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アニメ『岸辺露伴は動かない』のホラー的な魅力 観る者を震え上がらせる多様なアプローチ

リアルサウンド

21/2/20(土) 12:00

 アニメ『岸辺露伴は動かない』が、2月18日よりNetflixにて全世界独占配信を開始した。

 本作はもともとOVA(オリジナルビデオアニメーションのこと。テレビ放送ではなく、主にソフト等の販売形式で制作されるアニメを指す)作品であり、能動的なファンでなければなかなか目にする機会は少なかったことだろう。高橋一生が主演した実写ドラマ版が好評を博したこともあり、今回のNetflix配信によって、より多くの新規ファンを生むのではないか。本稿では、同作の配信を記念し、改めて本作の概要や魅力をご紹介したい。

 『岸辺露伴は動かない』は、荒木飛呂彦氏による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのスピンオフ漫画のアニメ化となる。『ジョジョの奇妙な冒険』第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する漫画家・岸辺露伴が、取材などで訪れた先で遭遇した、にわかには信じがたい“奇妙な”出来事をつづった体験談だ。それぞれに独立したエピソードとなっており、これまでに漫画版が2冊・小説版が2冊発売されている(その他にも、番外編として『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『岸辺露伴 グッチへ行く』等がある)。流行りの言葉を借りれば、“ジョジョ・ユニバース”的なシリーズといえよう。

 ちなみにタイトルの「動かない」とは、このシリーズでは岸辺露伴が主人公ではなく、あくまで取材者であり傍観者である、という意味合いなのだそう。自ら動くのではなく、事件に巻き込まれて体験する――というような体裁なのだ。このあたりの設定やワーディングにも荒木氏の非凡なセンスを感じるが、そもそもの成り立ちも非常に面白い。

 『岸辺露伴は動かない』の第1作となる『懺悔室』が世に出たのは、1997年。『週刊少年ジャンプ』の編集部から「45ページ以内の短編。スピンオフ・外伝は絶対禁止」との依頼が荒木氏のもとに届き、最初はその条件で執筆を進めていたのだが「露伴先生が解説してくれた方が断然良い」という荒木氏の判断により、現在の形になったそうだ。ということは、本作はまさに奇縁によって生まれた作品。昨今、人気漫画のスピンオフ作品が多数制作されているが、それらとは異なる偶発的な産物といえる。

 ここで岸辺露伴について少し補足すると、好奇心旺盛で負けず嫌い、かつ偏屈な人気漫画家で、「ヘブンズ・ドアー」と呼ばれるスタンド(『ジョジョの奇妙な冒険』における特殊能力)の持ち主。相手の記憶を読み、指示を書き加えることができるという強力な能力を操り、創作活動に生かしている。その彼が、様々な怪異をスタンド能力で解決する・あるいは切り抜けるというストーリーが、この『岸辺露伴は動かない』の基本構造となる。

 これまでアニメ化された作品は、全部で4本。『懺悔室』『六壁坂』『富豪村』『ザ・ラン』となる。これ以外のエピソードも屈指のクオリティだが、本稿ではこの4本に絞り、紹介していきたい。

 まずは、それぞれの簡単なあらすじから。『懺悔室』は、イタリアを訪れた露伴が、立ち寄った教会の懺悔室で耳にした不思議な物語を読者に聞かせる、という流れになっている。貧しい青年が、作業中に浮浪者に「食べ物を恵んでほしい」と言われ、荷物を運ぶことを条件に承諾。しかし、作業中に浮浪者は死亡。彼から「『幸せの絶頂の時』お前を迎えに戻ってくる」と予言された青年は、その後幸運が重なり、億万長者となる。だが、幸せの絶頂を迎えた時に、浮浪者が思わぬ形で戻ってきて、彼に“死のゲーム”を強要するのだった。

 『六壁坂』は、ボーイフレンドを事故死させてしまった旧家の娘が、死体を隠そうとするが、いつまでも血が止まらない異常事態が発生し……という物語。その後、妖怪伝説の取材にその付近を訪れた露伴にも、恐怖が襲い掛かる。残酷描写含め、シリーズ屈指のおぞましいエピソードといえよう。

 実写化もされた『富豪村』は、「山奥にある不思議な別荘を買う」という編集者の泉京香についていった露伴が、その場で“マナー試験”を課せられるストーリー。観る者のマナー知識をも試すような、野心的な内容だ。

 そして『ザ・ラン』は、ここでしか観られない露伴の絶望の表情が収められた、アクション色強めのエピソード。モデルの橋本陽馬は、筋肉をつけることに取りつかれ、常軌を逸したサイコパスとなっていく。そして彼は、同じジムの常連客である露伴に、トレッドミルを使った勝負を挑む。余談だが、原作では言葉だけではあるものの、陽馬が参加した撮影現場の説明で「綾野剛と佐藤健」が登場する回でもある(『るろうに剣心』ないし『亜人』だろうか?)。

 今回挙げた4エピソードは、一言で言うならホラーの部類に入るだろう。人ならざる者の怖さ、人の怖さ、超常ホラーやサイコサスペンス味あふれるホラーなど、多様なアプローチで観る者を震え上がらせる。

 例えば、怨霊と化した浮浪者から復讐されるという『懺悔室』の筋書き自体はクラシカルなものだが、随所に荒木氏独自のカラーが見え隠れしている。まずは、「得体のしれない何か」が登場するということ。これは『六壁坂』『富豪村』を含む、他の『岸辺露伴は動かない』シリーズにも共通するものだが、「言葉では説明できない恐怖の存在」が「ただ、いる」という設定は、荒木作品の特徴といえる。

 『懺悔室』の中で、なぜ浮浪者が怨霊化したのか、そもそも本当に人間だったのか、浮浪者の姿をした“何か”だったのではないか?という説明は、一切なされない。『六壁坂』に出てくる妖怪も同様だ。だがその思い切りの良さこそが観る者をシビれ&あこがれさせ、ぐいぐいと引き込むと同時に、空恐ろしい気持ちにさせるのだ。

 そのテリトリーに入ったらば、強制的に巻き込まれてしまう恐ろしさ――因果関係も善悪もなく、ただただ「不運だった」と思うしかない絶望感は、『岸辺露伴は動かない』に脈打つ血流。『ザ・ラン』は人の怖さを究極的に突き詰めた物語だが、観進めていくと、他3作品と共通する「強いて言うなら妖怪や神の類」に近づいていく。いわば、我々人間が太刀打ちできない存在に出会ったとき、どうするのか(往々にして何もできない)というテーマ性が、感じられる。

 なお、アニメ版においては、黒い靄のような“何か”が立ち昇ってくるゾッとする演出や、シリーズの特徴である「特色」効果で、恐怖を底上げ。この「特色」には2パターンあり、画面の色がシーン単位で変わる「シーン特色」、カット単位で変わる「カット特色」が使い分けられている。しかも、よりダークな色彩設計が施されており、禍々しいオーラが観る者をむせ返らせることだろう。

 2つ目は、「ゲーム性」だ。『懺悔室』『富豪村』『ザ・ラン』は、それぞれにクリア条件が明示される。『懺悔室』は、空中に放り投げたポップコーンを口でキャッチできるか否か、『富豪村』は、次々に出されるマナー試験をパスできるか否か、『ザ・ラン』は、トレッドミルが時速25.0kmに到達した瞬間にリモコンを取り、緊急停止ボタンを押せるか否か。しかも、すべてに「命」がかかっているのが荒木氏らしい。

 これは『ジョジョの奇妙な冒険』で培ったテクニックと言えるだろうが、クリア条件が初めに周知されることによって、読者(視聴者)は一種の試合を観戦するように、見届ける準備ができる。ルールや勝利の条件を早めに理解させ、理解不能なものと戦わせるというつくりは、「謎かけに負けたら命を奪われる」スフィンクスのような、神話的な“におい”もはらんでいる。古来より、権力者も上位の存在も、ゲーム感覚で下々の者の運命を捻じ曲げるものだ。そうした風習というか悪しき伝統のようなものが、『岸辺露伴は動かない』でもシニカルな目線で描かれている。対して、『六壁坂』ではクリア条件は明示されないため、恐ろしさが余計に際立つ。他の作品に対するカウンター的なエピソードといえるだろう。

 3つ目は、「スライド能力」だ。ポップコーンキャッチなんてものは普段は“遊び”としてやるものだし、マナー試験はビジネスの場でのたしなみ。トレッドミル競走は力比べ。しかしそこに、「ミスったら命を奪われる」が加わったらどうだろう? シチュエーションをスライドさせることによって、遊びが遊びではなくなるというおぞましさ。私たちの身近にあるもの、あるいは気軽に扱っているものが、急に忌避したくなる対象へと変わる瞬間の戦慄を、荒木氏は冷酷に見せつけてくる。要は、日常と非日常(異界)の接点を、一つのエピソードの中に作っているのだ。

 これはまさにホラーの考え方で、たとえば「人形がいきなり動いたら怖い」とか「鏡の中に知らない人が映っていたら怖い」「シャワーを浴びている最中に、背後に何かがいたら怖い」など、私たちが日常生活を送る中でほんのりと感じている「If(もし)の恐怖」を、精神はそのまま、漫画で映えるような“動き”の形にアレンジしているように思える。ベースは日常だが、すぐそばに異界が広がっている、これが一番怖い。

 『懺悔室』では教会が、『六壁坂』では家が、『富豪村』では山が、『ザ・ラン』ではジムが、それぞれ異界への入り口になっている。どれも、私たちの日常に接続している場所だ。こうした細やかな仕掛けによって、最初は本シリーズ特有のテンションの高さも相まって奇抜に見えていたものが、「遠いフィクションの話」と思えなくなってくる。この部分は、『ジョジョの奇妙な冒険』と『岸辺露伴は動かない』の大きく異なる箇所かもしれない。リアリティを生み出す要素が、意識的に強められている。

 そして、アニメ版ではやはり露伴の声を務めた櫻井孝宏の存在が、非常に大きい。「オイオイオイオイ」や「いるじゃあないかッ!」といったような「ジョジョ語」は踏襲されているものの、窮地に陥った際の露伴の感情を櫻井がビビッドに表現しているため、感情の部分で視聴者の緊迫感を常にあおり続けるのだ。特に『ザ・ラン』では、トレッドミルを走り続ける露伴の息が切れるさま、そして「まずいまずいまずい!」などのセリフと共にあふれ出てくる死地への恐怖が、ありありと伝わってくる。キャラクターに“肉体”をもたらす存在といって差し支えない、名演を披露している。

 ちなみに、2020年末にNHK総合で放送された実写版『岸辺露伴は動かない』では、全3話すべてに、櫻井が声で参加している。こうしたファン心をくすぐるサプライズも、高評価を博した要因の一つだ。

 ここまで紹介してきたように、『岸辺露伴は動かない』は、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズとリンクしていながらも、独自の挑戦が多々見られる作品だ。何より、完全に「ホラー」でまとめたシリーズであることが、趣深い。

 ちなみにNetflixでは『ジョジョの奇妙な冒険』も全話配信しているため、シリーズ初見者が、本作から“本流”に入っていくこともできそうだ。世界的に人気の高い『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのさらなる可能性を証明した『岸辺露伴は動かない』が、190の国と地域でどう受け取られるのか、反応をぜひ探ってみたい。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■配信情報
アニメシリーズ『岸辺露伴は動かない』
Netflixにて全世界独占配信中
原作:荒木飛呂彦(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:加藤敏幸
キャラクターデザイン:石本峻一
アニメーション制作:david production
出演:櫻井孝宏ほか
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・岸辺露伴は動かない製作委員会
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・岸辺露伴は動かない「六壁坂」製作委員会
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険DU製作委員会

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