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片桐仁の アートっかかり!

上野の森美術館『フェルメール展』 フェルメールの“呪い”に迫る!?

毎月連載

第4回

17世紀オランダ絵画の巨匠、ヨハネス・フェルメール。寡作の画家として知られ、世界に現存する作品はわずか35点ほどと言われる中、上野の森美術館で開催中の『フェルメール展』では日本で行われた展覧会のなかでは最多の9点が来日します。上野の森美術館学芸員、岡里さんの案内のもと、片桐仁さんがフェルメールの魅力に迫ります!

17世紀、黄金時代のオランダ絵画

手前:フランス・ハルス《ルカス・デ・クレルク(1593年頃-1652年)の肖像》1635年頃 アムステルダム国立美術館
ヤン・デ・ブライ《ハールレム聖ルカ組合の理事たち》1675年 アムステルダム国立美術館

岡里 今回の展覧会はフェルメールだけではなく、17世紀オランダ絵画を「肖像画」「神話画・宗教画」「風景画」「静物画」「風俗画」のジャンルごとに紹介してから、最後にフェルメールを展示しています。当時のオランダ絵画全体を見渡し、その中でのフェルメールの特徴を浮かび上がらせようとする展覧会です。

片桐 当時のオランダは「ネーデルランド」と呼ばれていた頃ですよね?

岡里 そうです。現在のオランダやベルギーはネーデルランドと呼ばれ、スペイン王国の支配下に置かれていましたが、16世紀後半から独立戦争が起こり、フェルメールが生まれる少し前にオランダは実質的に独立を果たします。フェルメールが生きた時代は貿易や産業が発展して世界的にもオランダの影響力が最も強大となり、黄金時代と呼ばれる時代に当たります。

片桐 第1章は「肖像画」が並んでいますが、王侯貴族だけじゃなくて市民階級も描かれているんですね。

岡里 貴族に代わって台頭してきた有力な商人や知識人などの肖像画もたくさん描かれました。聖ルカ組合というのは画家の組合です。当時は医者や画家といった職業ごとに組合があり、組合員をまとめて描く集団肖像画が描かれたんです。

片桐 当時の画家の人たちは同じ格好で同じ髪型をしているんですね! 長髪でヒゲを生やしているからか、みんな同じ顔に見えてきますが・・・。この中の誰かがこれを描いたということですか?

岡里 左から2番目で画板を持っている人物が作者です。彼は次章の《ユーディトとホロフェルネス》の作者でもあります。

片桐 微妙な位置に自分を描いていますね。この太った人が組合長でしょうか? 一番堂々としていて、威厳があるように描かれていますね。その隣の人は頬杖ついてボンヤリしちゃってますけど・・・。一人より集団肖像画の方が表情も動きも生き生きしていて面白いですね。

絵画ジャンルの最高峰に位置した宗教画

ヘンドリック・テル・ブリュッヘン《東方三博士(マギ)の礼拝》1619年 アムステルダム国立美術館

岡里 第2章では「神話画・宗教画」を紹介しています。このジャンルは絵画のヒエラルキーとしてトップに位置しますが、オランダは独立を機にプロテスタント国家となり、偶像や聖人を崇拝しないプロテスタントの教会からは宗教画の発注が減少してしまいます。それも要因となり、宗教画以外の風俗画や風景画、静物画が多く描かれていくことになります。

片桐 この絵の赤ちゃん、超気持ち悪くないですか!? 首のところに皮がブヨっと寄っていて、後頭部もすんごい出っ張っていて・・・。これキリストですよね? これじゃあ業界は怒るんじゃないですか? 「こんなの神の子じゃない!」って(笑)。

岡里 これを見て教会の人たちはどう思ったのか・・・。

片桐 あまり有難いとは思わないですよねえ。

岡里 他の画家だったら幼子イエスを理想化して描くんですけど、この画家はちょっと変わっていて、全く美化しないどころか、醜さをそのまま描くという特徴がありますね。

画家たちが競い合った細密描写

ヤン・ウェーニクス《野ウサギと狩りの獲物》1697年 アムステルダム国立美術館 Loan from the Rijksmuseum 

岡里 続く3章は「風景画」、そして4章では「静物画」を観ていきます。オランダは海洋国家なので海の絵がたくさん描かれました。特にニシン漁は当時の重要な産業だったので、ニシン船がよく描かれているんですよね。

片桐 こうした絵は発注されて描いているんですか?

岡里 発注される場合もありますが、描かれたものを購入している場合もあります。裕福な中産階級が増加するにつれて絵画の需要が高まり、画家が描いたものを購入するという美術市場が活性化してきました。

片桐 現在と変わらない絵画販売のシステムになったんですね。

岡里 オランダはいち早く現在のような販売システムに移行しました。そうなると、画家たちは大量に絵を制作しなければならないので、分業化して自分の得意分野に専念するようになるんです。海の絵、教会内部の絵、動物の絵など、それぞれのジャンルの絵画で腕を磨き、その技を競い合うわけです。

片桐 なるほど。このウサギの毛並みなんかフワフワ感がものすごいですけど、動物の毛皮ばっかり描いていれば、その描き方は熟達しますもんね。

岡里 一つのジャンルに絞っていけば質を高められるので、画家としては有利になりますよね。

市民に愛された風俗画

ハブリエル・メツー 上:《手紙を書く男》下:《手紙を読む女》1664-1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー  Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4536

岡里 第5章では人々の日々の生活を描いた「風俗画」を紹介します。メツーは当時のオランダ風俗画を代表する画家でとても人気がありました。

片桐 手紙を送る人と送られた人・・・。フェルメールに近づいてきましたね! 壁にかけられた絵がカーテンで隠されていたり、手前に靴が片方落ちていたり。一枚の絵にいろんなストーリーを感じます。

岡里 当時の風俗画の多くは、格言や教訓を匂わせたり、隠喩として小物を配置したりしているんです。この作品では、壁にかけられた絵の荒れている海は、順調な恋愛でないことを示していたり、片方の靴は手紙に気を取られて乱雑になっていることを表しているんじゃないかと考えられます。

片桐 手紙や地球儀といった小道具はフェルメール作品にも共通するものですよね。

岡里 もう一つ注目してほしいのは、この女性の着ている服。フェルメールの絵にも同じ服を着た女性が出てくるんですよ。

いよいよフェルメール・ルームへ!

ヨハネス・フェルメール《マルタとマリアの家のキリスト》1654-1655年 スコットランド・ナショナル・ギャラリー

岡里 ここまでさまざまなジャンルのオランダ絵画を観てきましたが、一番格が高いのは神話画・宗教画で、画家を目指す人はまずこれらの絵を描こうとします。それはフェルメールも同じで、この《マルタとマリアの家のキリスト》はフェルメールが20代で描いた作品です。

片桐 こんな大きな宗教画も描いていたんですね。まだフェルメールっぽくないというか、筆跡も残っているし、秀作なのかなっていうような中途半端さがありますね。

岡里 そうなんですよ。描き方が少し荒いというか、奥の空間もあまり緻密に描いていないんです。

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