りながらも洒脱に感じられるのか 譜割&リズム感覚を分析

リアルサウンド

19/12/27(金) 7:00

 J-POPを代表するシンガーソングライターとして、1998年のデビュー以来20年余りに渡って変わらぬ人気を保ってきたaiko。6月には2018年までの20年分のシングルをまとめた『aikoの詩。』をリリースしたのが記憶に新しい。この年末には、12月27日に放送の『ミュージックステーション ウルトラ SUPERLIVE 2019』(テレビ朝日系)や『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)などの音楽番組に出演する予定だ。

(関連:aiko「冷凍便」譜割1・2はこちら

 そんなaikoの音楽をどのように語るか。歌詞に共感を覚えたり、あるいはその表現の鋭さに魅力を覚える人もいれば、メロディやハーモニーの観点から高く評価する人もいる。ここでは試みに、aikoの近作をふりかえりつつそのリズム感覚について考えてみたい。ブルーノートを含むピッチの感覚や表現の鋭さからも伺えるaikoのシンガーとしての地力が、歌唱におけるリズムの処理にもあらわれている。

 aikoの楽曲は言葉数が多く、いきおい語りのようなリズムが多用される傾向がある。バラードなど、その限りでない楽曲ももちろんあるにせよ、16ビートに一音ずつ詰め込むスピーディな譜割りにひとつの「らしさ」を覚える人も多いのでは。かつ、同じ音高を細かく反復したり、あるいは狭いインターバルで上下することも多い。初期のヒット曲であり紅白での歌唱も発表された「花火」のサビ、〈夏の星座にぶらさがって〉のくだりあたりがわかりやすい。それでいて、日本語のイントネーションに逆らうとか、メロディが単語を不自然に区切ったりまたいだりすることは少ない。ハーモニーの点から特異さを指摘されることの多いaikoだが、日本語の語りのフロウとメロディは不思議と喧嘩している印象はない。むしろ、それこそがメロディやハーモニーのユニークさを裏打ちしていると言ったほうがいいかもしれない。

 広く知られているように、あるいは本人もしばしば言及するように、aikoは具体的なメロディよりも先に歌詞を書く。いわゆる詞先の作家だ。この点が前述のような譜割りの特徴につながっていると思われる。2014年の11作目となるアルバム『泡のような愛だった』リリース時のインタビューでは、同作”以前”の作詞のプロセスをこのように説明している。

「曲を作っていくときって、歌詞を書いている段階で頭の中でなんとなく譜割りというかリズムみたいなものができるんです。それを頭の中に思い浮かべながら歌詞を書くと、自然とAメロ、Bメロ、サビっていう感じで歌詞ができていく…」(参照:https://natalie.mu/music/pp/aiko06)

 対して『泡のような愛だった』では譜割りを考慮せずに言葉を書き留めるアプローチに転換したという。また別のインタビューでは、これを一種の原点回帰のようにも語っている。

「ずっと曲作りを続けてきた中で、例えばこういう言葉を選べば短く表現することができるなとか、そういうことを考えがちになっていたところもあったんですけど。

 (中略)デビュー当時はほんとに言葉数の多い曲ばかり作っていたから、当時のスタッフに“もうちょっと言葉が少ない曲を作ってみたらどう?”って言われたことがあって。そこからそういうことを意識するようになって、続けていくうちにそれがひとつのかたちになっていたんだと思います。でも、そういうルールみたいなものを崩して、また違った表現をするにはどうしたらいいのかなっていうのは常に考えていたんです。それが今回はちゃんとかたちになったのかなって思いますね」(参照:https://okmusic.jp/news/179732)

 これは『泡のような愛だった』の冒頭を飾る一曲であり、実質的なリード曲でもある「明日の歌」に如実にあらわれている。Bメロではほぼ2小節に渡って同じ音高を16分音符で反復する。たとえば〈あなたの唇触ってみたいけど 笑ってそしらぬ顔して見ていた〉のうち、太字部分は同じ音高。音符にして27個ぶん。これは結構なインパクトがある。サビ頭も〈明日が来ないなんて 思った事が無かった〉の太字部分はそれぞれ同じ音高の反復、という具合。このたたみかけっぷりはかなり印象に残る。次作『May Dream』(2016年)収録の「冷凍便」も歌詞の分量がとても多く、音の詰め具合も近い。ここでも同じ音高の反復が登場する(Bメロ冒頭、これも2小節に渡る)。

 が、ここで耳を傾けるべきは、反復の量よりもそこに隠れた質のほうだろう。「冷凍便」の該当箇所は16分のなかにところどころ8分が混じって、シンコペーションがところどころに生じる。たとえば〈あなたが宅急便で送った凍ったままの甘いハートは〉のうち、〈凍ったまま〉の箇所は前の小節に16分音符ひとつぶん食い込んで表と裏が反転している(譜例1)。けれどもここは(促音の処理の仕方によるが)シンコペーションを起こさずに16分音符を整然と並べても辻褄が合う(譜例2)。マス目を埋めるように音を並べるのではなく、「こおっ」を口語的なスピードで8分音符に詰め込むことでちょっとした破調が生じているわけだ。

 膨大なディスコグラフィーのうちの一曲のごく些細なディテールとはいえ、この部分には、aikoの身体的なリズム感覚があらわれているように思う。aikoの楽曲を聴き返すと、16ビートを身体化したうえで、溜めたり先走ったりすることで生まれる躍動感や、さりげなく三連符へとリズムを溶かす緩急の見事さに聞き惚れてしまう。列挙するときりがないが、「キラキラ」のAメロからBメロのメロディ上のアクセントの置き方も味わい深い(延々と聴いてしまっている)。

 楽器の編成(バンド的なリズム隊に加えてピアノ、ストリングス、アコギ等々が満載)や構成(A-B-サビ……)といったJ-POPのある種の典型を守るaikoの作品がこれほど洒脱に感じられるのは、ハーモニー云々もさることながら、このリズム感覚にもよるのかもしれない。

 以上のように、aikoの唯一無二のキャラクターとその人気の源泉は、リズムにも求められるはずだ。(imdkm)

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