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安倍寧のBRAVO!ショービジネス

ブルーレイ『ALFA MUSIC LIVE』が浮き彫りにする作曲家、プロデューサー村井邦彦の足跡

毎月連載

第36回

21/5/20(木)

『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』(完全生産限定盤)14300円 ソニー・ミュージックダイレクト

ポピュラー音楽の特色のひとつは、そこに明確に日付が刻印されていることではないか。別の云い方をすれば、音楽の背景にその音楽が生まれた時代的背景が色濃く漂っているということである。俗な成句では「歌は世に連れ」というのが、長年まかり通っている。

『ALFA MUSIC LIVE / ALFA 50 th Anniversary Edition』(ソニー・ミュージックダイレクト)のブルーレイを見て改めてそう感じたばかりか、その事実をはっきり確認できた。

ALFAとは作曲家村井邦彦がリーダーシップを発揮し展開した音楽活動の総称だと捉えていただきたい。彼はこのタイトルのもとに創作、ビジネス両面で大活躍を繰り広げた。ビジネス面では音楽出版社、原盤制作会社、レコード会社を創設・運営した。アメリカに現地法人のレコード会社も作った。1960~80年代のアルファの軌跡は、日本経済の右肩上がりと軌を一にするものであった。大衆音楽の動向として捉えるなら、昭和歌謡からJポップへの舵とりという点で大きな役割を果たしたといえる。

村井邦彦氏

この映像は、2015年9月27~28日、Bunkamura オーチャードホールでおこなわれた村井邦彦古希を祝うコンサート「LA MEETS TOKYO / Kunihiko Murai 50 years in Music」の2日目を収録したものである。個人、グループ併せて27日は30、28日は31の多彩な顔ぶれがステージを飾った。もちろん、なんらかのかたちで音楽を通じ村井邦彦と縁のある人たちばかりである。村井の曲を歌った人もいれば村井がスカウトした人、プロデュースした人もいる。

当日の出演者のひとりで脚本及び総合演出を担った松任谷正隆が、打ち合わせの段階から実感した村井と出演者たちとの交流ぶりについて、ライナーノーツで次のように書いている。

「ミュージシャン達から発せられる言葉から、村井さんとの関係が垣間見えるような気がした。当時はワンマンで、人の言うことに耳を貸さないようにも思えた村井さんだが、音楽を通しての愛情の注ぎ方は並々ならぬものがあったのだ、と感じた。そして、それがアルファサウンドを生み出したのだ、と思った」

そして次のようにも──。

「僕にとってアルファサウンドは実家のようなところがある。兄弟は全員、全く違う方向を向いていながら、どこかに共通点がある。もはや、実家はなくなってみんな散り散りバラバラになってしまったけれど、この夜、出演者達はそこがどういうところだったのか、きっと分かったはずだ」

世の中に“実家”を持っていると口にできる音楽家がどれだけの人数、存在するだろうか。松任谷のこの文章からは“実家”を持ち得た例外的な音楽家の幸福感がじんわりと漂ってくる。

なぜアルファに集まった音楽家たちはそこを“実家”と感じたのか。私はこう考える。自分たちの感じたことをそのまま音楽として表現できる、すなわち自分たちの音楽を自由に作ることのできる場所と信じたからではなかったか、と。

当日、オーチャードの舞台に上ったミュージシャンすべての名前を書き連ねたいところだが、スペースの関係上そうもいかない。泣く泣くその一部のみ記すにとどめる。荒井由実(松任谷由実)、細野晴臣、大野真澄、松任谷正隆、加橋かつみ、高橋幸宏、紙ふうせん、雪村いづみ、サーカス、吉田美奈子、ミッキー・カーチス他……。

撮影:三浦憲治

松任谷演出は、あえて総合司会を置かずプレゼンターが次の歌手を紹介する方式を採っている。プレゼンターはまず自分自身とアルファの関係について一席ぶつ。その話がアルファの歴史、日本大衆音楽史の一齣となる。この仕掛けがうまく回転したせいか、コンサートはスムーズに進行する。第1部第2部併せて全体で3時間を超そうかという長丁場にもかかわらず、まったく飽きさせない。

第1部の最初のプレゼンターとして登場するのはユーミンである。彼女はアルファの契約作家第1号だというから、プレゼンターのファースト・バッターとしてこれ以上ふさわしい人はいないだろう。そのユーミンが舞台に呼び込んだのは加橋かつみで、加橋は彼女の作曲した「愛は突然に……」を披露する。ユーミンがシンガー・ソング・ライター以前に作曲家デビューを果たした記念碑的作品である(作詞は加橋)。ブックレット所載の濱田高志の解説によると、作曲したのは14歳のころ、加橋にとり上げてもらったのは17歳のときだそうだ。

あとでユーミンが再登場するときプレゼンターを務めたのは、もとピチカート・ファイヴのヴォーカル野宮真貴。彼女とユーミンの際立ったファッション・センスが無言のうちに火花を散らす。野宮は色っぽいチャイニーズ・ドレス、ユーミンはソフト帽、タキシード風ジャケットというマニッシュないでたちでそれぞれさり気なく決めている。歌は「ひこうき雲」から「中央フリーウェイ」へ。歌の向うに解像度の高い東京郊外の光景が浮かんで見える。

紹介したいエキサイティングな場面の連続でどこにしようか戸惑ってしまうが、絶対に落とすわけにいかないのが当夜の主役村井邦彦の登場シーンだろう。思わず誘い込まれてしまう個所はふたつあって、まずは、ピアノを受け持った村井がイエロー・マジック・オーケストラの代表曲「RYDEEN」を細野晴臣、高橋幸宏とともに演奏する場面である。ラテン調という意表を突いた村井の編曲がいい意味での軽みにあふれ、私たちの胸のうちに心地よいさざ波を巻き起こす。もうひとつ新曲「音楽を信じる」(作詞山上路夫、作曲村井邦彦)が披露される場面にも心揺さぶられた。小坂忠、Asiah親子の歌いぶりのなんと力強いこと!その力強さが曲の内包する強力なメッセージ性と見事に共振し、おのずと私たちを感動に誘い込まずに措かない。すばらしい幕閉めであった(このあとアンコール曲、村井の自作自演による「美しい星」があるけれど)。

このボックスセット『ALFA MUSIC LIVE』は4枚組みでブルーレイ2枚、ライブで歌われた楽曲のオリジナル音源を収録したCD2枚からなる。音楽にのみ集中したい向きは是非こちらで──。

プロフィール

あべ・やすし

1933年生まれ。音楽評論家。慶応大学在学中からフリーランスとして、内外ポピュラーミュージック、ミュージカルなどの批評、コラムを執筆。半世紀以上にわたって、国内で上演されるミュージカルはもとより、ブロードウェイ、ウエストエンドの主要作品を見続けている。主な著書に「VIVA!劇団四季ミュージカル」「ミュージカルにI LOVE YOU」「ミュージカル教室へようこそ!」(日之出出版)。

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