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アニメ化控えて最新刊がランク入り 『86-エイティシックス-』シリーズの魅力とは?

リアルサウンド

21/2/19(金) 9:00

本 ライトノベル 週間ランキング(2021年2月8日~2021年2月14日・Rakutenブックス調べ)

1位『薬屋のひとりごと 10(ヒーロー文庫)』日向夏、しのとうこ 主婦の友社

2位『ソードアート・オンライン プログレッシブ 7(電撃文庫)』川原礫、abec KADOKAWA
3位『りゅうおうのおしごと! 14(GA文庫)』白鳥士郎、しらび SBクリエイティブ
4位『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編 4(MF文庫J)』衣笠彰梧、トモセシュンサク KADOKAWA
5位『神様の御用人 10(メディアワークス文庫)』浅葉なつ KADOKAWA
6位『転生したらスライムだった件 18(GCノベルズ)』伏瀬、みっつばー マイクロマガジン社
7位『転生したらスライムだった件 18 特製ミニ画集付特装版』 マイクロマガジン社
8位『誰かこの状況を説明してください! 〜契約から始まるウェディング〜 5(アリアンローズコミックス)』木野咲カズラ、徒然花 フロンティアワークス
9位『86-エイティシックスーEp.9 -ヴァルキリィ・ハズ・ランデッドー(9)(電撃文庫)』安里アサト、しらび KADOKAWA
10位『わたしの幸せな結婚 四(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/

 Rakutenブックスの週間ライトノベルランキング(2021年2月8日~14日)は、人気シリーズの新刊が上位にそろい踏み。1位の日向夏『薬屋のひとりごと 10』(ヒーロー文庫)は、人さらいに遭って後宮に売り飛ばされながらも、持ち前の薬学の知識で謎解きや人助けに大活躍する少女・猫猫を主人公にしたシリーズ最新刊。すでに後宮から解放され、医官手伝いとして後宮に出入りするようになった猫猫が、再び西都へと赴いてバッタの大群に農作物が荒らされる大蝗害に立ち向かう。

 3位は、藤井聡太二冠の大活躍を予言したと評判になった、白鳥士郎による将棋ラノベの最新刊『りゅうおうのおしごと14』(GA文庫)。将棋のプロ棋士4段に女性で初めて昇段した空銀子が、弟弟子ながら中学生でプロ棋士となり、史上最年少で竜王位を獲得した九頭竜八一との関係を深めていくかと思いきや、2人の師匠から恋愛禁止の厳命が下る。銀子も八一の弟子で小学生女子の雛鶴あいも、大きな壁にぶつかり乗り越えようとして八一から遠ざかる。ロリとツンデレが激突する三角関係ラブコメという要素が薄れ、衝撃展開で幕を開けた最終章が向かう先が、怖いと同時に楽しみだ。

 ワールドクラスの人気を誇る川原礫〈ソードアート・オンライン〉シリーズの最新刊『ソードアート・オンライン プログレッシブ7』(電撃文庫)が2位、2年生編でも快調に策謀を巡らせる天才の暗躍を描くトモセシュンサクのシリーズ最新刊『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編4』(MF文庫J)が4位と、刊行予定の作品も並んだ今回のランキングで注目したいのが、9位に入った安里アサトによる『86-エイティシックス-Ep.9 -ヴァルキリィ・ハズ・ランデッド-』(電撃文庫)だ。

 〈86-エイティシックス-〉シリーズは、第23回電撃小説大賞の大賞となった『86-エイティシックス-』から始まった、ミリタリーとSFが融合したライトノベル作品だ。完全自立無人戦闘機械〈レギオン〉を前線に立てて攻め込んできたギアーデ帝国に対し、サンマグノリア共和国では、人権を奪って「エイティシックス(86)」とだけ呼ぶようにした有色人種を、収容所に入れ兵士として徴用しては〈レギオン〉に立ち向かわせていた。

 共和国は、「86」たちが前線で駆っては〈レギオン〉に撃破され戦死しているにも関わらず、戦場で戦っているのは無人機だと国民に伝えていた。なんという非道。物語では、開戦から9年経って親の世代も青年の世代もすでに死に、今は徴用された「86」の少年少女たちが、最前線で〈ジャガーノート〉と名付けられた兵器に乗り込み、押し寄せる帝国の無人兵器と戦っていた。

 主人公のシンもその中にいた。死者の声が聞こえる特殊な能力を持っていたシンは、どれだけ苛烈な戦場からも生き残って帰って来ることから“死神”と呼ばれるようになっていた。そんなシンと同じ境遇にある仲間の少年少女たち、そして、共和国にありながらシンたち「86」に共感を抱いたレーナという名の元貴族の少女の交流があり、全滅必至の戦場に送り込まれたシンたちの戦いがあった先で、〈レギオン〉の恐るべき“進化”が判明する。

 テレビアニメ『新造人間キャシャーン』で、人間によって開発されたロボットが暴走し、戦闘ロボット軍団を組織して人類を相手に戦いを仕掛けてきたような設定と言えば、分かる人には分かるだろうか。分断と差別を続ける人類の愚かさを描き、AIの悲劇的な将来を描くSFラノベとして、『86-エイティシックス-』は刊行時から注目を集めた。

 ギアーデ帝国では革命が起こってギアーデ連邦となり、サンマグノリア共和国は〈レギオン〉に敗北したものの戦争は終わらず、国vs国から人類vs〈レギオン〉へと移行する。連邦に逃れたシンたちは、戦いばかりだった生活から抜けるチャンスを得ながら他に道はないと戦場に戻り、知性を得て思考力も付け強さを増す〈レギオン〉を相手に様々な作戦をこなしていく。魅力的なメカや強力な銃器がふんだんに登場して、スリリングなバトルを繰り広げる展開に、ミリタリーSFとしての楽しみも味わえるシリーズでもある。

 最新刊『86-エイティシックス-Ep.9 -ヴァルキリィ・ハズ・ランデッド-』では、「86」たちに感じた理不尽さが蘇ってくる衝撃的な描写が繰り出される。ノイリャナルセ聖教国とともに戦場に赴くことになったシンたちが、〈レギオン〉と戦っているまさにその時、聖教国軍を指揮する少女が裏切りともとれる行為でシンたちに決断を迫る。

 生まれた家によって就く仕事が決まっている聖教国では、軍人や兵士もずっと同じ家系から出ていたが、長引く〈レギオン〉との戦いは、戦う者たちの数を減らし続け、もはや幼児であっても戦場に立つことが求められる苛烈な状況にあった。無人機と称するマシンに「86」が乗せられていたのと同じ残酷な境遇だが、シンたちと違うのは、そうした運命でも、信仰の中で尊いことだと思わされていた点だ。

 聖教国の兵士たちは当たり前のように戦場に赴き、散っていく。唯一の戦える身分だったが故に栄誉が与えられていたからだが、そんな栄誉が無意味だったと思わされる方針転換があった時、それでも聖教国の兵士たちは死の恐怖に打ち勝って、命を散らせただろうか。狂信の行き場を外されたが故に浮かぶ戸惑い。それは、シンや仲間たちが戦うことだけを人生のすべてにしてきた状況から抜けられず、戦場に戻ったことに重なる。働き盛りでリストラを食らった人が陥る空虚感にも。

 名誉だから、任務だから、仕事だからと人生のすべてをかけてきたものが奪われ、空虚な気持ちや裏切られたという思いを抱きたくないからと、奴隷のような境遇に浸り続けることなど論外だと言い切れるのか。言い切るなら、代わりに何を人生の糧として求めていけばいいのか。そんな模索がこれから進んでいくのだろう。続く物語に期待しつつ、4月からスタートするテレビアニメでは、シリーズを改めて追いながら、映像として繰り広げられる戦闘シーンの迫力や、シンのクールさ、レーナの高潔さを楽しみたい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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