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LOVE PSYCHEDELICOが再確認した曲作りの面白さ「音楽を目一杯楽しまなきゃ」

リアルサウンド

18/12/23(日) 18:00

 LOVE PSYCHEDELICOが、12月5日にクリスマスシングル「Sally」を配信リリースした。今作は、KUMIの結婚、妊娠、出産を経てリリースされた作品。人生の大きな出来事を経験する中で制作された今作だが、改めて音楽を作る喜びを感じる作品になったという。小野田雄が、昨年リリースされたアルバム『LOVE YOUR LOVE』から今作の制作に至るまでの経緯、これからの活動についてじっくりと話を聞いた。(編集部)

音楽はやってくるべき時にやってくる(KUMI) 

ーー今回のクリスマスシングル「Sally」はLOVE PSYCHEDELICOが大きな変化を迎えた作品だと思うんですけど、まず、現時点から昨年7月のアルバム『LOVE YOUR LOVE』を振り返っていただけますか?

NAOKI:今まで出した作品の中で、あのアルバムが一番好きかもしれない。というのも、曲が生まれてから初めて自分たちで手がけたミックス作業を経て、完成するまでに、商品化するための作為性がなく、生まれたままにアウトプットされたような感覚があるんですよ。だから、自分たちにとっては記録としての作品でもあったのかなと思いますね。

KUMI:自然体なんだよね。それでいて音楽的で豊かな作品かな。

NAOKI:その後、新メンバーで臨んだツアーにしてもエンターテインメントを提供するにも関わらず作為的なものがなく、肩の力が抜けた状態で自然と演奏することができたんですよ。それは年齢も関係しているのかもしれないし、自分たちが歩んできた道がそこに連れていってくれたのかもしれないけど、必死で追いかけなくても音楽がどこかにいってしまうことがなくなりましたね。

ーーそのお話を受けると、長く音楽活動していると出てきた音楽をそのまま作品にするのは難しいことなんでしょうか? そして、そもそも、作為性を排除した音楽が音楽本来のあるべき姿なのか? といった問いも浮かんでくるわけですが、そうした点はいかがでしょうか?

NAOKI:そこで目標を立てたり、意識してしまうと、自分たちの活動の仕方をカテゴライズしてしまうことにもなるでしょ?

KUMI:無作為的な音楽こそが素晴らしいということではなく作為的な音楽にも素晴らしいものは沢山あるよね。

NAOKI:コンセプトアルバムという言葉があるくらいですからね。

ーーということは、意図せずして、去年のLOVE PSYCHEDELICOは自然に音楽が生まれる状況にあったということになるんですかね?

KUMI:昨年のアルバムとツアーがたまたま自然に音楽が生まれる状況で単にラッキーだったということではなく、自分たちにとっては非常に大きいことだったんです。

NAOKI:というのも、初期のLOVE PSYCHEDELICOはラッキーなことに、自分たちで何かを考える前に作った音楽を受け入れる周りの状況ができあがってしまって。その後は、例えば、頑張ろうとする前に「頑張ってるね」って言われたり、自分たちと周りの状況にズレが生じて。だから、なんとか音楽が逃げないように、そのズレを合わせようと毎日を生きていたところがあったんですよ。でも、今は朝起きて、すぐ音楽を作ることもあれば、2週間ぶりに連絡を取って、作業したり、状況に関係なく、音楽が常に自分の傍にいる。そういう境地に至ったことは自分たちにとって大きなことでしたね。

KUMI:だから、さっきの質問に答えると、純粋に作為的でない音楽を作るのは以前の自分たちにとっては難しい時もあったんです。

NAOKI:振り返ると、誰も期待なんかしていないのに、期待に応えなきゃって、気負ってしまったり、話し合ったことはないけど、「このリフはイケるんじゃないか」っていうような物差しが2人の心のどこかにあった気もするし、世間に対して、カウンターパンチを打たなきゃと考えていたのかもしれないなって。でも、ここ最近、レコードを聴くのにハマっていて、過去の素晴らしい作品の数々を聴いていると、そんなことは考えずに溢れ出てしまった最高の音楽を納めたレコードが無数にあるんですよ。どうして、こういう日常的な音楽を自分たちには鳴らせないのだろうと、そういうコンプレックスが若い頃の自分たちにはあったんですけど、『LOVE YOUR LOVE』は所謂、気負いから解き放たれたアルバムなんだと思いますね。

ーーそして、昨年末にBILLBOARD LIVEでのアコースティックライブを終え、2018年元旦にKUMIさんのご結婚の発表、その後、妊娠、出産という人生における大きな出来事が続いたわけですが、LOVE PSYCHEDELICOのその後の音楽活動に関してはどのようなことを考えていましたか?

NAOKI:いつものようにすぐに音楽を作れる状況ではなかったんですけど、『LOVE YOUR LOVE』で日常的な音楽を手に入れたわけだから、慌てて何かを計画したり、作為的に動く必要もなく……。

KUMI:だから、次はどうしよう? って、考えてはいなかった。また、音楽はやってくるべき時にやってくるんだろうなという気持ちでいたら、その通りに今回の曲「Sally」ができたという。できたというか、今回はNAOKIが書いたんですけど(笑)。

ーー出産を経験したことで、音楽の捉え方や心境に変化はありますか?

KUMI:私にとっては地続きの出来事なので、変化は意識しにくかったりもするんですけど……これまでは、音楽をやる時には何かを求めていたし、何かしなきゃって思いもあったんですけど、出産を経験してみて、ああ、これでよかったんだって思ったかな(笑)。作品を作ることやコンサートをすることにはある種の達成感というものがあって、一つ生み出しては、一つ終えてという繰り返しだったように思うんですが、出産というのは我が子の存在や自分の存在が丸ごと肯定されてそれがずっと続いていく感じかな。子供が生まれてからは当然物理的には音楽に向き合う時間は減るんですけど、LOVE PSYCHEDELICOは私一人ではなくNAOKIというパートナーがいて、時間がなければないなりの音楽の作り方でやり方でやろうと。

NAOKI:例えば、「この曲のこの部分にマンドリンを入れようと思うんだけど……」っていう話になった時、どういうニュアンスの演奏、どういう録音の仕方をすればいいかをKUMIはよく分かっているから、以前だったら一緒に演奏したり、作業したりするところを俺に任せてくれたり。それによって曲の仕上がりが変わるかといったら、変わらないんですよね。

KUMI:そして、時間が取れたら、スタジオに足を運んで、確認してみると、思った通りの音が録れているし、そういう意味でストレスを感じることは今のところ全くないかな。

NAOKI:今回の曲を聴いたら、作り方は変わっても、LOVE PSYCHEDELICOの音楽になっているでしょ?

ーーNAOKIさんのソロ作品にはなっていませんし、確かにその通りですね。

KUMI:不思議だね。

LOVE PSYCHEDELICO – Sally(Short Ver.)/span>

自分たちのポップ感覚がそのまま曲に表れている(NAOKI) 

ーーちなみにKUMIさんの産休の間にNAOKIさんはどういう活動をされていたんですか?

NAOKI:2018年の7、8、9月はプロデューサーの仕事をしていたんですけど、実はそれと並行して、今のKUMIはどんな音を鳴らしたいんだろう? そして、どういう音の中で泳ぎたいんだろう? ということを考えながら、今のKUMIにしか歌えない歌を聴きたいというテーマのもと、曲を作ってましたね。結果的にはKUMIが動けない間もLOVE PSYCHEDELICOをやっていたという(笑)。そして、何曲も書いたなかで、一番いまのKUMIにフィットするだろうとあたためていたのが今回の曲の前半部分なんですよ。

ーーその曲が発展して今回のクリスマスソング「Sally」に結実した、と。しかし、今までのLOVE PSYCHEDELICOは、今回のようにパーソナルな、プライベートな出来事を直接的な形で曲や作品に結びつけることは非常に少なかったと思うんですよ。

NAOKI:結成から20年以上、なによりも音楽を第一に届けるべく活動してきたこともあって、そういうプライベートな曲を発表したところで、LOVE PSYCHEDELICOのスタンスが変わらないことはさすがに分かってもらえるんじゃないかなって。

KUMI:今回の曲「Sally」はプライベートなことを題材にしているけど、もともと私が子供を授かったお祝いにとNAOKIがプレゼントしてくれたものだったんです。そしたら、それがとても素敵な曲だったので世の中に届けたいと思ったんです。曲の題材こそパーソナルだけど、曲そのものは誰にでも通ずる普遍性を持っていると感じたので。

ーーよく分かります。

NAOKI:最初はパーソナルな感じでさらっと生み出したものがアウトプットする瞬間にはみんなの歌になっているっていう。今回の曲も最終的には世の中のみんなの日常を称える曲になっているんじゃないかな。そこにはもちろん、KUMIが出産を通じて経験した命の尊さに対する実感も含まれているんだけど、曲とそこに込められた気持ちは、世の中、捨てたもんじゃないよねっていう祝福感に結びついているなって。

KUMI:だから、自分たちのなかでこの曲は大きな挑戦だとは思っていなかったんですけど、こうして変化していっているのかもしれないね。

NAOKI:完成した曲がこれから世に出ていって、自分たちの考えと違った受け止め方をするのかどうなのか。それは分からないけど、クリスマスソングとしてもらえば、それでいいかなって。

ーーそして、この曲が素晴らしいところは、元々の成り立ちがパーソナルな曲ということもあり、パーティソングでもなければ、クリスマスにまつわるラブソングでもない、生命の誕生と重ねられた誰の日常にも訪れるささやかな幸せを祝福している曲であるところだなと思います。

NAOKI:そう言ってもらえて、うれしいですね。あと、全然、商業的じゃないクリスマスソングだよね?

ーー曲そのものはじんわりと始まりますし、確かにギラギラしたものは感じないですね(笑)。むしろ、職権乱用で聴かせていただいた途中段階の曲は、「きよしこの夜」の旋律を弾くマンドリンや散りばめられたコーラスが高揚感が生む後半パートも存在していませんでしたし、シングルらしくない、あまりに素朴でシンプルな曲の佇まいに驚かされました。

NAOKI:びっくりしたでしょ?(笑)。それが作っているうちに発展していって、最終的な曲の展開は自分の中ではプログレなんだよね(笑)。自分たちが持っていて消えることがない本来のポップ感覚はそのまま曲に表れていると思うんですけど、ここ数年、ラジオ番組で様々な曲をかけたり、レコードにハマったりしているうちに、乱暴な言い方をすると、ロックンロールもプログレもヘビメタも大差ないなって思うようになったし、ルールを取っ払ったら、こういうプログレッシヴな曲が生まれたんですよ。

ーーこの曲のオルガンは教会音楽のようですし、ギターワークはクラシカル、マンドリンはアイルランド音楽のようだったり、多彩な音楽要素が不思議な一体感、高揚感を生み出していますし、今回の歌詞はNAOKIさんが単独で書かれたんですよね?

NAOKI:そう。自分はKUMIの立場に立つことができないから、男性である自分が想像で書いた、ある種のフィクションなんですよ。でも、それによって、男性も入りやすい曲になっているんじゃないかなと思いますね。

KUMI:もちろん、NAOKIから曲を受け取った後、自分が歌うにあたって、NAOKIの言葉で言うところの“みんなのうた”にするために手を加えているので、誰もが聴きやすい曲になっている……といいな(笑)。

ーーあと、曲の話から少し離れますが、NAOKIさんはここ最近、Twitterで頻繁につぶやいていらっしゃるじゃないですか? 音楽そのものをなにより最初に届けるべく2人のパーソナリティを前面に出すことがなかったLOVE PSYCHEDELICOのこれまでを考えるとこれまた大きな変化ですよね。

NAOKI:俺はそこまで考えてTwitterをやってるわけじゃないですけどね(笑)。

ーーそうだったとしても、自分たちのパーソナルな部分を明かしてこなかったNAOKIさんが朝から晩まで、いま何をやっているのか、ツイートしているわけですから、結果的には大きな変化だと思うんですよ。

NAOKI:ホントだよね(笑)。何でなんだろうな? Twitterは、自分達が喋っているラジオ番組のスタッフから「NAOKIさんも始めなよ」って言われて、その場で始めたのがきっかけなんですけど、まぁ、この歳になって、格好つけてもしょうがないというか……。

ーーアルバム『LOVE YOUR LOVE』で日常と共にある音楽をそのまま形にできたことが何か心境の変化に繋がったとか?

NAOKI:あ、そうか。格好つけてもしょうがないというのは言い方を変えれば、ありのままの日常ということですもんね。この秋、頻繁にツイートしていたのはレコーディングのことがほとんどというか、まぁ、それは日常がレコーディング漬けということでもあるんですけど(笑)、Twitterがない時代、例えば「今からピアノ録るよ」とみんなに伝える手段がなかったじゃないですか。だから、どんな感じでピアノを録っていたかは知る由もなかったんですけど、今は伝えようと思ったらリアルタイムで伝えることができるでしょ。なおかつ、今の時代、音楽が氾濫しているなか、作品についての情報をよく知らないまま、配信で聴かれるようになっているわけで、ものを作る、ものが作られる面白さ込みで作品を聴いてもらうのも面白いんじゃないかなって。だから、例えば、シンバルだけをセッティングして、そこにマイクを立てて録音している様子を写真付きで紹介したり、それによって、曲を聴く時に「ここで鳴ってるシンバルはあの写真に写ってたやつかな?」とか、イメージしながら聴けるでしょ。それがいいか悪いかは分からないし、そのバランスは難しいところですけど、聴く人が“音楽制作って面白いかもしれない”と思ってくれたらいいなって、そういうことはほんのちょっとだけ考えました。

ーーLOVE PSYCHEDELICOの音楽はバンドの一発録りではなく、130トラック以上の気の遠くなるような多重録音の末に生まれているものですからね。

NAOKI:そう。マンドリンを何日もかけて録っていることが分かれば、何でそんなに何日もかけてマンドリンを録ってるんだろう?と思うでしょうし、それを踏まえて、曲を聴けば、なるほど、こんな感じで多重録音しているんだなって分かるでしょうし。

ーー音楽が溢れている今、音楽は一つの情報ではなく、気の遠くなる作業を経て、生まれる血の通ったものだと、改めて考えるいい機会にもなるでしょうからね。

NAOKI:そうなるといいですね。それからLOVE PSYCHEDELICOとしては、意図せずして今までとは成り立ちが異なる今回の曲ができたことで、一層、曲を作るのが楽しみになってきたんです。

KUMI:ね。

NAOKI:実は来年も再来年もオリジナルアルバムを発表しようと張り切っているんだけど、レコード会社の皆さんは“ふーん、楽しみー”って感じで、誰も信じてくれないんですよ(笑)。

KUMI:そう言えば、ちょっと前にNAOKIがすごい大発見したかのように“これからはさ、アルバムを2年に1枚出すといいと思うんだよね”って打ち合わせで言ってたじゃない? いや、それはみんな思っているんだけど(笑)。さぁ、どうなることやら。

NAOKI:まぁ、残りの人生もそんなに長くないかもしれないからね(笑)。だから、2019年はアコースティックツアーもやるし、アルバムも生きているうちじゃないと作れないから、音楽を目一杯楽しまなきゃね。

KUMI:うん、楽しもう(笑)。

(取材・文=小野田雄)

■リリース情報
「Sally」
発売:2018年12月5日(水)
DLはこちら

■ライブ情報
『LOVE PSYCHEDELICO Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019』
5月26日(日) 横浜・LANDMARK HALL
5月30日(木) 広島・JMSアステールプラザ中ホール
5月31日(金) 倉敷・倉敷市芸文館
6月13日(木) 新潟・新潟市音楽文化会館
6月21日(金) 札幌・道新ホール
6月26日(水) 名古屋・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
7月3日(水) 松山・松山市民会館 中ホール
7月4日(木) 高知・高知県立美術館ホール
7月15日(月/祝) 仙台・トークネットホール仙台(仙台市民会館) 小ホール
7月19日(金) 金沢・金沢市文化ホール
7月23日(火) 大阪・サンケイホールブリーゼ
7月24日(水) 大阪・サンケイホールブリーゼ
8月3日(土) 福岡・福岡国際会議場
8月4日(日) 大分・コンパルホール
8月30日(金) 熊本・くまもと森都心プラザ プラザホール
9月13日(金) 福島・福島テルサ FTホール
9月17日(火) 高松・サンポートホール高松 第1小ホール
9月24日(火) 東京・EX THEATER ROPPONGI
9月25日(水) 東京・EX THEATER ROPPONGI
9月29日(日) 浜松・アクトシティ浜松 中ホール

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