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朝岡聡 オペラが呼んでいる!

ソプラノの逸材、ペーザロでデビュー

毎月23日

第19回

20/8/23(日)

昨年のペーザロで取材時にジュリアナと2ショット写真。スター街道歩む彼女です。

今年のロッシーニ・フェスティバル

毎年8月は夏の音楽祭やオペラ祭でヨーロッパに出かけていただけに、ずっと自宅にいるのが落ち着かない。とりわけペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバル(ROF)には17年連続で通っていただけに、訪問できない今年の公演はどうなのか気になっていた。

規模縮小で開催すると聞いていたが、8月8日の初日の様子をさっそくストリーミングで観た。演目はロッシーニのオペラ・デビュー作である『結婚手形』だ。1幕の喜劇で登場する歌手は6人、合唱は無し、上演時間も90分程とあって、1年前から決まっていたプログラムではあるけれど、コロナ禍の中での開催には最適の規模だった。

カーテンコールも手をつながず、肘タッチの新様式!?

会場のロッシーニ劇場は「コロナ対策」万全の仕様。オーケストラはピットではなく、平土間席にソーシャルディスタンススタンスをしっかり保って展開し、観客はパルコ(ボックス席)のみ。しかも通常4人が定員のパルコも2人限定のようだ。

今夏ロッシーニ劇場では平土間にオーケストラが展開。客席はパルコのみです。

逸材ジュリアナ・ジャンファルドーニ

この公演、ベルカント・テノールとして活躍中のロシア人ドミトリー・コルチャクが指揮することでも注目されていた。だがキャスト表を見た私がアッ!と声をあげたのは、コルチャクよりもプリマドンナの名前だ。そのソプラノはジュリアナ・ジャンファルドーニ。27歳の若きヒロインは昨年のROFの若者公演『ランスへの旅』のコリンナ役で絶賛を浴びていた。その歌唱と存在感は群を抜いていて、まさに神の声と言うべき品格と美しさを持っている。長くペーザロ通いしていた私も、これほどの華も実もある若手は始めてだった。

この歌手を覚えてくださいね!ジュリアナ・ジャンファルドーニです。

昨年の終演後にさっそく取材を申し込みインタビューした。彼女の実家はオペラ祭のある街のレストランで、中学生の頃、ある日店に来たオペラ歌手に招待されてオペラを観に行き、オペラに一目惚れしたという。そして高校から音楽を勉強しボローニャの音楽院へ。好きになったオペラ一直線の青春だ。

去年のROFアカデミアではフローレスのマスタークラスを受講した。だが生徒の数が多いので、自分の割り当て時間はわずかに15分!。自分への指導時間もさることながら、彼女はフローレスが他の受講生にどんな指示を与えて、それによって歌がどのように変化するかに注目したと言う。他人の歌い方が先生の指示でどう変わるかを目の当たりにすることで、より深く納得できた…とは、なんと賢い歌手なのか、と感心したのを覚えている。

「来年は本公演でヒロインを歌っているんじゃないの?」と水を向けたが、その時は「それは私が決められる事ではないですから」と笑顔で答えていた。そして実際に昨年末に発表された『結婚手形』キャストに彼女の名前は無く、別のソプラノが載っていた。

ところがである。

コロナ禍に見舞われ、開催も危ぶまれた今夏のROFは、規模縮小となりオペラ公演の数も減って本公演も『結婚手形』だけになった。おそらく当初予定の歌手の出演が困難になったと思われるが、ジュリアナが主役に抜擢されたのだ!災い転じてなんとやら、とはこの事か…。

ロッシーニ『結婚手形』で熱唱中のジュリアナ。歌も姿も華がある!

若きスター誕生!

彼女の歌は響きに芯がしっかりあって、確実なテクニックがあって、言葉と音楽で様々なニュアンスが魂に美しく届く声。一度でも生で体感したら忘れられない至福の声。オペラ歌手としてのキャリアはスタートしたばかりだが、世界中のベルカント歌手の登竜門ともされるROFのアカデミアに学び、次の年に本公演主役で舞台に出演とはスター街道のど真ん中の歩みそのものだろう。新たなスターが生まれ育つときには、必ず周囲からもフォローウィンドが吹いて、それが本人の上昇気流となるもの。オペラ好きの楽しみは、そんな若きスターを見つけて一緒に応援していくところにもある。

ペーザロには行けなかった夏ではあるが、その地で輝くデビューを飾った逸材ソプラノの姿と声に改めて魅せられ、感激した次第。オペラにとって困難な状況の日々が続く中、個人的にはほんとうに嬉しい公演だった。こんな日々でもオペラは生きている!

プロフィール

朝岡聡

フリーアナウンサー、コンサートソムリエ。テレビ朝日時代は「ニュースステーション」やスポーツ中継を担当。フリーになってからはTV・ラジオ・CMに加え、クラシックやオペラのコンサートの企画・司会にもフィールドを広げて活動中。特にバロックからベルカントのオペラフリーク。著書に「いくぞ!オペラな街」(小学館)、「恋とはどんなものかしら~歌劇的恋愛のカタチ~」(東京新聞)など。日本ロッシーニ協会副会長。

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