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『Slow Live ’20 Keep Distance』で再確認した“生音で交歓する美しさ” KIRINJI、ハンバート ハンバート出演の一夜をレポート

リアルサウンド

20/9/30(水) 12:00

 2020年9月12日、13日の2日間、日比谷野外大音楽堂にて『Slow Live ’20 Keep Distance』が行われた。例年、東京都大田区にある池上本門寺で開催されていた同イベントだが、新型コロナウイルスの影響もあり公演会場が変更されている。9月12日と13日の2日間は日比谷野外大音楽堂で、また9月24日から9月27日の4日間は東京国際フォーラムホールCで開催された(配信視聴券が現在販売中)。今回は、ハンバート ハンバートとKIRINJIの2グループが出演した9月12日の模様をレポートする。

 イベントタイトルの「Keep Distance」にもあるように、会場は1席ずつスペースを開けての着席となり、観客数は本来のキャパシティの半分。入場時の検温、アルコール消毒、公演中の発声を控えるなど入念に感染症対策が講じられた上での開催となった。大声で盛り上がる、といった段階にはまだ達していないものの、おそらくほとんど観客にとっては、半年以上体験できなかった待望のライブであり、会場へ詰めかけた人々の高揚感はその場にいるだけで伝わってくる。これまで、音楽ファンが当然のように受け止めてきた「コンサート会場で演奏を聴く、体感する」ことの価値を改めて感じたこの半年間であったように思う。

 最初に登場したのはハンバート ハンバート。歌とハーモニカを担当する佐野遊穂と、ギター、キーボード、フィドル(バイオリン)などの楽器を器用に使い分けつつ、ボーカルも披露する佐藤良成の2人編成だ。予定していた本年度春のツアー、音楽フェスなどの出演予定が軒並み中止(あるいは延期)となり、観客の前に出るのは久しぶりの彼らだが、そうしたブランクを感じさせることなく観客を楽しませてくれた。ライブは「おなじ話」「永遠の夕日」と、2人のボーカルのかけ合い、ハーモニーの美しさが楽しめる人気曲からスタート。大きな会場でも歌詞が聴き取りやすく、どの曲も一聴すれば覚えてしまうキャッチーなメロディが印象的だ。カバー曲であっても、ふたりのボーカルが重なった瞬間に、完全にハンバート ハンバートの音楽になってしまう。公演中はあまり大きな声が出せない観客だが、たくさんの拍手で演奏に応える。

 また、曲の合間に披露される、佐野の日常生活にまつわるのんびりとした体験談は、佐藤のリアクションの絶妙さも合まって楽しい。「定食屋さんにうっかり帽子を忘れた話」や「家具を買ったが、なかなか請求書が届かない話」など、気の向くまま自由に語り続ける佐野と、独特の距離感で合いの手を入れる佐藤とのコンビネーションに、観客席には笑いが絶えなかった。いま私は会場でライブを見ているのだな、と感じる楽しいMCだ。佐藤がキーボードを演奏した「虎」、歌詞の味わいがすばらしい「ぼくのお日さま」などの楽曲が続き、観客もさらにステージから目が離せない。ライブ後半、佐藤が楽器をフィドルに持ち替えた「ホンマツテントウ虫」では、2人で息の合ったアイリッシュダンスを披露するくだりで観客から笑いと共に拍手が起こった。配信ではなかなか伝わりにくい身体を使った直接的なパフォーマンスに驚くとともに、旺盛なサービス精神にこちらも嬉しくなるばかりだ。最後はアップテンポの楽曲「メッセージ」で会場を沸かせ、演奏は終了となった。

 前半終了後、休憩をはさんでKIRINJIの登場。2019年11月にアルバム『cherish』をリリースし、2020年2月末から始まるツアーを控えていたKIRINJIも、当初の予定が全てキャンセルになる影響を受けた。また1月末には、バンド形態での活動を本年いっぱいで終了し、以後「堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団」として活動するとの発表もあった。2020年はバンドとしてのKIRINJIが見納めとなる年でもあったため、ツアーの中止はなおさらに残念な出来事だ。観客を前にした演奏は、2019年8月末の『Slow Live ’19』以来1年ぶりとなる彼ら。堀込高樹(Vo/Gt/Key)、弓木英梨乃(Gt)、千ヶ崎学(Ba)、楠均(Dr)のバンドメンバーと、矢野博康(Perc)、sugarbeans(Key)、MELRAW(Sax/Flu)のサポートメンバーによる計7名で行われた。1曲目「shed blood!」は、MELRAWのサックスが大胆にフィーチャーされた楽曲。日比谷野音の開放的な雰囲気のなかで聴く朗々としたサックスソロはとても心地よく、会場で見られる生演奏はやはり格別だと胸が躍る。身体にずしんと響く音を感じながら、全くコンサートができなくなったこの半年間の大きな混乱に想いを馳せてしまった。あいにくの小雨が降る中、バンドの演奏に手拍子で応える数多くの観客も、きっと同じ気持ちだったのではないだろうか。ライブは順調に進んでいき、「killer tune kills me」「After the Party」など、弓木がボーカルを担当する楽曲が続けて演奏される。彼女の魅力的なボーカルに会場全体が引き込まれたライブ中盤だった。

 この日、観客がもっとも楽しみにしていたのは、やはり最新アルバム『cherish』からの楽曲だろう。「『あの娘は誰?』とか言わせたい」「Almond Eyes」とライブ向きのリズミカルな曲が披露される。「Almond Eyes」のラップパートはサックスソロに置き換えられ、MELRAWが楽曲に新しいイメージをつけ加える(個人的には、堀込が鎮座DOPENESSのラップパートに挑戦する様子を見てみたかったが)。「Almond Eyes」の後に演奏された「パレードはなぜ急ぐ」でのフルートを含め、MELRAWの管楽器を生かした構成が光っていた。また最後には、ライブでの演奏がもっとも待ち望まれていた「Pizza VS Hamburger」もプレイされ、アルバム『cherish』のダンサンブルな楽曲の魅力が詰まったライブを堪能することができたのではないだろうか。アンコールで「まぶしがりや」「silver girl」の2曲を演奏して終了。心なしか、ステージ上の演者もまた、客前でライブができる喜びを感じながら演奏をしていたように見えた。

 今後、コロナ以前のように気兼ねなく演奏できる状況がいつ復活するかは予測がつかないが、ライブに対する考え方には大きな変化が生まれたのではないだろうか。1曲も聴き逃すまいという表情で、真剣に演奏へ耳を傾ける観客の姿を見ながらそう感じた。会場に赴いて生で演奏を体験するライブの価値は、今後より高まっていくように思う。音楽を体験する現場、人々のコミュニケーションが生まれる場所としてのライブが完全復活してほしいと願わずにはいられない『Slow Live ’20』だった。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

■配信概要
『Slow LIVE’20 in 日比谷野外大音楽堂 STREAMING』
【出演】
ORIGINAL LOVE(Acoustic Trio)/ KIRINJI / LOVE PSYCHEDELICO(Premium Acoustic Set)/ ハンバートハンバート/ Rei / 君島大空 / Mime
【配信期間】
2020年10月31日(土)10:00~11月8日(日)23:59

『Slow LIVE’20 in Forum STREAMING』
【出演】
Char / 大橋トリオ and THE CHARM PARK / 堀込泰行 / Salyu / 安藤裕子 / GLIM SPANKY(Acoustic Ver.)/ 藤原さくら / TENDRE / Kitri / yonawo / showmore / PEARL CENTER / 近藤利樹
【配信期間】
2020年11月21日(土)10:00~11月29日(日)23:59

【料金】※両公演それぞれ視聴券を販売 / 税込
◎早割料金
視聴券(オリジナル限定Tシャツ付き)¥6,000 ※送料別
視聴券(一般)¥2,500
販売期間:2020年9月24日(木)17:00~9月28日(月)23:59

◎前売料金
視聴券(オリジナル限定Tシャツ付き)¥6,500 ※送料別
視聴券(一般)¥3,000
販売期間:2020年9月29日(火)0:00~配信開始日の9:59

◎当日料金
視聴券(オリジナル限定Tシャツ付き)¥7,000 ※送料別
視聴券(一般)¥3,500
販売期間:配信開始日~配信終了日の20:00

【視聴券販売】
◎Zaiko(ローソンチケット)
in 日比谷野外大音楽堂 STREAMING
in Forum STREAMING
◎チケットぴあ
in 日比谷野外大音楽堂 STREAMING
in Forum STREAMING

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