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『なつぞら』オープニングに22歳の若手アニメーターが抜擢された理由 「ヒロインが描いたように」

リアルサウンド

19/8/15(木) 6:00

 毎週月曜日から土曜日まで放送されているNHKの連続テレビ小説『なつぞら』。日本アニメーションの草創期が描かれ、タイトルバックを全編アニメーションで製作された。劇中にも、主人公なつ達が製作するアニメーションもしっかりと作りこまれ、毎日話題を呼んでいる。

参考:染谷将太が面白い! 『なつぞら』で“場”をつくる巧みな演技

 本作に、アニメーション監修として参加している、かつてスタジオジブリで動画検査を担当し、現在スタジオササユリの代表である舘野仁美と、タイトルバックのキャラクターデザインや原画、監督を務めた、若手アニメーターの刈谷仁美にインタビューを行い、普段の仕事の様子や、本作に掛ける情熱などを語ってもらった。

ーーアニメーション監修というお仕事は具体的に何をしていらっしゃるんですか?

舘野仁美(以下、舘野):私の仕事としては、まずタイトルバックを製作し、劇中のアニメーションを作ることを担当しております。さらに、劇中の小道具作りや、俳優の方々へのアニメーターの所作の指導もしています。みなさん経験がない方ばかりなので、基本的な所作や道具の扱い方などを一通りお教えしてます。演出家の要望があれば、現場で撮影の様子を確認することもあります。

ーー役者さんのアニメーターぶりはいかがですか?

舘野:みなさん真剣にやってくださっています。人によってはどうしても練習の時間が取れなくてぎこちなかったりする方もいらっしゃるんですけど、何度か撮影重ねると上手になっていて、本人が影で努力なさっているんだなと思います。例えば、猿渡さん(新名基浩)は、なつさんにテレビ漫画の描き方を「これでやればいいんだよ、たくさん描く必要ないんだよ」と教えるシーン(第17週99話)を練習していました。さりげなく描くシーンで、天才アニメーターという役ですが、本人はそこまで器用じゃなかったみたいで、私もびっくりするくらいたくさん練習してました。本番は私も立ち会っていたのですが、とても上手くできていましたよ。

ーー広瀬さんの所作はいかがです?

舘野:広瀬さんは自分でどんどんやってしまうタイプで、教えると自分なりに工夫してやろうとする人です。方法を教えれば自分で会得しようと努力される姿勢があるんだと思います。鉛筆削りも妙に集中して楽しそうにやっていらして、集中力がすごい方だなと。

ーーアニメーターの女の子が主役のドラマに携わるというのはどんな気持ちですか?

舘野:もう二度とないだろうと思っています。アニメーターは地味な作業ばかりで基本的にずっと机に座っています。毎日そんな面白いことは起きないのに、ドラマにするのは難しいんじゃないかと。あと、上手い原画と上手くない原画の差を表現するのが、すごく難しいんです。私たちが見て上手じゃない絵でも、普通の人から見たらとても素敵な絵なんですよ。そのくらい、高みを見るとキリがないですね。

刈谷仁美(以下、刈谷):今度の朝ドラがアニメーターの話だというのは聞いておりましたが、まさか自分が関わるとは思っていなかったので、まずは驚きました。ドラマ内のアニメを作る機会は他にもありますが、アニメーターを主人公としたドラマに関わるのは早々ないと思い、これも何かの縁だと。その時代の絵柄にどう寄り添うか、折り合いをつけるのに苦労をしました。空いた時間に、当時のアニメーターの方々の画集を真似してみたりと、なるべくたくさん練習しましたね。

ーー時代に合わせるように工夫されたんですね。

刈谷:昔の絵の独特の品の良さと言いますか、柔らかくてシンプルで、でも立体感がすごくあって。当時活躍されていたアニメーターの方達の画集はとても洗練されていて、たくさん絵を描いてきた中で見つけ出されたものなんだろうと。私もまだ全然掴めてはいませんが、表情の魅力や、立体感を出すというのは意識しました。

ーー舘野さんが刈谷さんを指名した理由は?

舘野:乱暴な言い方ですが、ほとんど勘です。台本の準備稿をいただいて、ふと刈谷さんが浮かんだんです。他にも若くて同じぐらいの年頃の人は何人かは知っているんですけど、その中で彼女が浮かんできたのは確かです。彼女自身が、目がキラキラしていてパッと明るいんですが、やはり本人が絵に出るんです。本人がステキだったら絵もステキで、間違いないだろうと。彼女は本当にまっすぐでくじけずにやるし、そういうのが良い方向に出たなと思います。

ーーお話を聞いているとまさになつのような方です。

舘野:広瀬さんに対抗しようとかではなくて、絵を描く方でもそういうヒロインに相当する人がでてきたらよりドラマが素敵になるかなと思いました。もちろん男の人が書いてもいいと思いますが、あたかもヒロインが描いたようにできたらなと。

ーーアニメーターとしてなつとご自身で共感するところはありますか?

刈谷:家に帰ってゴミ箱から拾ってきた先輩方のうまい絵を模写しているところですね。私はゴミ箱から絵を持って帰ることはなかったんですが、夜帰ってから同じ会社の人の画集を元に絵の練習をすることがありました。

ーーアニメーターが主役のドラマというのはどうお考えですか?

刈谷:『なつぞら』を機に、アニメーターに興味を持ってくれるのはすごく嬉しいんですけど、今のアニメ業界は新人が食べていけないとか、問題が色濃くあります。私はまだまだそういう力を持っていないんですけど、そういった待遇は改善していかなければいけないなと思っています。

舘野:待遇は、昔から良くないです。私もそこそこ名の知れている会社に入っても、最初は家賃を払うと生活費が出せないくらいギリギリでした。残業代も限りなく出るわけじゃないし、手を早くしてたくさん描くしかなかった。人によっては描き飛ばして、たくさん描いて出世する人もいましたが、やはり絵描きは綺麗に描きたい人が多いので、みんな苦しんでいたと思います。今活躍している有名な方も、若い時は極貧だった時期を乗り越えて残っている方達で。待遇改善は永遠のテーマですが、アニメーターに憧れる人がたくさん出てきたら、嫌が応にも業界がそれを考えるきっかけになってくれるんじゃないかなと一番願っていることです。

ーー初回からアニメーションがふんだんに挿入されて驚きました。アニメーション業界で働く方からは本作はどのように受け止められているんでしょうか。

舘野:驚きでしょうね。初回に関しては、私も驚きました。ドラマなのに、タイトルバック、戦争のシーン、空に飛び上がるという3種類のアニメーションを差し込んでます。同業者ももっと反発されるかなと思ったんですけど、皆さん好意的に受け止めてくれた気がします。そっと遠巻きに近づいてきて、「あれはどうなっているの?」と探るように聞かれるんです。ちょっと聞きづらそうに(笑)。

刈谷:同世代の人たちは、仲間ではあるんですけど、みんなライバルでもあるので、そこはニコニコしながら寄ってくる感じではなくて、ひっそりと裏で見てるという感じですね。

舘野:手放しではなかなか褒めてもらえないですね。ただ、「アニメーターを陽の当たるところに持ってきてくれてありがとう」と言ってくださった方はいます。

ーー『なつぞら』のタイトルの題字はカリグラフィーという手法が使われていますね。

舘野:カリグラフィーは、そんなに詳しいわけではないんですけど、以前から素敵だと思っていて、昔のディズニー作品も『ピノキオ』や『シンデレラ』『白雪姫』など全部カリグラフィーなんです。『白雪姫』だと最初に絵本が出てきて扉が開くと、クジャクが字に絡まっているんです。今回タイトルバックの字を描くときに「これを参考にさせもらおう」と考えました。普段から色んなものに興味を持っておくと、点と点が繋がって素敵なものになる時があるので、刈谷に本を渡して、「こんな風に描いて」と。

刈谷:最初描いたものが、普通のフォントにちょっと装飾したようなもので、私自身もしっくりきていなかったんです。それを一旦舘野さんに見せた時に、「『なつぞら』だけのフォントにしてほしい」と。

舘野:のちに「これは刈谷さんのフォントだ」と言われるようなものを目指してねと言いました。

刈谷:私もディズニーの要素を吸収したりとか試行錯誤した末に今の『なつぞら』のフォントができたんですけど、タイトルバックで動かすときに、CGではなく作画で字を動かすような演出になるんだろうなと想像はしつつ、あまり派手にしすぎずに素朴にもなりすぎないよう意識しました。

ーー作中でなつや坂場(中川大志)が、「アニメーションにしかできない表現」に悩むシーンがありました。お二人にとって「アニメーションにしかできない表現」とはなんでしょう?

舘野:難しいですね。やはりディズニーはほぼ全てやり尽くしていると思うんです。特に昔の画力もあって教養もあった人が描いていた作品、『白雪姫』や『シンデレラ』などは、中に女優や俳優が入っているような動きになっています。実在しないはずの名優の演技をアニメーションなら描けるんです。頭に思い描いた人間を動かすことが、「アニメーションにしかできない表現」なのではないかと思います。

刈谷:私もそこは研究中でして、答えが全然見つけられていないんです。それはこれからも考え続けると思いますが、頭の中で描いているものをそのまま表現できるということなのかな。

舘野:なつさんも言ってたけど、「想像力に手が追いつかない」って。考えていること全て描けているかというとそうでもない。それはどんなに上手になった人でもずっと悩んでいると思います。いわゆる神絵師と称される方でも、みんなには褒められても、もっともっと素敵なもの描けるはずなんだけどなって。

刈谷:この間『なつぞら』でやっていた残像の表現とかまさにそうですよね。手を振るにしても1枚の絵の中に指が何本もあったり、絵だからこその面白さだと思いますし。

舘野:タイトルバックで、クマがぶつかったり、なっちゃんがこけても、その後怪我していなかったり、あれも素敵な表現だよね。

刈谷:タイトルバックも実写だと撮れない映像なんじゃないかと思います。

舘野:みんなが心に描いたやってみたいなということを実現できるのもアニメーションならではですよね。

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